2話
朝から登校するなんて諭吉5枚くれなきゃヤダ!とか前まで思っていたけど、眠そうに目がトローンってなっている和を見て、もう遅刻なんてしない!って思っています、今。
『吸引力がただ1つのあくび』ってキャッチコピーが付きそうなくらいの大きなあくびをしている横顔見れて、ああ幸せって思っています、今。
要するに彼は眠たいんだと思います、はい。
「あ、昨日ね、頑張って絵描いたんだ。見て!」
和がそう言って、リュックからスケッチブックを取り出した。
見せてくれたページには、多分一生懸命クレヨンで描いたであろう絵…があった。
うん、絵描いたんだって言ったのだから、絵を描いたのだろう。…絵?間違った、え?
「右利きの小学生が左手で描いたような犬だね」
「あーちょっと惜しい!これはね、チベットスナギツネ!」
「へー普通のキツネじゃダメなの?」
「ここの目のあたりとか、すごいチベットスナギツネなんだけど」
「…そこ、目だったんだ」
小さい頃から和は壊滅的に下手だ。しかも本人はそれを自覚していない。でも絵を描くのが好きだから描き続けるという悪循環。
…和がそれでいいなら、それでいいやと思うことにしよう。
話しているうちに、学校に着いた。
和は私よりも頭が良いから、同じ学校に入るのにはだいぶ苦労した。去年の冬は大好きな漫画もアニメもゲームも全部封印して、勉強に時間を費やした。
結果、和と同じ学校に入ることができたし、近い学力の人が多いから私の苦手な“廊下でギャーギャー走り回る人”とかがいなくて安心だ。
おかげで、幼稚園から中学校までまともに喋れる相手が和しかいなかった私にも、友達ができた。
「あ、清夏おはよ!白無くんも!」
「おはよう」
「おはよ〜」
霧野飛鳥ちゃん。席が前後で仲良くなって知ったのは、少年漫画の方が好きな私とは対照で、少女漫画が好きとのこと。見た目も少女漫画から飛び出してきたかのような美少女っぷり。
そして、唯一私が片想いしていることを知っている人物である。
「1週間ぶりくらいにちゃんと登校したと思ったら、白無くんが一緒だったんだね。ほ〜」
「たまたまだよ。マンション同じだもん」
「それが羨ましいんだよ!だってほら、小さい頃からずっと一緒で、家も近いなんてさ、まさに少女漫画によくある設定じゃん!絶対前までただの幼馴染だと思っていたのに、男らしい部分見ちゃって意識しまくってドキドキしちゃうやつじゃん!でも、男の方は前からずっと主人公を女として見てたってやつじゃん!」
「飛鳥、声デカイよ〜!あと行使いすぎだよ〜!」
飛鳥は可愛いからモテるけど、ただ告白されて付き合うのではなく、少女漫画のようなシチュエーションを経験してから付き合いたいらしい。
「もうすぐクリスマスだしさ、勇気出して誘ってみたら?」
「…誘ってみても、どうせ私のことなんか今更意識しないよ」
絵を描いて集中している時以外ヘラヘラしてて、何考えているかあんまり分からないし、私っていうかそもそも女の子自体に興味が無さそう。
今まで好きな子できたとか彼女いたとか聞いたことがない。
「も〜!いつまで経ってもそんなんじゃ、ポッと出の女の子に奪われるよ。和くんみたいなタイプは、絶対ザ・女の子って感じの子とくっつくんだから」
この時私は、飛鳥のこの言葉をあまり深く受け止めなかった。