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図書館の呪術

ようやく、ようやく見つけた図書館!

あると思ってたんだよー。なぜこんな離れた場所に……。しかも蔦が絡まるその外観は森に溶け込み見つけづらかった。


そう、図書館は私のソウルプレイス。悪口も言われない卵も投げられないこの場所に何度もお世話になったな。きっとこの学園でもたくさん通うことになりそう。


私が読むのはもっぱら小説で、恋愛だったり冒険だったり。知らない世界がたくさんあって、うらやましかったり怖かったりいろんなワクワクする気持ちに私にもこんな生活できるかなんて夢見た頃もあったなあ。

本の中で世界が滅びそうになっているんだからそれに比べたら私の小学校(ボードスクール)での些細な諍いなんて大したことないよねって我慢してたら、その学校は私が原因で閉校になっちゃったなんてこともあったなあ。


扉を開けるといたるところに本がある! すごい中まで本でびっしり! この独特のインクの匂いも私は大好き。あー、落ち着くなあ。

早速この前の授業で副読本として紹介されていた本を探して手に取る。今読みたい、すぐ読みたい。席に座ろうと椅子を引いた。


「そこ、座らないでくださる?」


燃えるような赤毛の令嬢が静かに冷たく言った。


「すみません」


指定席だったのかな?

少し離れたテーブルに空きを見つけてそちらへ移動しようとした。


「あちらもご遠慮してくださる?」


目線も合わせずに黒髪の令嬢に断られた。

ほかに座っている方も笑いもせず何も言わずに本を読んでいる。こちらは見ていない。けれど拒絶の空気を感じて、私は、どの席にも座ることができなかった。大丈夫こういうことはよくあったことだ。そしたら次は。


「よかったらこっちに」

「結構です」


こういうチャンスを狙って声をかけてくる男子生徒を無視して私はこの本が置いてある書架へ戻った。

こうして断っているところも見てくれるといいんだけど、無理だよね。


私は書架の間立って本を読む。手がプルプルするくらいの重い本。

さざ波みたいな笑い声が近付いたり遠ざかったり。


笑われていい。私はこの本が読みたいんだから。……でも、ちょっと、鈍器になりそうなこの本は読みきれないかなって。素直に最初から借りればよかったかな。大人しくカウンターに向かおう。


「貸し出しはできません」


貸し出し受付らしきところに貸し出ししようとする人がいたのでそっと並んで手続きの様子を観察しながら自分の番になって受付さんに拒絶される。


「学園外に持ち出すことはできません。あなた、通学生徒でしょ?」


図書館の受付まで私のことが知られているとは。


ということで、本を借りれない私はこっそり栞を挟んで借りずに読み続けた。

図書館へ向かうたびに本が借りられてしまってないか、栞の位置がずらされるなんてことになってやしないか心配だったけど、なんとかここまで読み進められた。


海洋学の歴史の本だけれど初心者向けだし、物語調でとても面白い。ただ、重い……。

手近な梯子、これになら腰掛けてもいいよね。このあたりに人はいないし。

時代は大航海時代に様々な無謀から新しい船舶技術が生まれて世界の広さが変わったところ。読んでいてワクワクする。港町。行ってみたい。

海辺の人たちは気さくでおおらかな人が多いって聞いた。ひょっとしたら私でもうまくやっていけるかも……。


「そこ、いいかな?」


私が座っている梯子の上に人がいたなんて気がつかなかった。座ってから結構時間が経ってしまったけど、どのくらいそうさせてしまったんだろう……。申し訳ない。


「座って読めばいいのに」


梯子から降りてきた彼は栗色のサラサラな髪を揺らして柔らかく微笑んだ。綺麗な髪にばかり目がいってしまったけれどお顔も美しいし華奢ではあるけど私より背も高い。でも威圧感はなくて、ほんとなんか不思議な感じ。微笑んではいるんだけどだけどなんか……。


「いえ、もう帰りますから」

「随分長い時間読んでいたようだけど?」


威嚇、これって威嚇? とにかく謝ってとっとと逃げてしまおう。冷たくしておいて優しくするっていう1人飴と鞭戦法で私に寄って来る人がいたな。小説のタイトルから『ハイド氏』って呼んでたけどなんか難儀な方なんだなって感じだったな。この人もそういう感じ? でも本当にぱっと見は優しそうなとてもご友人が多そうないい人という感じで。でもこういう人が豹変するところを見てきた私としてはちょっとやっぱり気をつけるべき人。

私はとにかく急いで本を戻してお辞儀をして走らないように急ぎ足で離れた。


「あ、君は借りられないのか」


私のことをご存知のようだ。思わず溢れる優しさに騙されそうになったけれどもこういう人にこそ気をつけなくちゃ。

本を戻して帰ろうとすると彼も付いてくる。私の本を手に。

いえ、これはたまたま向かう方向が一緒なだけで全然知り合いでもなんでもないんですよー。って心で叫んでも伝わるはずもなく、なんかすっごい殺されそうな目で見られている。違うんです、違うんです。


結局私の読んでいた本は借りられてしまったようだ。続き、読みたかったな。

しょうがない。(私以外)貸し出し自由なんだから、こんな風に私が呼んでいる途中なんて関係ない。

帰るために正門へ向かい歩き出す。あ、なんか私思っているより落ち込んでるみたい。


しょぼしょぼ歩いていたらあの本が目の前に現れた。

「はい」


先ほどの威嚇茶髪さんだ。にっこりと微笑んで私の呼んでいた本を、そして彼が借りた本を差し出している。

こういうのは断固としてノーと言わなければいけないんだけど、だけど、でも、本の続き書きになるのも事実。どうしよう。

そんな私の逡巡を見抜いたのか。


「せっかくだから座ってじっくり読んだら?」

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