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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
98/150

96 止まんねぇからよッ! 止めたくても、止まんねぇからな


 どれくらい時間が経っただろうか……。


 ずっと、送り出されたときと同じ腰が抜けた状態、いわゆる女の子座りで固まったままで、呆然と籠の外の景色の眺めていた。


(……すげぇな。こんなに股関節に敵対的な姿勢をとっているのに全然つらくない……人体、いや女の子の神秘ですね!)


 それはそうと、籠の格子の隙間から覗く外の景色が、さっきから一切変わってない。


 いや変わってないように見えるだけで、本当は目まぐるしく変わっているだろうけど、速過ぎて変わってるかどうかが分からない。もう、そういう柄の壁なんですよって言われたら、むしろ納得しそう。


 それくらい、とんでもない速度で流れていってる。


 間違いなく地球でいうところの大気圏を突破する以上の速度が出ている訳で、第一どころか第十一宇宙速度くらい出てるって確信が持てる。


 ……宇宙速度は第三までしかねぇけどな!


 なんにしても、馬鹿にみたいな速度が出てるのは間違いなくて、それなのにジーを全く感じないどころか振動すらない。まんま、元の世界の高速エレベーターだ。


(……すげぇな。こんなに物理法則に敵対的な姿勢をとっているのに全然つらくない……魔法、いや女の子の神秘ですね!)


 それはそうで、女の子には奇跡も魔法もあるし、なんなら身体の一部に夢も希望も詰まっていて(ワタシにはないけど)、新たな命を宿す宇宙を内包しつつ母なる大地という特性を兼ね備えた、神秘の塊ですからね。


(科学なんていらなかったんや!)


 そんなスーパーでアルティメットで、ぷりてぃー&きゅーとなワタシですから、それはもうすべてのもの通じていると言っても過言ではない。


 ――だから分かっちまうのさ……。


(打ち上げ花火ってさ。(はか)ねぇよなぁ……)


 ほんの一瞬、時間にしたらわずか数秒だ。そんな一時のために狭苦しい筒の中に押し込められ、揚げ句の果てには導火線という名のケツに火をつけられて、我慢して、我慢し尽くして、強制的に送り出された広すぎる空の下で、最後には爆発四散サヨナラ……!


 後に残るのは、瞼の裏に焼きついた燐光と、(おだ)やかに(けぶ)った透明な空気と、骨が燃え尽きた匂いにも似た火薬臭。


 そう、これはつまるところ――人生。


(な?)


 ……深いな。


 深いよ……この墓穴。


 自分で掘っておいてなんですけど。


 まあ、今いるここは、落ちる用でも埋まる用でもなく、打ち上げ用なんですけどね。


 嫁ぐっていう幸せの絶頂に向かって絶賛急上昇。高度と一緒に期待も高まっちゃいますね!


(ふふふ、楽しみだなぁ。ワタシ、無事ここから抜け出せたら、甘いものをたらふく食べるんだ……。そして今度こそ、地に足しっかりつけて生きていくよ)


 今のワタシ以上に、娑婆(しゃば)とお勤めって言葉が似あう幼女は存在しないだろう。そもそも幼女には娑婆もお勤めも、妖怪の学校と試験なみに無念(ない)なものなんですけどね。


 これが本当の独り勝ち(誤字にあらず)ってやつなんだよなぁ……。


(寂しくなんてありませんけどぉ!?)


 でも、いくら囚われの身だからって、この籠のデザインだけはいただけない。さすがのワタシも、どれだけ落ちぶれようと犬としてのプライドってもんがあるからね。


 ――だから、これだけは言わせてくれ……、


(首輪とリードはどうしたんだよぉ!)


 まったく、なってないですねぇ。ちゃんと事前に打ち合わせしました?


 駄目だよ、マニュアル接待じゃあ。お客様には一人ひとり個性というものがあるんですから。その人にあった接客をしないと、どんどん離れていっちゃいますよ。


 次からはきちんと考えて、それぞれに合わせた対応を期待します。


 ワタシは人になってから出直してきますで!


 だけどまぁ、少しくらいは大目に見てあげますよ。


 なんたってワタシは、夜空に花咲く四尺玉なみに美しく広い心を持っていますから。後は散るだけなところまでそっくりですよ!


 高みに至る存在は、人のままじゃあいられない、つまりそういうことなんですよね。


(……それはそれとして。これって、後どれくらいで着くんですかね?)


 いくら至高を目指すといっても、上がりすぎじゃない?


 揺れとかがないんで正直とっても分かりづらいんですけど、体感的にはもうだいぶ上ってると思うんですよ。


 いやまぁ、アーセムの頂上ですからね。元の世界じゃあ技術先進国なんてもてはやされて浮かれてる日の本の国でさえ、六〇〇メートルちょっとの電波塔を昇るのに数分をかける訳ですから。五〇〇〇〇メートル以上あるらしいアーセムの上を目指している以上、それなりに時間がかかるのは分かる。分かってるんですけど……、


(想像以上に暇でございます!)


 発射前の準備もそうだけど、引っ張りすぎだと思うんですよ。いったい誰ですか? こんな、無駄に長い尺を用意したのか……、これがテレビだったら確実に番組を替えられてますよ。途中で挟まれるコマーシャルより害悪だね。


 股関節にも物理にも敵対的なワタシですけど、時間にまで敵対した覚えはありませんよ?


 数十年、長ければ百年続く人生から見れば、ほんの一瞬の出来事かもしれないけど、何をやるでもなく、狭い籠の中でただただボーっとしてるのって結構つらいものがある。


 このままではワタシという存在が花開く前に、すすけて真っ白に染まってしまいますよ。


(つらいよ~? 打ち上がって、今か今かって待ちわびる観客の前で、ひゅ~って音で期待感を高めるだけ高めて、咲けなかったときの花火の気持ち……考えたこと、ある?)


 ……ないかぁ~、ですよね。ワタシもなかった。


 でもさ。一回、考えてみてもいいじゃないかな?


(散るために作られたのに、散れなかった……そんな、哀れなヤツのことをさ……)


 ……ああぁあ! 駄目だ! 本当に間が持たない!


 独りなんだから持たせる間なんてないだろうって思うかもしれないけど、本当にその通りだよ! でも、違うんだ。ただ、ワタシは、……緊張で吐きそうなんです。


 いくら独り遊びが得意なワタシでも、確実に破滅に進んでいる弾頭の中にいながら、それまでタイムリミットが示されないまま、表情筋が死んだ状態で頭の中だけお茶らけてみせるのは精神的に苦しいんです。


 せめて、今が地上から何メートルか知らせる、電光板をつけてください!


(………)


 ――ふぅー。分かった。分かりました。


 確かに、何かものを頼むときの態度として、この姿勢はなっちゃいませんでしたね。


 こんな姿勢では、本当に頼んでいるのかさえ怪しい。誠意ってもんが見えねぇからな。そりゃあ、何もリアクションがなくても不思議じゃあないですよ、ええ。


(仕方のない人ですねぇ。……一回だけですよ?)


 股関節と物理への敵対を改め、正座をしてからきちんと身形を整え、大きく息を吸って地面に手をつき、重力という物理に逆らうことなく勢いよく頭を下げた。


「申し訳ありませんでしたぁ!」


(これが欲しかったんだろ? ん? おら、いくらでもくれてやるよぉ! 欲しがりめ! この欲しがり屋さんめッ! お願いだからレスください!)


 額を地面に擦りつけながら、あらん限りに声を上げる。そう、これは謝罪だ。あくまでも、頼みごとをする側としての姿勢がなってなかったことへの。


 断じて、レス欲しさに乞食してる訳じゃあないんだから!




「……何がだろうか?」


「……へ?」


「ん?」


 何の前触れもなく、頭上から降ってきたそれが、声だと認識するまで時間がかかった。


 地響きを思わせるような、触れ難い自然の雄大さを前にしているような、威厳に満ちた音に慌てて頭を持ち上げてみれば。まさに幻獣としか表現しようのない、何か言葉にしようにもその言葉が打ち消されるような威光をたたえて、その存在はあまりにも自然に、そこにいた。


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