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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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68 異世界人だからか!?


 ああ、駄目だ。これはアレだ、冒険は終わってしまったってやつだ。


 ――おおといでぃよ! しんでしまうとはなさけない!


 それはさておき、問題は冒険の書が消えてしまったのかどうかだ。それさえ無事ならセーブポイントからやり直せると思ったけど、人生にセーブポイントなんてないから、現実(リアル)さんは一度システムチェックを受けるべき、きっとバグだらけよ貴方。


 というかさ、『なさけない』のは生まれつきだから。


 後づけでこうなった訳じゃないから。そこんとこを勘定に入れて、もう一度機会を与えてくれたりとかしてもいいんじゃないかなって思うんですよ、ワタシは。


 そもそも幼女の首に針を突き立てるとか、教育委員会が黙っちゃいませんよ、マジで。


 このままじゃあ放送倫理委員会まで巻き込んで、世論に問いかけるとこまで逝くしかなくなってしまう訳で、そうなったら世間は弱いモノの味方っていうのは世の常ですから、ワタシの圧勝からのシリアスさんには黒髪メガネの委員長にお叱りをいただくことになってしまいますよ。


 つまりさ、こんな負けが見えている戦いに挑むなんて馬鹿馬鹿しいってことですよ。これはお馬鹿担当のワタシが言っているんですから、一次ソースの確かな情報です!


 まぁ、今のワタシは頑なに目を閉じ切っているせいで、負けどころか現実も未来も見えていないんですけどね。


 ――御先どころか目の前が真っ暗だよッ!


 ホント、こういうのはポケ○ンバトルに負けた時だけにして欲しい。


 とはいっても、ワタシの場合、生まれてこの方真っ暗じゃなかったことなんて数える程しかないんですけどね。日出ずる国はそろそろ仕事をした方がいい。


 まぁ、それはそれとしてですよ。……もうそろそろいいと思うんです。


 これ以上引っ張るのはワタシとしても心苦しいというか、心が苦しいというか。……さっさとどうなったか教えてください、間も精神も限界なんですよ!


(こんな先の見えない状況に幼女を追い込んで楽しいですか? 今後の展開が気になって、ゆっくり眠ることもできないんですよ、早くして! でも永い眠りにつきたいって言ってる訳じゃないんだからね!?)


 全身全霊でビクついているワタシの訴えに、ようやく現実(リアル)さんが重い腰を持ち上げたようで、頭上からバルッグさんの困惑に満ちた声が降ってきた。


「こいつはぁ……、どういうこった?」


(それはワタシが聞きたい)


 むしろ、その現状がどういうことになっているのかを知りたいので、バルッグさんにはことの子細を説明する義務があるのは誰の目から見ても明らかですよ。まぁ、暗く閉ざされているワタシの目からは見えていないんですけどね。


「なぜ、なぜおれの針の方が折れてる!? しかも、こいつはぁ……」


「――双方そこまで」


 揺れ動いているバルッグさんの声を制するように、アーセリアさんの声が厳かに響いた。


 現実が見えていない、というか目が見えていない状況で聞くと、その声は一層神聖さに溢れているように聞こえてきて、これはワタシの現実離れも加速度的に進んでしまいますね。


 つまりこれはワタシの望みが生みだしてしまった幻聴で、本当のワタシは首から注射器を生やした現代アートみたいな状況で倒れ伏しているとか、そんな噂が実しやかに流れているような気がするんですけど、このウェーブには乗るべきですかね?


「イディ様、目を開けていただいて大丈夫ですよ」


「あ、はい」


 アーセリアさんの声にワタシの妄想の方があっさり流されていき、さっきまであれ程固く閉ざされていた目蓋は、催眠術が解けたみたいに、もしくは今まさに催眠術をかけられたのかもしれないけど、とにかく、その優しげな声に誘われるみたいに、なんの抵抗もなく開かれたのだった。


 開けた視界の中で、自分の首筋に手を当てて確認してみると、どうやらワタシは現代アートには昇華してはおらず、注射器の生えていない幼女姿を確認できる訳で、もうここまでの一連の自分の馬鹿さ加減がある意味じゃ芸術だよね。


「バルッグ様。確認になりますが、先程、貴殿が使用した注入器は『上』の虫や獣に対する道具。そうですね?」


「ええ。だからこそ、あり得ねぇ。

 『上』のデカく、厚く、硬い、虫の甲殻を突き抜けるよう設計、鍛造してある。空帝騎士団(ルグ・アーセムリエ)専用に特注した注射針だ。幼子(ようじ)の柔肌で弾ける代物じゃあねぇ。しかも、今もおれの中で渦巻いてるこいつぁ」


「結構です。そこまで確認できれば、間違いないでしょう」


 バルッグさんの言葉にアーセリアさんが一つ頷くと、それまで彼女を守るように前に出ていた護衛を後ろに下がらせ、未だにリィルに覆い被さるようにして固まっているワタシと自らが正対するように、一歩踏み出してきた。


 場に緊張がもたらされ、硬くなった空気が喉奥でつっかえたみたいに、ゴクリと大きな音が鳴った。その音が届いたのか、出会ってからずっと閉ざされたままだったアーセリアさんの目蓋が、ゆっくりと開かれた。


 長いまつ毛に縁どられた瞳は、川面に照らしだされた葉陰のような翠緑(すいりょく)だった。


 しかし、生きているものの持っている、輝くような艶がなく、どこか白く霞んでいるように見えて、こちらを見ている筈なのに、どこにも焦点が合っていないようだった。


(この人、目が……)


 おそらく、この予想がそう外れてはいないと思いながらも、確信が持てず、不安げにゆっくりと尻尾を揺らしながら、その不思議な瞳と見つめ合った。


 そんなワタシの様子を、どのようにしてかは分からないが、察したのだろうアーセリアさんが、その優しげな瞳と口元を柔らかく緩め、ゆっくりとした動作で膝を折った。


「皆の者。最敬礼を」


「……へっ?」


 アーセリアさんの言葉に続き、護衛の森人(エルフ)も片膝をつき、三人は左右の耳を根元から先端に向けてそれぞれ反対側の手で撫でるように触れた。


 そして、合掌をするように両の掌を重ね合わせてから、中に大切なものを包むように両手を交差させて握手のように握ると、手の甲に口づけをして、そのまま深々と頭を下げた。


 困惑に立ち上がることもままならないままでいるワタシを他所に、三人の所作が終わるのを待っていたようにバルッグさんが大きく柏手を一つ打った。


 その音に尻尾を張り詰めさせながら、ビクッと全身を震わせているにもかかわらず、バルッグさんはそのまま両手の指をピンと伸ばし、人差し指と親指で三角形を作ると、それを天に掲げるように上に向けて、下からその空間を覗いた。


「イミナをここに。我『――』」


 バルッグさんは、祝詞のような言葉を発し、手を掲げたまま両膝をつくと、三角形の空間を覗いたまま手をゆっくりと降ろして、土下座のように地面に手をついて深く頭を下げた。


 バルッグさんの礼が終わるのを待って、アーセリアさんがそれまで以上に厳かな、どこか緊張までしているような声で話し始めた。


「数々の無礼な振舞い、お許しください。

 誠に申し訳ないことですが、(わたくし)が至らぬばかりに、ご不快な思いをさせてしまいました。遅き失しましたが、ご挨拶を」


 困惑しきって、むしろ極めてしまいそうなワタシを前に、アーセリアさんは粛々とへりくだったような言葉を続けていった。


「ようこそ御出で下さいました。アーセムに、そしてその根元街、オールグへ。

 民を代表して、(わたくし)、アーセリア一族が(おさ)、アニム・ウ・ス・アーセリアがご挨拶申し上げます。

 我々アーセムの民は、貴女様のご来訪を心より歓迎いたします。神にいと近きお方。寵愛を受けし御子。――『マレビト』様」


 目の前に並ぶ自分に向かって下げられた頭を眺めながら、いったい何が起こったのかも、これからどうすれば良いのかも分からなくて。


 もう頭の中で無数の言葉が勝手気ままに入り乱れるのに、どうにでもなれと、浮かんできたそれを苦し紛れにそのまま口にしていた。


「……うむ。苦しゅうないぞ」


 ――いや、大分苦しいわ。





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