表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
57/150

55 天然物は一味違う!


「あ、シュシュルカ。久しぶりだね~、元気にしてた?」


「おおっ! マジで姐さんがいる。お久しぶりッス! 元気も元気ッスよー!」


 布に(くる)まれた赤ん坊をたすきがけの紐で横抱きにして抱え、何がそんなに楽しいのか尻尾も笑顔も全力のガル君を背中に張りつけて、全身を鱗で覆われたその女性はリィルのことを見とめると、ガル君に負けず劣らずで満面に笑みを広げながら手を大きく振って近づいてきた。


 見ては頭髪と人寄りの骨格を除けば爬虫類だ。縦に裂けた瞳孔に陽に青く(つや)めく緑色の鱗、お尻の上から伸びる大きく長い尻尾もあって、そのくせ立ち姿はすごく人らしい。


 こっちの世界に来てから、こういういかにもミックスという出で立ちの人も多く見受けたが、元の世界の価値観からすればどう見てもちぐはぐに受け取れそうなものだけど不思議と違和感はない、今更だけどこれも異世界効果なんだろうな。


「どうしたんスか、急に。来てくれるなら連絡をくれて良かったんスよ? そうすればもっとちゃんとお出迎えできたのに」


「ごめんねー。こっちもこっちで、オロアちゃんが行くっていうのについて行く形で急に来ることになったし、まだシュシュルカが揺り籠に居るかも分からなかったからね」


「そうだったんスか? じゃあ、仕方ないッスね! ところでみんな何してんスか?」


「も~、駄目だよ~シュシュ(ねぇ)。今ね~、その子が自己紹介しようしてたのに~、シュシュ姉が突然来たから~、遮っちゃったんだよ~」


「あちゃ~、それは申し訳ないことをしたッスね」


 ウーちゃんの言葉にワタシを見とめたシュシュルカさんは、頭の後ろに手をやってカリカリと引っ掻いてから、赤ん坊を揺らさないように頭だけをペコリと下げた。


「いっ、いえ。大丈夫です」


「それなら良かったッス。ところでお名前はなんて言うんスか?」


「あっ、ト、トイディです。イディと呼んで下さい」


「イディちゃんッスね、了解ッス! アタシはシュシュルカ。蜥蜴人族(ピリア)ッス! シュシュって呼ばれることが多いッス」


「よろしくお願いします。シュシュルカさん」


「こちらこそ、よろしくッス!」


 いつの間にか、シュシュルカさんの会話に巻き込まれる形でサックリと自己紹介が終わってしまった。


 なんというか、自分のペースに人を巻き込むのが上手な人だ。


 でもなんかあれだ、あんだけ引っ張っていたのにコレって……。


 いやいやワタシとしては十二分にやり切っているから何も問題はないんだけど、きっとあの自称神様やらこの世界に渦巻く運命的な意思なんかが納得する筈がないので、きっと世界は力は溜めている!


 ――これは後になって爆発する系のヤツだね、間違いない。


 先行きの不安定さに足下が覚束(おぼつか)なくて、震える膝の振動が身体を伝って手まで震わせてきているところに、おそらく握手として差し出されたシュシュルカさんの手が、まるで導きであるように見えて、思わず縋るように握り返してしまった。


 指先にかけて大きく丸く膨らみ、さわさわペタペタした不思議な感触からおそらくヤモリとかの特徴も持っているんだろう。


 犬猫の毛皮とはまた違った魅力があって、ちょっと離すのが惜しくなってくるし、いや本当にどうしたことか。


 この肌触り、柔らかく押し返してくる弾力、それでいながら中身がたっぷり詰まっていることが疑いようもないぷりぷりのハリ、この旨み、間違いなく天然物!


 ――天然物のナデリストだ!


 リィルはその技巧で、ペスさんはその愛情によって、際限なく高められるナデリンがワタシを狂わせてくるが、これは生まれ持った感触だけで両者に並ぶ。


 触れているだけで幸福が湧きでてくる、まさにマイナスイオン的ナデリン!


 ああ、夢見心地が止まらない。


 なんでか握っている手どころか、頬や頭にまでその感触が伝ってきているような気さえする。『揺り籠』ってこういうことなんだなきっと。


「あー! イディがナデ()してる! やっぱお子ちゃまだな!」


「……ハッ!?」


 頭上で大きく響いたガル君の声に我を取り戻した。


 いつの間にか、握っていた筈のシュシュルカさんの手が目の前にあった。


 ……まさかワタシは、そのあまりに蠱惑的な感触に無意識のうちに頬や頭を擦りつけていたのか。


 まるで子犬が飼い主にナデナデを催促するかのように、一心不乱にその手に頬ずりをしていたというのか。


 そしてあわよくば自分の匂いを付着させて、これはワタシのだと主張でもするかのように蕩けた面でグリグリしていたというのか、グリグリしていたというのか!?


「なっ……なぁ……なあ゛ぁああーーーっ!?」


「クフフ、大丈夫ッスよ~。ちょっとくすぐったいッスけど、全然気にしてないッスから。少し前までガルもよくやってたッスからね~」


「そっ、そんなことねぇよ! オレがナデ乞してたのはずっと小っさい時だもん! 大っきくなってから全然やってねぇよ!」


「フフッ、そうッスね~。そういうことにしてあげるッス」


「な、なんだよ、シュシュ姉!? 本当だもん! オレはもう、そんなことしないもんね! ふんっ、せっかくフリスビー持ってきたからみんなでやろうと思ったのに。そんなこと言うシュシュ姉は仲間に入れてやんねぇからな! 

 みんな、あっちで遊ぼうぜ! ほら、ペス! 行くぞ、取ってこーい!」


 ガル君がシュシュルカさんの背中から飛び降りるのと同時にフリスビーを投擲すると、ペスさんは勢いよく地面を蹴りだして、結構なスピードで飛んでいく円盤を追いかけていき、その後を追って子どもたちも一斉に駆けだしていった。


 少し遠くなったその後ろ姿を、残った大人三人はそれぞれ色々な感情を瞳の奥で揺らめかせながら、それを優しさで覆った表情で見送り、騒がしさと賑やかさを詰め込んだ子どもたちの空気に口元を綻ばせていた。


 ――この景色こそ。奇跡、なんだろうな……。


 とても幸福とは言えない幼少期を過ごしたリィルやゼタさんは言わずもがな、この場所にいること、まだ巣立っていないという言葉からも、シュシュルカさんだってとても順風満帆とは程遠い子ども時代だったに違いない。


 それはあの子たちにも言えることだし、今までもこれからも、あの子たちの道が平坦である筈なんてないんだけど。


 それでも、今確かに声を上げて満面に笑い、全身から活気をたぎらせてはしゃいでいる、姿がある。これ以上なんて望める筈がないんだ……。


 そして何より、――ワタシが巻き込まれていない!


 これを奇跡と呼ばず、何を奇跡と呼べようか。


 おそらく世界の予定では、ワタシはあの活気と元気と幼気(いたいけ)の渦巻く現場で全自動洗濯機にもみ洗いされるTシャツのようにもみくちゃにされる筈だったに違いない。脱水なんてかける前からワタシの水分も気力も全て絞り尽くされていただろう。


 それなのにあれだけの醜態を晒していながら、それ以上の追撃なく大人たちにしれっと混じって避難することができている。


 これはあれだ。シリアスさんだけでなく、ハプニングまでもこの手中に収めてしまったかも分からんね。


「んふふ~。みんな元気だね~」


「いや、ホント大変ッスよ~。もうエネルギーもパワーも有り余っていて、こっちは振り回されっぱなしで、疲れる暇もないって感じッスね~。

 まっ、有り難いし、あの子たちが元気なのが何よりなんスけどね! なんと言っても、今じゃこのアタシが『お姉ちゃん』ッスからね~。

 本当に……嬉しいもんスよ。……ちょっとこそばゆいッスけど」


 二人の間に挟まれながら若干後ろに陣取ることで、気配と見える面積を限りなく小さくすることに余念のない自分に満足しながら頷いていると、リィルの言葉にシュシュルカさんは少し気恥ずかしげに頬を引っ掻きながら微笑んだ。


 その誇らしげでどこまでも誉れ高い姿に、ゼタさんは微笑んで頷き、リィルさんも優しげな瞳で一歩近づいてシュシュルカさんの肩に手を置くと、まるで背中を押すようにポンと軽く叩いて笑みを深めた。


「そっか。じゃあ頑張らないとね、お姉ちゃん?」


「はいッス!」


「じゃあとりあえず、手の皮を剥ぐとこから頑張ってみよっか!」


「はい! ……はい?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ