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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
88/150

86 ワタシの知性が天元突破してしまったようだな……


「あ゛ぁああやっぱしゃべったぁあぁああ!?」


 ――OK。十分待ってくれ。


 落ち着けてなかったのはワタシの方だったみたいだな。よし分かった。とりあえず深呼吸タイムお願いします。


「すーはーっお゛ぇっほ、げほ、くさっ!?」


 そういえば、吐いたばっかでしたね。さすがにどれだけ美幼女になっても吐瀉物(なかみ)までは綺麗にならないと、うーむ一つ賢くなってしまった!


 賢くなったワタシなら吐き気もこんな状況もなんなく飲み込める筈だ、なんてことないさ。


 うんうん頷いて、咳き込むのに合わせて下がっていた視線を持ち上げる。


 変わらず目の前にはキラキラ光るお星様的な美しさを放っているルビーのお目々。でもなぜか身体を隠すみたいに斜に構えて、何かにお引きのご様子。


(つまりなんですか? こんな可愛らしい幼女の行いにもかかわらず、巨大な怪物的な蜘蛛さんすら「ないわー、引くわー」ってな感じの醜態であったと? そんなに酷かったと?)


 なんてこったよ、これはもう関係修復は不可能ではないかと思ったけど、そもそも修復できる程の関係を築けていなかったから問題なかったね!


 つまり、ワタシと彼女のつながりは食物連鎖の中にあると、鎖だけに本能につながれた関係であると、そういうことですね。……うん。


「……お゛ぁあ゛ぁああぁあああ」


 もう駄目だぁ、おしまいだぁ……!


 こんな状況どうしろっていうんだよぉ!? スケールもだけでも圧倒的な差をがあるっていうのに、虫の身で喋れるだなんて知性にすら圧倒的な差を感じざるを得なくて無理ゲーにも程があるよぉ!


「えっ? いや、ちょっと! なんでまた泣きだしてるのよ!? さっきからなんなのよ。吐いたり笑ったり泣いたり忙しい奴ねッ! ちょっとは落ち着きなさいよッ!」


「あ゛ぁあああ食べないでください! 食べたらきっとお腹も倫理も壊れちゃいますよ! きっと美味しくないですよ!」


 その展開は絵面(えづら)的にもちっとも美味しくないから、誰も望んでいないと思いますよ、ええ!


「食べる訳ないでしょッ!?」


「わ゛ぁああぁあああ!」


 やっぱりアカンのや! なんかめっちゃ怒ってる気がするもん! 言葉が通じたからって意思まで通じるなんて思い上がりも甚だしいってことですよ。虫とコミュニケーションを取ろうだなんて人類には早すぎる所業なんだよぉ! 人ですらないワタシに何を期待してるんですかねぇ!?


 ――ギチギチ(また泣かせた)

 ――ギチギチ(母さんがこんな小さい子供を泣かせた)


「はぁっ!? 泣かせてねーし! いや泣いてるけど……私のせいな訳ないでしょ!」


 ――ギチギチ(どう見ても母さんが原因)

 ――ギチギチ(あの子のと()ぎ先なのに……)


「あの子のことは今は関係ないでしょ!?」


「ばぁあ゛ぁああああ!」


「だからアンタもいい加減泣き止めって、あーもうッ! しょうがないわねッ!」


 突如、(ほの)かな、緑人(オーク)さんの結婚式で見たものに似た、魔法的な燐光が溢れだしてきて、その光が集まるように固まっていくと、クイーンさんがおもむろに伸びでもするみたいに身体を反らす。


 身体に集まっている光が徐々に強まっていくのと同時に、クイーンさんの輪郭が変化していき、ぐねぐねと粘土でも捏ねるみたいに形を変えていく。


 光の粘土はどんどん形を変えていって、その体積がリィルと同じくらいの大きさになったところで、辺りに小さく光の粒を撒きながら弾けた。


 一瞬の明滅に、反射的に目蓋を閉じてしまう。


 暗くなった視界の中で光が収まっていくのを待って、恐る恐る目蓋を持ち上げていくと、先程までの見上げるような蜘蛛の巨体はなく、美しい紅玉の瞳を持った女性がいた。


 彼女は触れがたいものに触れるみたいに、おっかなびっくりといった印象の、まるで初めて赤ん坊を抱き上げる旦那みたいな様子で、ワタシの身体を優しく包むように抱いていた。


「ほら、同じ姿なら大丈夫でしょ? だから泣き止んで。

 私、アンタみたいな小さい子に泣かれるのホント無理なんだって。なんかこう……、あーっもう! とりあえず見てらんないのッ! 

 だぁかぁらぁ、泣くのはおしまい! いいわね!」


 ――ギチギチ(人型になれるのにこの壊滅的な語彙力)

 ――ギチギチ(これが僕たちの母ですよ)


「アンタら、(うち)に帰ったら覚えときなさいよ?」


 ――ギチギチ(今日も最高に綺麗だよお母様!)

 ――ギチギチ(目の美しさが違うよね! 知性の輝きが宿ってるぅ!)


 なんかよく分からないが、ワタシにはギチギチとしか聞こえない音のような声でもって、彼女たちの間では会話が成立しているみたいだった。


 小さな、それでもワタシの手のひらを二つ合わせたよりも倍ぐらい大きいが、周りに集まっている蜘蛛たちは、何やら内緒話でもするみたいに額をつき合わせていたかと思えば、前足二本を持ち上げてワチャワチャさせてみたりと忙しそうだった。


 まぁ、ワタシも自分の現状が分からなすぎて心の整理に大忙しですけどね!


「えっと、えっと」


「ああもう、はいはい。無理にしゃべろうとしなくていいから。うーんと、そうね。ここじゃゆっくり話もできないし、とりあえず……(うち)、来る?」


 小首を傾げながら、こちらを覗き込んでくるように聞いてくる様子は、どことなく子供っぽいというか、いやどっちかっていうと大人っぽくない印象を受ける。


 なんだろう。このややガサツな感じにも受け取れる言動と、おおざっぱな感じの包容力は。なんていうか……、ヤンママ?


 なんかそんな感じ。


「私もさ、アンタに聞かなくちゃいけないこととか、いろいろあるんだよね。

 でも、わざわざ会いに行くのはちょっとめんどいし、でも放っておくこともできないしなー、って思ってたとこでなんかアンタの方から来たみたいだし、だから丁度いいやって。なんかそんな感じ?」


 やっぱり、なんかそんな感じらしい。


 まぁ、言葉が通じる状態になったのなら、とりあえずやることは一つだ。


「あの……」


「ん、なーに?」


「……いただかれるならせめて一思いにお願いします」


「だから食べないってば!」


 ふふ、大丈夫ですよ。ワタシ分かってるんです。


 こんな大家族を養うには、それ相応に大量の食料が必要だって……、つまり!


 ――どのみちワタシは晩ご飯!


「きっと美味しくなるんで。どうか、どうかこのオロアちゃんだけは勘弁してください!」


「この子、話が通じないんだけど!」


 ちくしょう! やっぱり犬と蜘蛛じゃあ友情を築くことはできないのか!? 話が通じている気がしない。


 でもワタシは絶対に諦めない。オロアちゃんだけはどうなっても助けてみせるってワタシの大人の部分(俺)に誓ったんだ。ここで投げだしたら台無しになってしまう。


 ――それだけは、たとえクイーン(女王)が相手でも、させないからなぁ!


「私だけ我慢していただけるなら……、今ならッ! なんとッ! ……えっと、その……なんか! なんかいいことがあります!」


「もしかして私、馬鹿にされてる?」


 くそッ! これでも駄目だっていうのか、この欲しがりさんめ!


 でもこれ以上、ワタシに出せるものなんて何もない、何もないんだ。


「……ワタシは、無力だ……」


「えぇ……。いやいや、そんなことないって! 大丈夫だって、誰だっていいとこ一個くらいあるって。たとえば、ほら、その、……か、可愛いじゃん! ね? ね?」


 ――ギチギチ(天地創造以来、一で知力の低い会話だね)

 ――ギチギチ(スライムだってもう少し生産的だよね)


「アンタらマジで覚悟しとけよぉ! ああもう、めんどくさい! 今はとりあえず眠っときなさい!」


「はあ゛ぅ!?」


 どこからともなく熟れきった果実のような甘い香りがしてきたかと思うと、ズンッと脳髄の奥に重石を乗せられたみたいに思考が鈍り、ワタシの意識はそのまま深く沈んでいった。


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