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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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89 空気が読めないからって空気が必要ない訳じゃないからッ!


 いや、手と思しき前足を持ち合上げられても、何を言ってるのか分からないんで、反応に困るんです。


 うん、まあ。とりあえず、頭を下げておけばいいだろう。社会ってそういうふうになってるって、ワタシ知ってるんだ。


「こ、こんにちは」


 やっぱり挨拶って人生の基本だよな、いやホントに。


 何事も急にってのは良くないと思うんですよ。特に人の耳に住み着こうなんて場合はご近所さんになる訳ですから、蕎麦持ってかなきゃ、蕎麦。


 そうすればさっきみたいな寝耳に水なことでも、汚い嗚咽漏らしながら泣き叫ぶのを、すすり泣く程度には押さえられた気がするんです……蕎麦だけに。


(ふふふ、座布団入りませんよ。その代わり布団をお願いします。ワタシ、このイベントが終わったら、何にも煩わされることなくぐっすり寝るんだぁ……)


「夢は見ることしかできないから夢なんだけどな」


 ――ギチギチ(打ち砕かくこともできる)


「追い詰めてどうすんのよ。それはまあいいわ。

 とりあえず、アンタからしたらしたら実感が湧かないかもしれないけど、この子が世話になったから、そのお礼を言わせて、っていうのがさっきのことね。

 結局、余計に疲れさせちゃったみたいど」


「な、なるほど」


 確かに思い返してみれば、口の中から御出でになって耳に取りつかれて、その後にどうなったかは気にもかけてなかった。


 いや、それはそれとして、ワタシが向こうの世界に戻った時はこの身体はどうなっていたんだろうか。


 リィルとかに聞いた話じゃ、ワタシは忽然と消えたことになっているし、二度目の時はこの世界と自称神様とのやりとりが現実にあったことだってことを受け入れるだけで一杯いっぱいだったから、他のことを気にかけている余裕なんてなかった。


 ワタシの身体が実際に消えてしまったと仮定した場合、この蜘蛛さんはどうなっていたんだろう。


 巻き込まれてなかったとしたら、今の今までワタシの耳に住み着いてたことが説明できないし、身体の一部的なものとして一緒に消えてしまっていたら、それこそ謎だ。


(……うん。気にしないでおこう。なんかアイディアに成功したらSAN値がヤバそうだし)


「うん、よし。私の個人的な用事はこれで済ッと。で、次なんだけど」


「まだ何かあるんですか!?」


 そんなに用事がいくつもできる程、何かやらかしているはずないと思うんですけど、……ワタシ、また何かやっちゃいましたかね?


「むしろ、こっちが今回の本命よ。アンタ、……いったい何やらかしたの?」


(やっちゃってるみたいですねッ!)


 嘘だろ、こんな人畜無害なワタシを捕まえておいて何やらかしたってそんな、むしろ人的にも畜的にもやらかされている率の方が高いと思うんですけど。


 それなのに、さっきまでの我が子にすら振り回されていたような、大雑把(おおざっぱ)と大らかの中間にいるような大人としてどうなのかって雰囲気の女性が、目つきを一変させるほどの何かってなんなのさ、むしろワタシが知りたいです。


 じぃっと、人の形になっての変わらない紅玉の瞳がワタシをまっすぐ見つめてきて、そこに軽さやおふざけの色が見えなくて、むしろ生態系の頂点である統率者としての知性と気性が光っているのが、そうじゃないと分かっていてもまるで責められているような気がして、居た堪れない。


 至近距離でワタシと見つめ合っていたクイーンさんが数秒の間を置いて、おもむろに大きく息をつくと、ガシガシと頭を抱えるみたいに引っ掻きながら呻いた。


「……本当に自覚も何もないみたいね。……ああ、もうっ! 一番厄介なパターンじゃないの!」


「あああ何がなんだか分かんないんですが誠に申し訳ありませぇんんん!」


「だから、土下座(それ)はもういいって! 自覚がないんじゃ謝ることでもないんだし。そもそも私も、その何をやらかしたのかって部分が知りたかったのよ。

 こんな、そういう時期でもないってのに、急に上から連絡がくるなんて今までなかったし……、ちょっと普通じゃ考えらんない状況なのよね」


 そんな絵にかいたようなクソデカ溜息つかれながらじゃあ謝らなくてもいいなんて言われても、説得力が皆無なんですがね。


「アイツもアイツで混乱してるのか、アンタを送れってことしか言わなかったし。下のエルフはエルフで、緊急だっからうまく聞き取れなかったのか、『巫子』の期限が早まって催促されたって勘違いしてるみたいだしね……はぁ」


 やめて、そんな何度も溜息をつかれると、燃え尽きる直前のロウソクの方がまだ生き生きしていることに定評のあるワタシの精神が吹き消される前に折れるから、マジでチョーク並みにポキポキですからね。


 まぁ、吹かなくても消えそうなワタシの精神なんて、折れすぎて短くなったチョーク並みに用済みですよね。


 黒板の受けの隅の方に溜まってるくらいしか能がないワタシのことなんて気にかけていただかなくて大丈夫なんで、そのまま続けてください。


「あーあ、面倒くさいわぁ。こんな板挟みみたいな状況にされるなんてさ……。

 まっ、しょうがないか。じゃあ、これからのことなんだけどさ、とりあえずアンタのことは上に送るってことでいいわよね? 

 他の連中への説明とか、さっきアンタが抱えていた子供を下に下ろすのとかは私が責任もってやっといてあげる」


「えっと、それはとてもありがたいのですが、……上っていうのは、どちらですかね?」


 ワタシの言葉に、「何言ってんだこの犬」的な感じに受け取れなくもない気がする視線のまま、小首をかしげるクイーンさんはちょっと可愛らしさを感じてしまうのは、今までのヤンママ的振舞いからのギャップだから仕方ないと思う。


「上は上よ。アーセムの頂上」


「なるほど。確かにそれは上としか言いようがないですよね」


「でしょ? なんかすんごい景色がいいらしいよ?」


 クイーンさんはまるで何でもないことのように言ってくれるけど、これまでの話を総合すると、ワタシはこれからそのアーセムの頂上とやら送っていただけるらしいけど、景色が百万ドルとかそういうことの前に、どうしても確認しておかなきゃならないことがある。


「ははは、楽しみだなぁ……。で、空気はどうすればいいんでしょうか?」




「……えっ?」


「……えっ?」




 沈黙が場を支配した。


 クイーンさんはまるで予想もしてなったことを耳にしたみたいに、目を丸くしたまま固まっている。ワタシはワタシで、まさかここで固まられるとは思ってもみなかったので、次の言葉が出てくることなく、お互いになんか見つめ合っていた。


 気まずい空気が流れていくのに、耐えかねたみたいにクイーンさんの目が、ススッと横にそれていった。


「……アンタ、マレビトだし……、どうにかなるでしょ」


「ならないから!」



 ――ハッキリ言えよ! 考えてませんでしたってな!



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