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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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17 シリアス「まだ俺のバトルフェイズは終了してないZE!」


 ワタシとしてはようやくといった感じ(具体的には三話分ぐらいの時間)で階段を下りきると、小さな空間に出た。


 六畳程のそこは飾り気がなく、荒く削りだした石の壁が一層圧迫感を強めている。

 部屋の奥には小さなテーブルがあり、その上に置かれたランタンのような物がぬるりとした光で辺りを照らした時、ちょうどこちらを振り返った強面の看守の顔をホラーチックに浮かび上がらせたのを直視してしまい、思わず悲鳴を漏らしてしまった。


 しかしそんな反応に慣れているのか、看守はこちらを見とめるとにこやかに挨拶をしてくれた。よくいる、かは分からないが、顔は怖いけど優しい人に違いない。


 ワタシが事情を説明すると、あらかじめ話は通っていたようで、驚くほど簡単に牢に続く鉄格子を開け、リィルさんのいる独房の鍵を渡してくれた。


 ここでもワタシはどんな表情を返せばいいのか分からず、また曖昧な笑みを浮かべた。


 金属同士の擦れる耳障りな音を響かせて鉄格子を開かれる。


 灯りがぽつぽつと浮かぶ廊下はやっぱり薄暗く、ヒンヤリとした空気が溜まっていた。なんだかダンジョンの入り口だか、恐ろしい魔物の口のような感じがして、思わず息を呑んだ。


 しかし、ここで震えているだけでは何もならない。背中に看守の視線も感じるし、そもそも逃げ場はとうになくなっている。


 ワタシの観光のためにもここで引く訳にはいかないのだ。


 意を決して一歩を踏み出し、……たのに廊下は思ったより短かった。


 呆気なくリィルさんのいる場所まで辿り着いてしまい、心の準備ができていない。


 ――もう少し余裕を持たせてくれてもいいじゃない?


 どれだけ心の中で愚痴っても、目の前にある牢屋との距離が変わる筈もなく。胃痛と一緒に湧き上がてくる緊張と流れ出る心の汗を止めようもなかった。


 とりあえず相手の出方を窺うため、足音を立てないようにそろりそろりと慎重に歩を進めながら、背中を壁に付けて背後からの奇襲にも警戒しておく。


 そう、これはミッショだ。


 そう考えれば少しは緊張も紛れるし、何より余計なことを考えないでいられる。今のワタシは敵地に潜入した特殊工作員なのだ。


 段ボールがないのが悔やまれるが、ないものは仕方ない。


 腰を落として摺り足でじりじりと距離を詰め、独房の角まで行ったところで静かに腰を下ろす。中にいる筈のリィルさんに悟られないよう、細心の注意を払って覗き込んだ。


 目だけを出す(と耳も一緒にひょっこり顔を出すのはご愛嬌なので気にしない)ようにして角から顔を覗かせる。


 中は看守さんがいた部屋と同じ六畳程の広さで、頭上に光源が一つ取り付けられていた。電気を利用している様子はないので、おそらく魔法的なもので灯りを作り出しているのだろう。

 しかし、それでもなお牢屋の中は暗く、いたるところに重苦しい影が張り付いている。


 その部屋の隅に置かれたベッドのさらに隅っこ、膝を抱え小さく丸まったリィルさんが壁に埋もれるようにしてそこにいた。

 なんだかこの世の終わりみたいな雰囲気で、声を掛けていいのかさえ迷う。いや、声を掛けないことにはどうしようもないのだけれど。


 しかし、どんな風に声を掛ければいいのか、それが分からない。


 ここは、ゆるふわに可愛らしく『イディちゃんだぉ』的に顔を出せば、ワタシならその相手をぶん殴ってると思う。

 ちょっとおふざけを交えて『NDK(ねぇねぇ、今どんな気持ち?)』とトントンしながら出ていったら、脳天直下型パイルドライバー案件なのは間違いない。


 と言うより、どんな方法でいったとしても地雷を踏み抜くのが見え過ぎて怖い。


 ワタシには見える。

 隙間なく敷き詰められた地雷がリィルさんの周りに展開されているのが、一個でも踏み抜けば連鎖的に全ての地雷が起爆するだろう。


 うん、今は絶対に動かない方が良いな。


 とりあえず十五分ぐらいこのままリィルさんの様子を観察して、少しでも攻略の糸口を見つけることに専念しよう。


 ヘタレとそういうことじゃなくて、慎重なんだ、ワタシは。


 ――こちらスネーク(犬)。潜入に成功した。敵には気づかれて


「誰?」


 いたわ……。


「うんうん、誰でもいいや。私はここから出る気なんてないから。ほっといて」


 ――大佐シリアス! 動けない! 指示をくれ、大佐シリアス


 まさか部屋の外にまで地雷があったとは、これは予想外だった。


 いや考えてみれば空師という常に危険と隣り合わせの職業で、最前線にいた一流の戦士兼職人兼探検家というスキルてんこ盛りウーマンであり、ゼタさんと超人的戦闘を繰り広げた人物なのだから、気配ぐらい読めて不思議じゃないけれども。


 ああしかし、これで話しかけないという選択肢が消えてしまった。

 いやいや、話しかける気満々だったけどね、でもほら、自分のタイミングってのがあるじゃない?


 そこら辺をもうちょっと考えて欲しかったよ、大佐シリアス


 起爆した地雷から暗鬱とした炎が噴き出し、辺りを覆う息苦しさに翻弄されるばかりのワタシは当惑の極みに飲み込まれているわけで、もう本当にどうしたらいいんでしょうかね。


「もう、いいんだ。疲れちゃった。

 誰かに期待するのも、そんな誰かを繋ぎ止めようと必死になる自分を続けるのも。みんな……、みんな私を置いてどっか行っちゃうから。

 私はずっとこのまま、一人ぼっちでしかいられないんだ」


 独白のように零れたリィルさんの言葉に、腹の底で火が点いたように激情が溢れてきた。


 ――今のは流石にカチンッときましたよ。


 ワタシみたいなのが説教なんて、他人にご高説垂れるなんて、へそ茶なのは重々承知してますけれど。じゃあなんですか、今も上でリィルさんのことを心配して待ち続けているゼタさんとアミッジさんは、いったいなんだって言うんですか。


 碌に眠れていないのが一目で分かるぐらい色濃く出た隈を抱えて、ワタシの元に走ってきたアミッジさんの苦悶は誰のためだって言うのか。

 自分ではどうしようもないと嘆きながら震えて、大粒の涙を零してワタシに縋ってきたゼタさんの苦慮は、いったい誰のためだって言うんだろうか。


 頭に血が上った勢いに任せて鍵を突っ込み、ガチャンッと大きな音を立てながら牢の中へ飛び込んだワタシは、大きく息を吸い込み、全身に滾る感情を全部込めて吐き出した。


「……あのぅ」


 ――いや、うん。怒鳴り散らすとかワタシには無理でした。


 目一杯力を込めた筈の言葉はへろへろと弱々しく漂い、鬱々と燃える陰気に焼き焦がされ、そのまま虚しく霧散していった。


 それでも、なんとかリィルさんの耳には届いたようでビクッと肩を震わると、のそりと顔を持ち上げた。


「……イディ、ちゃん?」


 こちらを向いた顔は、それはもう上の二人以上に悲惨なモノで。目蓋は腫れあがり、唇は渇ききっていて、何よりあれだけ美しく輝いていた瞳も今はくすみ、光を映していないのではと疑いたくなる程だった。


 青白く染まった形相に気圧されて逃げたくなる心を叱咤して、もう一歩前に出て、今度こそはっきりと声を出した。


「えっと、その。お久しぶりです?」




 ――それで……、ここから一体どうしましょ?


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