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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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79 ごーる……


 まぁ、どんなに心の中で叫んだところで、誰かに伝わるなんてことはないからな。


 ――そこんとこ、わきまえてるんで、自分。


(偉いぞワタシ! 諦めのキレならワールドクラスだな!)


 見ろよ、この切り替えに対するフットワークの軽さ。(いかづち)の名を関する人類最速さんだって、ワタシからしたら生まれたての小鹿も同然よ。


「着地するよ! 口閉じて、衝撃に備えて!」


「そんなハードルがあるなんて聞いてませんけどぉお!」


 まさかの障害物競走だった。


 凄まじい速度で流れていく景色と、荷物でも運ぶみたいに脇の下で横抱えにされている状態で見る、家の屋根の方から迫ってくるような殺人的な絵面に、流石のワタシも命までは諦めきれないので力一杯叫んだ。


(凄いぞワタシ! 掌の回転率でもワールドクラスだな!)


 見ろよ、この過去を顧みない言動の軽さ。星の運命すら予知できるノストラでダムスな大予言者だって、ワタシから見たら地を這う虫けらも同然よ。


 まぁ、現在進行形でリアルに空を飛ぶワタシの軽やかさには、自分自身でも捉えどころがなさ過ぎて、そろそろ落ち着きたいお年頃。


「っと!」


「ゔぐぅっ」


 それに関しては願うまでもなく、すぐさま望みは叶えられる訳で、リィルができる限り衝撃を殺してくれたようだけど、それでも完全には消されず、全身を揺さぶってきた衝撃は物理的にも精神的にもワタシを殺しにかかってきている。


 こんなところでも殺し合いが起こってるんだから、世界が平和になるのは大分先の話だな。しかし、こんなに物分かりがよくて先見の明があるワタシでも、この状況は読めませんでしたよ、ええ。まさか上から攻めてくなんてな。


 ワタシが思うに、空を飛んで屋根伝いに移動したら、地上を走るペスさんの匂いを追いづらいじゃないかなって気がするんですが。つまりこれはアレですかね。大まかな方向さえ分かればいいってことなのか、もしくはこの世界の犬は空を飛ぶのが常識だったりするんですかね。


 どっちにしても、オロアちゃんたちがアーセムに向かったことが判明した今、ワタシはお役御免だと思うので、役目的にも地面的にも降ろしてもらっていいですよ?


「ごめんね、イディちゃん。ちょっと乱暴になっちゃうけど、今はスピード重視で行かせてもらうよ!」


(――大丈夫。ワタシ、知ってるよ。答えは聞いてない、ってさ)


 想像通り、ワタシが何かを言う暇なんてなく、リィルは速やかに他人様の家の屋根を足蹴にして、別の家の屋根に飛び移っていた。


 目まぐるしく変わる景色に、目を開けていることすら耐えられなくて、思い出したようにリィルが地面に降りた時に薄っすらと空けた目蓋の間から確認もそこそこに、それらしき匂いの方に指を伸ばすだけで精一杯だった。


 リィルも相当焦っていることは、薄目の中に微かに映った険しい表情で歯噛みして歪んだ口元からも想像できた。


 だから今は一刻も早くアーセムの根元までたどり着き、既にオロアちゃんが通り過ぎているならそこから匂いをたどり、まだ通っていないようならそこで待ち伏せる。


 おそらく、そういうプランで行くことにしたんだろう。


 オロアちゃんはペスさんを駆っているから、地面を走っているはずで、おのずと進むルートも絞られる。どのルートを通っても必ずそこは通過することになる中継地点を的確に選び、そこから大まかな方向だけを確認して、アーセムまでの距離と一緒に計算して範囲を絞っていく。


 そうすれば、可能な限り時間を短縮しつつ、最大限に効率を上げられるっていう寸法だろう。


 ――まぁ、それもオロアちゃんがアーセムに登り始めちゃっていたら無意味なんだけどな。


 そこは祈るしかない。でも、きっと大丈夫だろう。なんの根拠もないけど、いやなんの根拠もないからこそ、そう思って行動しないと。


 地面を蹴る音とか、身体が風を切る音の激しさと比べて、ワタシもリィルも口数は少なかった。


 リィルはオロアちゃんの身を案じて、きっと自分の中で渦巻いている、考えなしに行動をしてとか、心配かけてとかっていう、オロアちゃんに吐き出したい思いを言葉にしないで内側にため込み、身体を突き動かす熱に変えているんだろう。


 ワタシはもちろん、乱高下を繰り返す自分の視界と内臓に、言葉の前に内容物が吐き出されそうで、口数がどうとかっていう余裕がないだけだった。


 ――救いは、自分の株がストップ安なことぐらいかな。


 高くなるか下がった時の心配をしなくちゃならなくなる訳で、人も評価も初めから低くいることを意識すれば、そもそもの落ち原因がなくなるから、これによってのみ全ての生物が平等になって世界平和を成し遂げられるんですよ。


(そうすればさ、ワタシの胃腸にも平穏が訪れる気がするんだ……)


 まぁ、そんな悠長なことを言っているうちに臨界点突破は目の前で、今にまさにストマッククエイクしてるから、お口ヴォルケーノ寸前で、ワタシニルヴァーナって感じなんだよね。


(簡単に言うと……、MT5(マジで吐瀉する5秒前))


 ――早くしろっ! どうなっても知らんぞっ!?


 しかし、そんな危機迫る状況は気づかれることすらなくて。揺れる視界の中で、青空に見えた気がする消えた飛行機雲を追って、ワタシの魂まであの空に昇っていっていきそうだった。


 ――もう……、ゴールして、いいよね?


(ゴールしたらあかん! ゴールしたらあかん! 全部これからなんやっ!)


 これからオロアちゃんを探しだして、ペスさんと一緒にゴール。もう感動のあまり涙なしではいられない結末が待ってるんだ。だから、(そこ)で待ってて。


 そうや、ゆっくりでええ。こうして頑張っていけば、きっと良くなる。だから(そこ)で休んでてくださいお願いですから、動いちゃダメ!


 光に包まれそうになりながら、天にめされそうな程感動的な自問自答を繰り返して、胃からせり上がってくるドロリ濃厚ゲロロン味をなんとか宥めすかして、鎮まるように祈りを捧げていたところで、ようやくリィルの足が地面の上で止まった。


「イディちゃん、どうかな?」


 自分のことで手一杯で周りの確認をしている余裕なんかなくて、自分が今どこにいるのかも定かじゃないけど。おそらく、アーセムの根元に程近いところまで来たんだろう。


 焦るあまり、責め立てるようになっているリィルの声音からも、ここが文字通りの分岐点であることは容易に想像できた。


(ワタシ、頑張って良かった!)


 ワタシのゴールは安寧と一緒だった。一度も頑張ろうなんて思ったことなかったけど、最後は心安らかに胃も安らかにだった。


 一人きりで内容物に来たらアカンと訴え続けて、(ゴール)したらアカンと宥め続けたおかげで、スタートを切らずに落ち着くことができた。


 それでも頭の上からかけられるリィルの声に、返事をするのもままならなくて。片方の手で口元を押さえたまま、もう一方の方の手を振って、ペスさんの匂いが続いている方向を指差した。それが、精一杯だった。だから――、


(ワタシ、休んでもいいよね?)


 吐くこと以外は全部した。もう十分なくらい。この一時に一生分の恐ろしさが詰まってた。もう一度も頑張ろうと思ったことのない今日までだけど、ワタシ、頑張ったよね?


 だから、もう……。


「――やっぱり、遅かったんだ」


「……へ?」


 乾き切った布から一滴の雫を絞りだすような、苦慮に塗れた声に、思わずリィルの顔を見上げていた。


 苦み走って、あまりの苦みに今にも泣きそうに見えるような表情をしたリィルの顔を、斜め下から間抜けに眺めながら、自分が指差している方向を改めて確認した。


 そこは、もう確認なんてするまでもなく、見るからに壁だった。


 所々に楔や足場の杭を打たれ、様々な機械とかが取りつけられていても、そこは人類の踏破を拒む、絶対的な壁だった。


 ――いやや、こんなんいやや。


 やっとたどり着いた、ずっと探していた場所。幸せの場所。ずっと、幸せな場所。優しくワタシを縛りつけてくれる地面(アンタ)とやっと出会えたんや!


 地面(アンタ)に何もかも教えてもらったやないかぁ! 一人きりじゃない生き方、地に足ついた生き方。全部、地面(アンタ)が教えてくれたんやないかぁ!


 置いていかんといて、ワタシを一人にせんといて。他にはなんもいらんから。友達もいらん、新しい人間性も(ぜいたく)もなんもせんでええ。ただ、地面(アンタ)とおれたらそれでええ。ずっと、一緒に仲良うしよう!


「……仕方ない、か。イディちゃん。ちょっと危ないかもしれないけど、ここで止まってもいられない。だから、行くよ! アーセムに!」


 ――悪い夢は終わった筈やろぉお!?


 いうまでもなく、ゴールしたワタシは、ゴールしたんだった……。


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