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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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40 オークの嫁取り③


「全てはここから始まるんだね……。大いなる、惨劇が」


「そんな心配しなくても大丈夫だよ。流石のイディちゃんでも、そんな畳み掛けるみたいに何かに巻き込まれるなんて……諦きらめたって、いいんだよ?」


「素直って美徳だよね」


 リィルの御仏スマイルにはワタシも全てに許しを与えなきゃって気にさせられて同じように微笑んで返したけど、甘受する前に色々なものをぶち込まれてラッピングされたうえに、プレゼントはコ・ノ・コな感じで勝手にリボンまで結んでくれちゃって、雁字搦めの現実にホント許しを受けたいのはワタシだった。


 犬だって繋がれているのは首だけだってのに、この世界のハプニングさんは欲しがりで困っちゃいますよ。


 ――それでも、尻尾は巻いても背を見せたら終わりなんだよ!


 だからコンタクト代わりにウロコを重ねて直視できるように頑張るしかないんだけど、視力は矯正できても現実は矯正できないから、儘ならなさに目を瞑って深呼吸することも必要だって自分に言い聞かせる。


 頑なに閉ざした視界の中で、見ていられるものが少なくなって凝り固まった常識も、執着も、あの青く澄んだ空に巣立つ小鳥を放つような柔らかさで手放して、ゆっくりと開いた瞳の先で穏やかな陽の中に浮かぶのは、何一つ変わらない現実。


 ――目を開けても変わらないっていうならさ。代わりに開くしかないかな……、悟り。


 どうにか人生からの解脱を図ろうとする自分に、まずは幼女犬として扱われていることからの離脱が急務であることを言い聞かせて前を向いて生きてこうとしたけど、周りの人たちからにわかに唸るような感嘆の声が漏れたのに引っ張られて視線が横に逸れてしまったから、人生と正面から向き合うにはまだ早いってことですね。


 きっと大人になれば現実を直視できるようになるなんて思いもしなかったけど、『俺』が直視できていない結果がワタシだからもう手遅れだった。


「あ、出てきた。あの()がお嫁さんだね」


 ワタシが手遅れだったとしても、式はこれから始まるからなんの問題もないんだけどね。


(自由に生きろ。出来るさ、オマエなら……)


 羨望やら期待やら、もう随分と遠く離れてしまったものをワタシの分まで連れて行ってくれと、果てなき旅に出る若者の背に託すような、眩しいものを見つけた時の瞳で新婦の方を振り返って、


「髪なっが!」


 視線に乗せて送った諸々より現実的に重いものを抱えていたのでワタシの願いは彼方へ流されていった。


 幾何学的な、如何にも民族っぽい柄の布で包まれた髪は身長の三倍以上はありそうで、おそらく彼女の友人であろう二人が抱えながら歩いても所々を引きずりそうなくらいだった。


 小柄な体躯も相まって、なんかもう見ているこっちが重力に負けたくなるような光景だった。


岩人族(ドワーフ)の女性は、結婚する相手に自分の髪で織った衣類を渡す風習があるの。

 ていうのも、岩人族の女性の髪は凄く頑丈で剣も徹さない程なんだ。だから岩人族の女性は生まれてから一度も髪を切らないし、長い髪は未婚の証でもあるんだよ。でも絶対お手入れが大変だよね、あれは」


 お手入れの大変さは分からないが、彼女の髪がよく手入れされているのは遠目に見ても分かった。

 布の隙間から覗く髪は艶やかなストレートの金髪で、リィルよりも落ち着いた色合いだけど、オーブンでこんがり焼いた食パンに淡く透き通った蜂蜜を流したみたいに小麦色の肌によくマッチしている。


 緊張しているのか硬い表情をしているが、その身長から想像するより幼い顔立ちはしておらず、眼鏡の奥の銀色の瞳からは、仄暗い部屋で資料と向かい合っている研究者のような、鋭利で涼やかな知性が感じられた。


 けっして、眼鏡をかけた目つきの鋭い奴はクールインテリキャラなんだとかは思っていない。


「普段、岩人族の女性は髪を編んで胸の前に垂らしたり、首や腰に巻いたりしているんだけど、一昔前、今ではそういうことはなくなったけど、岩人族は女も髭が生えているなんて変な噂が信じられていた時期もあった話もあるんだ。

 きっと岩人族の結婚の風習を知らずに遠目で見ただけの人が、面白半分に流した噂が広がっちゃったんだろうね。

 噂がある程度定着しちゃったのは、岩人族が自分たちの住処からあんまり出てこないせいもあるんだろうけど」


「岩人族の男性はやっぱりもじゃもじゃなんですか?」


「ん~。一概には言えないけど、大体の人がそうかな~。若い人だとそうでもないけど、歳とるとみんな生やしてる印象があるかも」


「男性の髭は何かに使われないんですか?」


「あ~」


 女性の髪のように長くはならないとはいえ、見るからに硬そうなあの髭を使えば何かしらできるような気がする。チクチクするのはご愛嬌ってことで。


「できないんだって。……固すぎて」


 リィルの小さすぎる呟きは優しさに溢れすぎていたから、ワタシたちは揃ってこのどこまでも続いている気がする空を見上げずにはいられなくて、彼らにこそ許しは必要なんだけど、きっと子供を抱くことは許されないんだろうな。


 そう思ってみると『親父』の表情により哀愁のようなものを感じずにはいられなくて、同情の視線を向けようと思ったけど目が合ったら最後だろうから止めておいた。


「ただいま戻りました」


「おかえり~」


 せめて心の中だけでもと、娘を送り出す『親父』の肩を優しく叩こうとしたところで、ちょうどゼタさんが戻ってきてしまったので諦めるしかなかったのが本当に残念でならなかったのも確かだったけど、ワタシの背が足りなくて肩を叩けないことも確かだった。


 ――世界はなんて大きいんだ……。


 自分の矮小さにこのまま結婚式なんて見たら、もらい泣きが止まりそうにないな。


「あの()がノノイさんですか。……ん?」


「どうしたの、ゼタ?」


「あっ、いえ。岩人族が眼鏡をかけているというのは珍しいな、と思いまして」


「言われてみれば、そうだね」


 ゼタさんの疑問にリィルも一緒に首を傾げていると、また周りの人たちがざわつき始めた、と同時に遠くの方から地響きをさせながら大きな影がこちらに走ってくるのが見えた。


「おっ、新郎の登場だね」


 リィルの言葉に答えるように、その大きな影は地鳴りを響かせながら走り込んできて、ノノイさん、オオキさん親子の前で地面を割らんばかりに削りながら止まった。


 その勇ましい姿に、ワタシからはもう溜め息しか出てこなかった。


 見てくれは亀なのに巨大ってだけでもう怪獣ですよコレは、その威圧感だけで式が始まる前からワタシは泣き崩れそうで仕方ないです。


 動物っていうのは、あの地球サイズだからこそ可愛らしく見えるんだな。


 その巨大な動物の背に取り付けられた鞍というか椅子とういか、とりあえずそんな感じの物に跨っていた暗緑色の肌の、これまた大柄な人影が飛び降りきて、聞くからに重たそうな音を響かせて着地した。


 背丈は小さく見積もっても二メートル強、全身を覆う肉のつき方が人とは明らかに違っていてゴツいのになんか柔らかそう。


 若干潰れたような鼻と側頭部を覆うような大きな耳。何より下歯から伸びる猪のような牙が厳つくて、こう言っては失礼だけど想像していた以上に普通に格好良かった。


 でも豚っぽくないのはちょっと残念だったし、アフリカの部族が入れていそうな入れ墨みたいなものがなかったのは意外だった。


 何が言いたいかといえば、こう頭蓋骨をアクセサリーにしたり、もっと腕にシルバー巻くとかさ!


 ――欲求(ニーズ)に応えるって大事だと思うんです。


 ほら、こんな可愛い獣幼女にだけ世界を背負わせるなんてそんな、漢の中の漢である緑人族(オーク)さんがかような惨いことする筈がないって確信してたから、一緒に堕ちて欲しかった。

 ただ隣にいてくれるだけ良かったのに、それすら叶えてはもらえないんだ……。


(でも、知ってたよ。貴方が立つべきは、ワタシの隣じゃないって)


 彼が本当に立つべきはノノイさんの隣か前であることは決まり切っていたから、ワタシなんてお呼びじゃなかったし、ワタシもお呼びしてないのでハプニングさんは安らぎを覚えて。


 いつ何時、どの方向から(ハプニング)の襲撃を受けてもいいようにと腰を及ばせながら尻尾を巻いているワタシの前で、緑人族の彼が握しめた拳をクロスさせ、鈍い音が出る程の勢いで自分の胸部にその拳を二度叩きつけた。


 突然の打撃音に精神的にも大いに大打撃を受けたワタシのことなんて気にもかけず、緑人族(オーク)は片方ずつ軽く持ち上げた足を打ち下ろして杭打機(パイルバンカー)のごとく地面を踏み抜き、足を肩幅より若干大きく広げた中腰の姿勢で、またしても前触れなく吼えた。


「我が名はガルド! 偉大なる氏族。地を揺るがす雄叫び、力ある声より生まれしフォータスク族が戦士! 


 ここに、ノノイ・グライン・ベルグウィーク=オールグの、『全て』を貰い受ける!!」

 


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