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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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34 こうして平和は訪れた?

 荒涼とした空気が吹き荒ぶ。


 睨み合う二者の瞳に宿るのは、相手を完膚なきまでに叩きのめさんとする、一撃必殺の意志。

 たった一つの小さな切っ掛けで緊張が爆発するように瓦解するここは、今まさに銃に手を掛けんとするガンマンで西部な舞台(せんじょう)だった。


 ――ステージは戦場だ、って48人ぐらいいるアイドルも言ってたような気がするから間違いないね。


 互いに砂糖で心臓(ハート)を撃ち抜かんとし、シロップで溺死を狙う。


 甘味と甘味の殴り合いに、終始打ちのめされたのは主に審査したワタシたちだった訳で、それはおそらく幸福なことだったのだろうけど、闘技会が始まってから今まででワタシの精神がボコボコにされたのも間違いなかった。


 だいぶ場外から不意打ちで後頭部を殴打されたような気がするけど、それもこれまでだ。


 最終決戦みたいな雰囲気を撒き散らしながら採決を待つ二人の間では、見えない攻防が未だに繰り広げられているような気がするけれど、戦いは終った、終わったんだよ。


 争いがいろんなものを生み出すのは確かだけど、それに巻き込まれるワタシのことを考えてください。


 ワタシはね、ただ美味しいものを食べ歩いて、綺麗なものを見て回って、誰かの幸福を愛でるような、そんな静かな存在、そんなものにワタシはなりたい……、だいだいできてる?


 いやいやそんな馬鹿な。


 ワタシがこっちの世界に来て此の方それはもう二日しか経っていないっていう事実には苦情がきそうな程だけれど、中身と言えば超現実的ファンタジー絶景を満喫して、綺麗なハーフエルフお姉さんに追いかけ回されて、頬が蕩け落ちそうな美味菓子をたらふくいただいたっていうもうフルコースじゃねぇか!


 世の中結果が全てだってのは知ってるし、過程だって小さな結果の連続だけれども、世の中には好みというものがきっとあって、ワタシにもそれを選択する権利があるって信じてる。


 だから、ほんの少しでいいからゆっくりさせてくれると嬉しいので、そんなに睨み合わなくてもいいんじゃないかなって思います。


『さぁさぁさぁ! たった今、集計が終わったよ!』


 まぁ、両者がどんなに非視覚的で高度にスイーツな応酬をしたとしても、勝敗を決するのは平和的多数決なのは確からしい。


 ――真実の民主主義に万歳。


 噛みしめるまでもなくこの幸福にどっぷりと浸りきりながら、観客に向けて響かせたリリゥさんの声をリィルの影に隠れながら聞いた。


 さっきまでも凄まじかった両者の圧がさらに増して、火花を散らす気炎がワタシたちを焼き尽くさんとしているのが見えるどころか、なんだか実際に舞台がミシミシいっていて、自分でもなんで尻尾は既に巻いているのに逃げ出さないのか不思議でならない。


 でもきっと背を向けた瞬間、あのこっち見つめて嗤ってる妖精なのは皮ばかりの鬼畜さんに、面白おかしいお薬キメられちゃうのが見え過ぎているから、ワタシは受け入れているだけで足が竦んで動けないとかそういう訳じゃない。


 リィルの洋服の裾を握りしめているのだって、膝がガックガクに爆笑していて何かに縋っていなきゃ立っているのも儘ならないなんてことはある筈もなくて、だってワタシは何時でも地に足つけて現実と向き合っていますから、だから逃げ出さないんでこっち見てないで早く進めてください。


 ワタシの縋るような視線に、リリゥさんがヌマァ~って感じの嫌らしい笑みを顔いっぱいに広げていくのに、争いの空しさを胸いっぱい抱えながら、きっとまだ何かあるんだろうことは分かりきっていても、何もできないワタシはことの行く末を見守るしかないんだ。


『今回もいつも通り、審査員の持ち票は一人五点、観客は各一点の投票になってるよ。ではでは、結果発表! 近年稀に見る好試合の勝者はぁ!? 

 ドラムロールッ! ドゥルルル』


 見事な口ドラム。


 リリゥさんのドゥル音が辺りに響く中、二人の気迫はついに像を結ぶ。


 片や純粋に戦闘力が凄まじそうなモス○的な形に翅を広げ、もう一方では権力的に他の追随を許さなそうな蜂蜜壺を片手に持った熊なプ○さん的な形が浮かび上がる。


 ――アカン奴や、これ。


 五分後には夢の国警察と特殊東寶部隊(STT)によるドリームチームが強襲を仕掛けてくる、間違いない。


 シリアスとは和解できても、法律で殴りにくる著作権さんは話しかける間もなく「こんにちは死ね!」してくる上に、その姿は千変万化で数の暴力で押し潰してくるから、為す術なく蹂躙されて、あとに残るのは色々と毟り取られた無残な死体だけなんだきっと。


 ――こんな所にいられるかッ! ワタシは部屋に戻りたいぞ!


 ワタシの心の叫びが響く筈もなく、両者はまさに気合を入れ過ぎて破裂寸前の風船的状態だった。


『ルルルルル――ジャンッ!! 

 審査員票十対五! 観客票二十九対二十一。合わせて三十九対二十六でぇ、本闘技会の勝者は……「糸雲」! ガロンさん率いる「蜜糸堂」だぁ!!』


 リリゥさんの宣言とともに拍手と歓声が弾けた。


 固く握り締められ天に向けて掲げられた拳はそのための右手といった風のガロンさんは、表情を引き締めてやりきった感を出していたが、ネアさんが後ろから抱きついて、そりゃあ餅ふわであろう胸部装甲が後頭部を包み込むと、途端に鼻の穴を広げて残念な感じになっていた。


 それに対してイスゥさんは、どこまでも抜けるような蒼穹を仰ぎ見て飛び立つ瞬間みたいで、「おまえ……消えるのか?」な雰囲気にはかける言葉が見つからないような気がしたけど、バックでモス○を踏みつけて悠々と蜂蜜を舐め上げるプ○さんがいるのを見ながらでは、そもそも言葉なんてなかった。


 しかし、世の中にはそんなことは気にしない人もいる訳で、それぞれ思いに耽っている二人の感慨を、活き活きとしたリリゥさんの声がぶち壊した。


『それじゃあ、鎬を削った二人にインタビュー! 一言づつお願いね。

 まずはッ! 無敗を誇る蜜糸堂と善戦を繰り広げながらも、惜しくも及ばなかった。菓子店「ウィグ」の店長、イスゥさん!』


『……そうですね。今回、私どもは、今お出しできる最高の品を持って挑みました。それが及ばなかったのであれば、それは、言い訳をする気も起きないほどの、完敗です。

 どうやら私は、皆様にご愛好いただき、巷で騒がれていることに奢っていたようです。

 ……「オールグ一」という言葉を取り下げ、傲慢な態度を取ったことをガロン様のみならず、他の商店様にも合わせて謝罪いたします。申し訳ありませんでした。

 ……今一度、初心に立ち返り、一から出直したいと思います。

 皆様、改めて当店「ウィグ」をよろしくお願い致します』


 イスゥさんは最後まで完璧すぎる所作で観客に深々と腰を折った。


 そんな彼の姿に、観客から暖かな拍手が溢れる。きっとこれからも彼の店はオールグの人々に愛されていくだろう。それが手に取るように分かった。


『はい、お疲れ様でした! じゃあ、お次。

 見事、勝利を掴み、その不敗伝説に新たな一ページを書き加え、これはもう絶対王者と言っても過言じゃない! 蜜糸堂オーナー、ガロンさん!』


 しかし、そんなぬるま湯みたいな空気をリリゥさんは許す筈もなく、見事にぶちまけてくれて、こんなのが妖精とかファンタジーも末だな。


『売り言葉に買い言葉と、唐突に始まっちまった今回の闘技会だったが、たくさんの客にこうやって新しい商品を披露できる場を設けてもらったこと、そして最後の投票まで付き合ってもらったこと、まずは感謝したい。皆、本当にありがとう』


 ――イイハナシダナー。


『……だかな。今回の結果が、オールグにいる全員の総意なんてことはありえねぇ。どころか店持ってる奴は誰だって「オールグ一」っていう気概を持ってやってる奴がほとんどだろう。

 だからこそ、皆には実際に食べてもらいたい。そして、自分の「オールグ一」っていうものを、見つけてもらえたらと思う。そして俺たちは、それに見合うよう互いに切磋琢磨してこうじゃねぇか。

 そしてもう一度、この闘技会(ぶたい)でやり合おう。――それまで称号(こいつ)は、俺が預かっておく(・・・・・・)からよ』


 豪快な、漢気に溢れる笑顔で差し出されたガロンさんの手に、全てを出し切ったように力が抜けた表情をしていたイスゥさんは呆れたように苦笑を漏らしてから、今一度、瞳の奥に静かな闘志を燃やして握り返す。


 二人を、また大きな拍手が包み込んだ。


『是非』


 ここに、夢の国と東寶の和平は結ばれたのだ。


 ――スゴクイイハナシダナー。


『その時は僕がまた司会をしてあげるよ!』


 ――イイハナシダッタノニナー!


 自らダイブして混入してきた異物に全ての感慨は霧散されて、お薬的劇物な空気で埋め尽くされた。

 むしろリリゥさんは自分で作り出した空気の中を自由に跳び回って、おい誰かいい加減この妖精とは名ばかりのものをどうにかしてくれると嬉しいです。


『さて、先のことはともかく、今回の闘技会の賞品の授与に移りま~す。

 まず、惜しくも負けてしまったウィグさんには、審査委員の中で一番多く票を入れたゼタ様より、空帝騎士団(ルグ・アーセムリエ)の御用達の印が送られます。

 やったね!』


 ゼタさんからイスゥさんに、大きめの空帝騎士団の紋章(エンブレム)らしきものが手渡される。渡す方も受け取る方も実に様になっていて、絵になるって良いことだね。


 そんな二人の様子に見とれていたから、あの妖精らしきものの愉悦に満ち溢れた笑みをワタシは見逃していた。


『そしてそしてぇ、見事、勝利した蜜糸堂さんには。

 なんと、リィルさんより無料で新しいデザインの制服を作ってもらえる権利とぉ、イディちゃんを一日看板娘として使用する権利を贈呈だぁ!』


「待って待って待って」


『大丈夫、リィルさんから許可を貰ってるから!』


(それを大丈夫って言うなら世界から戦争はなくなってるから!)


 慌てて辺りを見渡しみると、リィルもガロンさんもイスゥさん(貴方は関係ないだろ!)までサムズアップしたイイ笑顔でワタシを取り囲んでいた。


 なんてことだ。全ては、初めから仕組まれていたのか!?


 しかし、ワタシもこのまま流され仕方ないと成程易くはない。


 ――個人を切り捨てる民主主義に鉄槌を!


「断固ッ! 断固拒否します! ワタシは看板娘なんて了承した覚えは」


「は~い、お薬の時間ですよ~」


「なあぁあっあっあっ」


 なんて奴だ。


 こんな、こんなことが許されていい筈がない。


 こんな、ワタシたちだけ美味しいものを食べて美味しい思いをするなんてことが有っていい筈がないから、ワタシが少しでもみんなに美味しさを伝えるお手伝いをしなきゃいけないし、ワタシが美味しさも可愛さも一番だから、何が言いたいかっていうと――、


「みんな~、看板娘のワタシを見にきてね~!」


 ――ワタシって最強だ!!



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