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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
99/150

97 その姿はまさに……


 息がしづらく感じるのは、空気が薄いとか、そもそもないんじゃないかとか、そういうことが原因じゃない。


 顔を真上に向けて見上げるほど巨大な体躯、一羽ばたきすれば世界中の木々をザワつかせそうな力強い翼、こちらを射抜く鋭い眼光と尖った(くちばし)は猛禽類のそれだ。


 掴まれたら最後だって確信できる鍵爪が並ぶ前足は、ここが安定とはかけ離れた樹冠の上だってことをもしかしてお忘れになられてます? ってくらい、枝を地面としてしっかり踏みしめているように見える。


 ――グリフォン。


 無理矢理、元の世界の知識に当てはめるなら、そう呼ぶことができるかもしれない。


 すべてが引き込まれていくような存在感。空気も意識も、その存在の前で動きを止めて(こうべ)を垂れ、許しがあるまで微動だにせず待ち続ける。


 人族とは明らかに生物としてのステージが違う存在。自分が知っている動物の特徴を持っているから生き物っぽく見えているけど、そもそもワタシたちが理解している生き物というものにカテゴライズされるかすら怪しい。


 むしろ、初めてアーセムを目にしたときみたいに、非現実的なものが圧倒的なリアリティをもって迫ってくる。


 これこそが幻想……ファンタジーだと、突きつけられてるみたいだ。


 ワタシは、この感覚に近いものを感じたことがあった。


(やっぱり……ショタってるだけじゃあなかったんだな……)


 むしろリアルに無残にも忙殺されて夢とか希望とか、ファンタジーにつながりそうなものがすべて滅殺(めっさつ)され切った『俺』の部屋で、古池屋のポテチを片手にしながら同等以上の格を見せつけてきたあの自称神様の方が見方によっては凄まじいのかもしれない。


(……次に会ったときはカルヴィーのコンソメフックもつけよう)


 まぁでも、どっちがよりファンタジックに大きいかなんて小さいことだ。


 この事態が大きく見えるのは、ワタシがそれ以上に小さい存在っていうだけですから。矮小な我が身からすれば顕微鏡の中のミジンコでさえ偉大過ぎて泣けてくるってもんですよ。


(でもさ。自分が小さいほど……、世界はでっかく広がっていくんだぜ?)


 踏み潰される未来は変わんねぇんだけどな!


「黙っていては分からんぞ?」


「ひゃいッ!」


 グリフォンさん(仮称)が、グッと首をワタシに向けて伸ばしてくる。


 たったそれだけの行動なのに、ワタシのクソ雑魚メンタルは悲鳴を上げずにいられない。


 くっ、これ以上の現実逃避は無理か!


 し、しかし、こんな特大の幻想(ファンタジー)という現実に真っ正面から向かい合っては、ワタシの身体がもたない! 今でも尿道が崩壊しいていないが不思議なくらいなのに!


 ……ど、どうすればええんやッ!?


 元の世界の同じ人間同士でも話題のスタート地点が迷子になりがちで、「あ、あの……、好きなものとかってありますかね?」みたいに、会話の方向性まで破壊する話音痴なワタシという存在には、壁が高くて厚くて見たまんまって感じ。


 ――たとえ言葉が通じても、話まで通じるなんて思わないでよねッ!


 あっ、でも、元の世界で『俺』だった頃から犬と話すのは得意だったんですぜ?


 何せアイツら、こっちが何を話しても一切返してこないぐらい聞き上手ですからね。ついつい喋りすぎて、いつの間にか回りから人が一人もいなくなってるなんてこともあるくらい。


 ふふふ、昔から犬の素養が満点だったってことですね。


「確か……そう、トイディ。あの方は其方(そなた)を、そう名づけたとおしゃっていたが」


「……へっ? あ、あの神、様? と、お知り合い……なんですか?」


 グリフォンさんが瞳を閉じながら、大きく頷いた。そして、瞳を閉じたまま、人とは何もかも違うから定かではないけど、どこか楽しそうに、まるで極上の美酒を反芻(はんすう)しているみたいに、愉快そうに身体を揺らした。


「知らぬはずもない。あの方から直々に、其方が此方(こなた)の元を訪れるとお達しを受けたのだ。ふ、このようなことは此方がこの世に生まれてからこの方、一度(ひとたび)とてなかった。

 ふふ、時の歩みがかようにも遅く感じることがことがあろうとはな。ここから動けぬ我が身をこれほどまでに疎ましく思う日がくるとは考えもしなかったぞ? 

 ふふふ、随分と焦らしてくれたではないか」


 グリフォンさんのクツクツと喉を鳴らしているような音と、ザワザワと全身の羽が擦り合わされているような音が混ざり合うのを聞きながら、全身の血が樹冠を突き抜けて地面に向かって落下していくのが分かった。


(ア、アカン……激おこですやん)


 ままま間違いありませんわッ!


 京都(はんなり)曲言(スピーチ)論法三級を持ってるワタシだから分かる。


 今のは「おうおうおう! てめぇどんだけ待たせとんねん!? こちとら御上(おかみ)から知らせ受けてから首長~くしながら構えてたっちゅうに、この落とし前はどうつけてくれんだ、おっ? おめぇまさか、二度目があるとか思ってんのか? 身元割れてっからな? 逃げられるなんて思ってんじゃあねぇぞゴラァ!」て言ってた間違いない。


 まさか、こんな罠を張って待ち構えているだなんて!


 しかもあの子自称神様のショタ子とグルだなんて……。


(チクショウ! コンソメフックはなしだかんなッ!)


 いやマジで。こういう大事なことは先に言っといてもらわないと困るよぉ?


 ホウ・レン・ソウ!


 報・連・相!


 社会の常識ですからね。これだから最近の子は扱いづらいんですよ。こんなんじゃあ電話応対すら任せられないじゃあないですか。


 ちょっと~、教育係だれぇ? こっちは新人なんだから、しっかりやってもらわないと。こんなんじゃあ(ぬる)いよ、ヌルヌルだよッ!


 こういうのは初めが肝心なんだから、もっとしっかり教育、もとい調教という名の下に躾けを完遂して欲しいものです。


 最近、首輪をつければそれでいいとか考えてる奴が多いけど、あり得ないから。


 犬は、きちんと資格を持ったブリーダーに預けて、自分の立場ってヤツはしっかり身に染みて分からせてから、社会構造とか群れのリーダーとか教え込まれないと混乱するんだよ! ほら混乱してんだろ!


 現状では異世界の先輩として職務怠慢ですよ。いいんですか? このままじゃあ成績にも響くと思うなぁ。そうしたら給料査定がどうなることやら……。


 ――そんなお悩みを抱えているそこのあなた!


 今なら、ワタシがここに来たことをなかったことにするだけで、八方丸く収まって花丸までもらえちゃう初回限定異世界特典マルマルうまうまプランが、本日だけ! 本日だけ破格の一〇〇パーセントオフでご紹介!


 でもね、思ってるでしょう。初回限定がこの程度で終わりか、と。


 もちろん違います!


 せっかくの初回。せっかくの限定。この程度で終わるはずがございません!


 限定一回! これっきり! 


 最初で最後の大盤振る舞い! 今なら……なんかほら、こう……ありそうじゃん?


「ふむ。まぁ、そのことについて今は置いておこう(後でじっくり話そうや)。して、トイディよ(おう、犬っころ)。

 先程の謝罪はどういった意味で発したものか申してみよ(目上への言葉ってのを知らんみたいやな、もいっぺん言ってみぃや)。

 何、心配せずとも、それで其方をどうこうするということはありはせんよ(ワシは何もせんけどな、これからてめぇがどうなるかは保証でけへんわ)」


 なさそうですね!


 ワタシの命も(次の瞬間には)なさそうなので、何よりです。


 もうね、台詞に重ねて副音声が聞こえてくるよ。


 チクショウ! もう、素直に話すしかないのか!? 深い意味はなかったんですって、キョドりながら卑屈に笑って手を擦り合わせるしかないのか!?


 でもな、そんな誰にでも尻尾を振るような卑しい真似をするくらいなら、自分に正直に生きて、最後くらい華やかに散ってやるさ!


 見やがれ、これがワタシの死に様だぁ!!!


「へへへっ、いやですよぉ、幻獣様。そんな、ワタシの謝罪に深い意味なんてあろうはずもございませんです、はい。ただ、偉大な存在の気配を感じとって、自然と頭が下がってしまっただけのことで。

 いえ、本当に。こんなにも崇高なお姿は見たことがございませんとも。ええ、さすがはあの神様が直接お会いになるお方であります!」




 ………………ふぅ………………ちゃうねん。


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― 新着の感想 ―
[良い点] イディちゃんのペコリティは天元突破してアーセムの頂上まで届くんだなって(届いていない) でもはんなり三級なら間違えていることもあるから、たまには自分を見返してグリフォンさんの胸毛をもふらせ…
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