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ボーイ・ミーツ・ギャンブリングガール  作者: 吟野慶隆
拳銃ジャンケン 編
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第八話 リプレシイズ

 一〇〇万円なんかより、命だ、命が惜しい。そう考え、松久は廃別荘から出るべく、トンネルに入ろうとした。

 途端に、ばばばばばばばば、という、連続した破裂音が聞こえた。

(なっ、なんだ今の──銃声か?!)

 しかし、明らかに、今までのものとは違っていた。提婆が連射した、とも考えられるが、それにしては音の間隔が短すぎる。

(な、なんにせよ、逃げなければ──)

 松久はトンネルを通り、廃別荘の外に出た。そのまま、門をくぐろうとする。

「止まりなさい!」

 小秋の声が、耳を劈いた。思わず、言われたとおりに、立ち止まってしまう。聞こえてきたほうに、視線を向けた。

 両手を挙げた提婆と、彼の背中にアサルトライフルを突きつけている小秋が、目に入った。

「やった!」松久はガッツポーズをした。「勝ったんだな!」

「ええ、そうよ。だから早く、中庭に戻って」

 これで予定どおり、報酬の一〇〇万円をもらえる。松久は安堵と高揚を味わいながら、トンネルをくぐり、羅針盤の近くに立った。

(さっきのギャンブル前に、小秋が言っていた「忘れ物」ってのは、あの、アサルトライフルのことだろう。旅富への牽制に使うつもりだったはずだ)

 そして今回、提婆に裏切られ、銃撃戦になった。そこで、急いで取りに行ったのだ。

(アクション映画の主人公じゃあるまいし、拳銃一つでアサルトライフルに対抗しようとは、さすがの提婆も思わなかったに違いねえ。戦意を喪失し、諸手を挙げたっていうわけだ)

「よくも、裏切ってくれたわね」

 トンネルを出てきた小秋は、提婆を睨みつけていた。顔立ちが整っているおかげで、とても迫力がある。

「悪かったっすよ……」

 提婆は、眉間にシワを寄せていた。申し訳ないと思っている、というより、単にふてぶてしいだけのように見える。

(柚田は、不殺主義者を自称しているからな……殺されない、とでも思っているのかもしれない。実際、手を下すつもりなら、すでに息の根を止めているだろうし)

「つい魔が差しちゃって……金は要らないっすから、見逃してくれないっすか?」

 二人は、松久のいるところまで近づいてきた。小秋は、落ちたボストンバッグのほうに目を遣り、いっそう眉を顰めた後、舌打ちした。

「ほらっ、そこに立ちなさいっ!」

 そう言い、提婆の背中を銃口で突く。彼は舌打ちすると、羅針盤を挟んで、松久の反対側に立った。

 小秋は、ボストンバッグを足で引き寄せると、アサルトライフルを彼に向けたまま、ごそごそ、と中を探った。そして、廃別荘へ戻ってきた時に、提婆が返却したリボルバーを、左手で取り出す。

 それを、彼に向けると、トリガーに指をかけた。

「ちょっ、うわっ──」

 松久は慌てて、その場から逃げた。流れ弾にでも当たったら、たまったものではない。耳を塞ぎ、目を瞑る。

 しかし、いつまで経っても、銃声は聞こえなかった。おそるおそる瞼を開き、様子を窺う。

 小秋は、トリガーにかけた指を、力一杯に引いているようだった。しかし、引き金はぴくりともしない。

「やっぱり……モデルガンなのね、これ」小秋はそのリボルバーを、じろじろ、と眺めた。「手袋をしていないほうの手で掴むと……本物との触感の違いが、分かるわ」

「そっくりっしょ」にやり、と笑って、提婆が言った。「ウェイトも、最初は足りなかったから、同じになるよう、調整したっすからねえ」

(……そうか。こいつは、彼女を油断させるために、あらかじめ、偽のリボルバーを返却したんだ。見た目も、重さも、手袋をはめているほうで受け取らせたため、触感も、上手く誤魔化せた)

 次の瞬間、小秋は大きく振りかぶると、モデルガンを、提婆めがけて投げつけた。模型の拳銃は、彼の股間に命中した。

「うぎゃあっ!」

 提婆はそう叫び、白目を剥いてへたり込んだ。

「さっさと立って、後ろを向きなさい。殺すわよ」

 提婆は、性器を押さえ、内股になって立つ羽目になった。

「馬鹿野郎が」松久は中指を立てた。「裏切ったりなんかするからだよ」

 小秋は、きっ、と彼を睨んだ。「何、調子こいてんのよ」

「はっ?」

「はじゃないわよ。あなたもこっちに来て、後ろを向きなさい!」小秋はそう叫び、松久にアサルトライフルを向けた。

「んなっ?!」彼は思わず、両手を挙げた。「ちょっ、待っ……俺は何も──裏切ってなんかいねえぞ?!」

「信用できないわ!」小秋は叫び返した。「たまたま、提婆君が先に行動しただけで、もしかしたらあなたも、私を殺すつもりだったかもしれないでしょう! いや、実際、さっきの銃撃戦に乗じて、こっそり一人で、私を襲う機会を狙っていたのかもしれない……提婆君に、裏切られた以上──仲間なんて、誰一人として、信用できないわ!」

「そ、そんなこと──」

「うるさいわね!」小秋は空に向かって、ばばばばば、と発砲した。「いいから、さっさと来なさいよっ!」

 松久は急いで羅針盤のオブジェのところまで行き、提婆とは反対側に立った。彼のほうを向き、「てめえふざけんなよっ!」と、唾を飛ばして怒鳴る。

「何してんのよ! 早く後ろを向いて!」

 松久は慌てて、後ろを向いた。心の中で、提婆を罵倒し続ける。

「さて……二人とも、どうしてやりましょうか」

 小秋の、そんな声が、背後から聞こえてきた。

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