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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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18 ちゃんと向き合って


 場を沈黙が支配する。


 互いの沈黙同士がぶつかり合っているような緊張に、一筋の汗が頬を伝っていくような気がした。

 ここはまさに戦場、一手でも間違えばその場で無言の圧力にすり潰されるのが容易に想像できる。


 主に被害をこうむるのはワタシなのは言うまでもない。


 リィルさんはワタシを見つめたまま呆然と目を見開き、なんだか心ここにあらずといった感じで微動だにしない。

 ワタシも現実から離れて空想おおぞらに羽ばたいていきたいけれど、それをやったらもう二度と話しかける勇気は湧いてきそうにないので、なんとか踏みとどまる。


 それでもワタシの口は酸素が足りていないギリギリの金魚みたいに、パクパク開いては閉じてを繰り返すばかりで、一向に言葉を吐きだす様子はない。

 色々と考えていた筈なのに、言葉がゴロリとした大きな塊になったように喉につっかえて出てこなかった。


 なんとか事態を打開すべく、気力を振り絞ってさらに一歩前に出た。


「こないで!!!」


 急に覚醒したリィルさんの特大の叫びに物理的に跳び上がった。


 ――チビるかと思った。


 なんかこっちの世界に来ると、チビりそうになってばかりだなワタシ。


 いや実際にはチビッてないし、ただちょっとだけ驚いて尻尾と耳がビン立ちしただけだから、すぐに丸まった尻尾も股間を隠してる訳でも、ビビってるとかそういう訳でもないから。


 だから負けるなワタシ。


 既に身体の方はガクブルに震えているけど、心の方を奮い立たせて、なんとか声を出した。


「あの、ですね。皆さん上で待っていると言うか、リィルさんを心配してると言うか。こんな暗い場所にいると、心まで暗く落ち込んでいくと言うか。

 ここって居心地悪いですよねー、いや牢屋ですから居心地良くても何なんだって話ですけど……。

 きょ、今日もいい天気ですねー。いや、ここ地下だから天気なんて分かるかって言うのはご尤もなんですけど。

 ほら人間、ある程度日光を浴びないと身体に悪いと言いますし、いえリィルさんの白いお肌を害そうなんてこれっぽっちも考えてないですけど。

 でも、ほらっ。ぽかぽかの日向で寝るのって最高ですやん? 

 だから、その……。ワタシと一緒に出ませんか、ここ」


 偉いぞワタシ。声も身体も震えっぱなしだったけど、ちゃんと言いたいこと言えた。


 リィルさんは一度もこちらを見てはくれなかったけど、俯きっぱなしでちゃんと聞いてくれていたかさえ定かではないけれど、伝えたいことを全部吐きだせた。


 ワタシとしてはもう大満足です。


 ――だからもう帰っても良いですかね?


「イディちゃんは……」


「は、はいっ!」


 まさか応答があるとは……。


 思いもよらない展開に気をつけの姿勢で次の言葉を待つワタシにはおそらく気付いていないまま、リィルさんはボソボソと小さな声で話しだした。


「なんで、あんな酷いことした私のところなんかに来たの? 今だってそんなに震えてるのに。私の前に立ってるのだって嫌でしょ? 私のことなんて放っておいていいんだよ? 嫌な思いまでして、頑張らなくたっていいよ」


 ぽつぽつと零れてくる言葉の一つ一つが自虐的に響き、牢の中に浮かんで消えないままリィルさんの周りを取り囲んでいくようだった。


「あ、あの! ワタシ、嫌では、なかったです。

 ただその、ちょっと怖かったというか、急だったというか、常識の範囲外だったというか……。

 と、とにかく、そんな自虐的にならないでください。そ、それに……」


 そこまで言いかけて思わず口籠ってしまった。


 もしリィルさんが自分の暴走の原因がワタシにあると知ったら、やっぱり怒るだろう。

 そりゃあ、こんな辛気臭いところに入ることになってしまったのだし、それも自分の与り知らないところで自分の感情や心が勝手にいじくられていたら、いい気持ちする人なんていないだろう。


 言わない訳にはいかないのは分かっていても、いざ口に出そうとすると喉の奥でつっかえて言葉にしづらい。


 いやホントに、ワタシも辛いんですよ。自分じゃどうにもならなくて、やりたくてやった訳じゃないんです。犯罪を犯した奴はだいたいそう言う、っていうのは知っててもマジなんです。


 ――だからなるべく穏便に怒ってください。


「その。今回、リィルさんがあんなことをしてしまったのは、ワタシに要因があるというか。

 いえ勿論ワタシもわざとという訳ではなくてですね、その能力というか呪いというか、自分じゃどうしようもない類のことでして。と、とにかくアレの原因は」


「知ってる」


「……へ?」


 予想していなかった返答に、思わず素っ頓狂な声が漏れた。


 リィルさんは変らず膝を抱えたまま小さく苦笑を零し、ワタシから逃げるように視線を自分の足元に投げだしていた。


「イディちゃんに他人から好かれる特別な力があるのは分かってた。たぶん、チャーム(魅了)の類なんだろうけど。初めは魔力も感じなかったっから気のせいだと思ったけど、あそこまで急に自分の感情が昂り続けたら、さすがに気付くよ。

 でもそんなこと、どうでもよかった」


 視線も言葉も当てもなく彷徨って、どこに向ければいいのか自分でも分からない。投げやりな心情が透けて見えるようだった。


「イディちゃん、私ね。分かってて貴女にあんなことをしたの。止めようと思えば止まれた、でも止めなかった。

 どんなことをしても良いって思ったの。どんなことをしてでも、イディちゃんを私の元に止めておきたかった。たとえイディちゃんに嫌われても、ずっと私のところにいて欲しかった。離れたくなかったの……」


 全身の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。


 リィルさんが言っていることが本当なら、ワタシにやってきたことは全部、自分の意志で決定したってことだ。赤ちゃんプレイも猛烈な鬼ごっこも、全部リィルさんが望んでいたことだったんだ。


「よ、よかったぁ~」


「……えっ?」


 今度はリィルさんが間の抜けた声を零す番だった。


 思わずといった風に振り向いた顔には、何を言ってるのか理解できないと如実に書かれていた。大きく目を見開いて固まるリィルさんに、緊張の解けた笑みを返しながら徐に近づいていく。


「ワタシ、すごく不安だったんです。リィルさんが暴走したのは全部ワタシのせいなんじゃないか、変にしてしまったんじゃないかって。

 リィルさんの意志も感情も、なにもかも無下にして、狂わせてしまったのかも知れないって思うと、会うのも話すのも怖くて。

 他の人を見れば、そんなことはないって分かっても、どうしても不安だったんです」


 ベッドによじ登り、リィルさんと同じように膝を抱えて並んで座る。


「でもあの行動は、リィルさんが自分で分かっていて、選択して、その結果だって言うんなら。大丈夫です」


 ――だから、そんな不安そうに自分を責めないでください。


 自分にできる精一杯の笑みを浮かべて、安心できるように、力が抜けるように、寄り添った。


 座ってみてもやっぱりワタシの身体は小さくて、とてもじゃないが包み込んであげられるような包容力は皆無だけれど、それでも下から覗き込むなりにリィルさんの痛みを和らげられたらと思った。


 ここに来てから初めて、しっかりとリィルさんと向き合えた気がした。


 そんなワタシの顔を正面から覗きながら、リィルさんは何かをぐっと耐えるように唇を噛みしめると唸るような声を漏らした。


「……大丈夫じゃない」


「へっ?」


「全然大丈夫じゃないよっ!」


 今にも泣きそうな顔で詰め寄ってくるリィルさんに面喰い、突然肩を掴まれたのにも何の反応もできないまま、いつの間にかワタシは押し倒されていた。


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