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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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45 お客様の中にお花屋さんはいませんか!?



 ヲンッ! とワタシの疑問の答えるように一鳴きして、また顔中をベロベロ舐めてくるのに、これはもう間違いようがなかった。


 たとえ、首が二つあってそれぞれに目が四つついていて体毛が紫だったとしても、ワタシはこれが犬だって信じてる。

 だからそんな自己主張してこなくても大丈夫なんで、落ち着いてこ?


 そう、ワタシたちに必要なのは理知的な交流に他ならないのは明白で、言葉は分からなくても意思の疎通になんら障害がないのも先程のやりとりで証明されたばかりだから、心は繋がっているんだよ。


 人間的なコミュニケーションに必要なのはハートだよ、だからその生温かい舌をしまってください。


 ワタシ、こう見えて幼女なんで、獣的なコミュニケーションはハードすぎてまだ早いんじゃないかなって思うんです。


 だから、そんなにペロペロしたところで何を言いたいのかも分からないし、ペロペロしたからってワタシを分かった気になってもらっても困る。

 そんな底の浅い幼女じゃあないからさ、ペロペロしたくらいでワタシが堕ちることなんてないんだってはっきりさせておかなければならない。


 つまり何が言いたいのかっていうと、――ワタシのこと、ペロいなんて思わないでよね!


「そう簡単に舐められてたまるかあ゛ぁ、やっぱりちょっと待って。お腹はホント待って。そこは、ぁっ、ダメぇ! 気持ちよくなちゃっうから、安らぎを覚えちゃうからぁ!」


 なんという安心感の暴力。心地良さにマウントを取られてタコ殴りにされてる。


 リィルに撫でられている時とはまた違う。あちらが全身を駆け巡る高揚感 (アッパー系) の快感だったのに対して、こっちは心まで包み込まれる脱力感 (ダウン系) の快感だった。


 どっちにしてもキメすぎたら戻ってこれないのは分かり切っているから、なんとか抜け出そうともがいてみても、駄々をこねる赤ん坊を相手にしているみたいにやんわりした感じで上手いこと押さえつけられてしまい、軽くあしらわれている感が否めない。


 ――間違いない、この犬。ワタシを子供(ガキ)だと思って舐めてやがる!


 生まれたての赤ちゃん犬にするみたいに、片方の頭は顔から頭を、もう片方はお腹全体をまんべんなく舐めあげて、しかも大きな身体でワタシに寄り添って外敵から守るみたいに包み込んでくる。


 その一連動作は熟練した母のそれ、まさにマザーいぬ。


 まさか究極のナデリストであるリィルと同格の、至高のペロリストがこんなに早く現れるなんてな。へへっ、完敗だ、負けたよ。これが、バブみか……。


「くぅーん。くぅーん」


「ああ! イディちゃんが生まれたばかりの子犬みたいな鳴き声を! 

 抗えなかったんだ。全てを飲み込む、圧倒的母性に……!」


「私の記憶中では彼女が何かに抗えていたことがないんですが」


「え~、そんなことないよ? 

 私を説得しにきた時なんて、まるでちょっと年上と接してるみたいでカッコ可愛かったし、やるときはやるんだから! ねっ、イディちゃん」


(いいから助けて! 困ってるの! 見て分かるでしょ!?)


 議論している猶予なんてないんだ。どうやって助けるかは重要じゃない、行動することが大事なんだ。

 いつかなんて未来の話してんじゃねぇよ、今ここに助けられる命があるんだよ、躊躇なんてしてる暇があるんなら一歩を踏み出せよ。

 そうすればさ、世界は少しずつ変わっていくから……。


 だからワタシが変わる前にホント急いで、このままじゃ野生に返っちゃう!


 弱々しく宙をかいている手がビクビクと震え、今まさに地に横たわろうとしたところで、ようやくゼタさんが犬の背中をぽんぽんと軽く叩いてワタシから意識をそらしてくれた。


「ほら、ペス。その辺で勘弁してあげてください。ここは往来ですし、彼女も困っていますから」


 ――ペス、だとぉ!?


 ありえない、全世界のペスに謝った方がいい。どうみてもペスって風体じゃないでしょ、貴方。


 しかし、急に突撃してきたにも関わらず落ち着き払ってる二人の様子からも薄々気がついてはいたけど、今ので確信してしまった。コイツらグルだ!


「そうだよ、ペス。こいうのは二人っきりの時にやらないと、それに一緒に散歩にきてる筈の子たちはどうしたの? もしかして置いてきちゃった?」 


(貴女も往来でやらかしてくれてるから先輩面は良くないと思います!)


 棚の上に上げてそのまま忘れてしまうのはよくあることだけど、自分ことを棚上げしたまま忘れてしまうのは自分が可哀想だろ、罪だって己の一部なんだよちゃんと向き合ってください。じゃないとワタシが可哀想だろ!


 しかしワタシの可哀想さなんて考慮されないのはいつものことで、どの言葉が効いたのかは定かではないけれど、どうやらリィルの言葉に感じるものがあったらしく、ペスさんはハッと何かに気がついたように顔を上げて立ち上がり、ワタシからようやく離れると、二つの首を巡らせて辺りを見渡した。


 もうオロオロとしか表現できないくらい狼狽えているのが見て取れて、おそらく一緒にきていた筈の誰かさんがいたことは想像に難くなくて、それを置いてまでワタシのところに駆けつけてくれたかと思うと、今までの蛮行も許してあげてもいいかなんて思ってしまった。 


 鼻をひくつかせながらその場でぐるぐる回っていたペスさんは、たぶん自分が犬であることを今し方思い出したのだろう。二つの首を伸びやかに上に向け、大きく遠吠えを一つ、辺りに響かせた。


 ――ヲォオオーーォ。


 まだその場に止まっていた幾人かが何ごとかとこちらを振り向いたが、一瞥をくれるだけでそれ以上のことはなく、そのまま雑踏の流れの中に戻っていった。


 ペスさんは数秒だけ耳をそばだてるようにじっとしていたが、進展がないことに焦れたのかもう一度声を上げようとしたところで、ワタシと同じくらいに小柄な人影が人々の間を滑るように抜けて飛び出してきた。


「ペスゥー!」


 艶やかな黒髪をたなびかせ、徒人族(ヒューム)の少女が空を駆ける。


 きっとワタシに突っ込んできたペスさんもこんな感じだったに違いない。


 犬は飼い主に似るって言うけど今回の場合はきっとペスさんが主側だ、何よりもあの母性がそれを証明してる。


 だからこの少女を軽々と受け止められているのも母性故で、母は強しってことだからワタシがチョロいペロいとか総じて簡単なヤツって訳じゃなくて、何をしても敵わないのは変わりなかっただけだった。


「もう! 勝手にいなくなっちゃダメじゃない!」


 相当急いで走ってきたのだろう。弾む息を涙声で潤ませながら、少女はペスさんの首元に顔を埋めながら固く抱きしめた。


「やぁ、オロア。久しぶりだね、ご機嫌いかがかな?」


「えっ?」


 ――あっ、その騎士様設定はまだ生きていたんですね。


 芝居がかった動きで膝をつき、オロアちゃんの目線に合わせたゼタさんが話かけると、彼女はバッという音を出しながら頭を跳ね上げ、見る見る首元からでこの上までそれと見てわかるくらいに赤く染めていき、ペスさんから弾かれたように離れた。


「あ、わっ! ゼゼ、ゼタお姉様?!」


 ――お姉様ときましたか……。


 いやね、見た目的にはなんの問題もないのは分かるし、キャラ的にも特にブレていないように思おうとしたけど既にだいぶブレブレだったのは置いておいて、似合っているからゼタさんはいいとしても、オロアちゃんみたいに小さな子にこういうことをさせるのは如何ですかね。


 せめて、そう。タイが曲がっているのを直せるぐらいの年齢に、具体的に言うとミッション系の高校に入学するまでは控えたほうがいいじゃないかと思います。


「も、申し訳ありません! お姉様がこんなにお近くにいらっしゃったのに、ご挨拶が遅れてしまって! とんだ御無礼を!」


 恐縮しきりに頭を深々と下げているオロアちゃんの顎に手を添え、クッと持ち上げながらゼタさんは甘い微笑みを浮かべてささやく。


「何をそんな悲しげな顔で謝ることがあろうか。私はね、オロア。

 君の明るく快活な姿にいつも元気をもらっているんだよ。君の笑顔を見る度に、私の心は日向で太陽をたっぷりと浴びた時のような温もりに包まれる。それは私だけではなく、街の皆がそうであるのは明らかだとも。

 それ程に、君の笑顔は魅力的だ。だから、そんな悲しげな表情をしていてはいけないよ。

 さぁ、笑って御覧。オロア……」


「お、お姉様ぁ……」


 誰や、百合の花なんて注文した奴は、怒る気力は既にないので返品処理だけお願いします。



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