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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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Epilogue 明日を夢見て


「事前に集まっていた者も、そうでない者も皆。急な要請にもかかわらず招集に応じていただいたこと、此度の関係者ならび、オールグに住まうすべての民を代表して、(わたくし)、アーセリアが御礼申し上げます。本当に、ありがとうございます」


 アーセリアさんの粛々(しゅくしゅく)とした声にみんなが一様に耳を傾けた。


 カーペットを敷いた床に車座になって、杯を両手で包むように持って語るアーセリアさんを見守るみんなの様子は、やっと見つけたお宝を今まさに開ける瞬間のようでもあり、これまでに散っていった友に思いを馳せているようでもあった。


 ただ、皆が皆、杯を片手にその瞬間を待ちわびていた。


「アーセリアの根元にオールグが築かれてから幾星霜(いくせいそう)。先人たちが積み重ねてきた思いが、この街を形作ってます。……しかし、その中には必要ではあってとしても、悲しみを伴わなければ成し得なかったものも数多くあります。

 涙を飲み、歯を食いしばり、耐え忍びながら、それでも、少しでも良き未来を子らに孫らに、その先に残さんと、手を取り合ってきました。

 しかし我々は、今日この時、その試練の一つを乗り越えました。――トイディ様」


「は、はい!」


 アーセリアさんの呼びかけと同時に、みんなの視線が一斉にワタシへと注がれる。


 全身に絡みついてくる視線に固まりそうになりながら返事をして立ち上がった。


 ワタシの手にはちょっとばっかり大きな杯を両手でしっかり捕まえて、アーセリアさんの隣まで進みでた。


「この場にいる者はすでに聞かされ、知っていることでしょう。

 我々は、アーセムに住まう虫、鳥獣、魔獣らと、オールグに住まう民が、良き関係を保ちながら共生し、互いの領分を犯すことがないようにと……。

 アーセムの頂上に御座(おわ)す幻獣様にそう取り計らっていただけるようにと……巫子を、召し上げていました」


 シュシュルカさんやバロッグさんなど、この件に深く関わっていた人たちの顔が沈痛に沈んで、悲哀の滲む影が落ちた。


「巫子と言えば聞こえはいいですが……要は体のいい生贄です。その中身が実際とは異なっていたとしても、幼い命に重い使命を押しつけ、背負わせたことに変わりはありません。この罪は私が、アーセリアが末代まで背負っていかねばならない業です」


 誰かが悪かったなんてことはない。必要なことだった。仕方ない。


 いくら慰めの言葉を並べてみても、言葉が変わるばかりで、そこで起こっていたことは変わりようがない。だからこそ、暗く落ち込む人々の瞳に一欠けの希望を見たような明るさが宿っていることが、この場の何よりもの救いになる気がした。


「しかし! それも今日この時を以って、終わりを告げます!

 この場にいる者は歴史の変革を目の当たりにする証人となるのです! ここ御座しますトイディ様の偉業を語り継ぐ、生き証人となるのです!」


 ――オォオオ!


 地鳴りのような歓声が部屋を揺るがした。誰もが中身が零れるのも気にしないで杯を振り上げ、笑みを、涙を零して喜びあっていた。


「トイディ様は、つい最近になってオールグにお越しになったばかりのマレビト様です。本来であれば、このようなオールグの内々の問題に関与されるようなことはありません。しかし、慈愛に満ちたお心をお持ちのトイディ様は、巫子の現状を嘆きました。そして、その類稀なる行動力によって、アーセムの幻獣様であらせられるレオゥルム様と交渉を図り、見事! 巫子の召し上げを中止するお約束を取り交わされたのです!」


 ――ワァアアァアアア!!


「ひぃっ! へ、へへっ。ど、どうも」


 さっきのよりも一段と大きな歓声が全身に打ちつけられて、ビクッと身体が震えて尻尾が丸まった。……いや、尻尾はこの場に来てからずっと股の間だったわ。


 というか、なんか凄いことになってて、どんな反応をするのが正解なのか分からない。


 見てくださいよ、みんなのあのキラキラした目を。まるで巨悪を打ち倒した勇者の凱旋に沸く聴衆のようじゃないですか。


 なんといっても見るからに一番昂っているがアーセリアさんていうのがね。ちょっと隣で長い耳をパタパタするの止めてください、摘まみたくなっちゃうんで。


 ――ワタシ、まだ何もしちゃいませんよ?


 これからもやる予定なんてないけどねッ!


「皆、静粛に」


 アーセリアさんの声に、みんなのガヤがピタリと止まる。こういうのを見ると、アーセリアさんってば意外と慕われてるんだなって思うよね。


 アーセリアさんはその様子を確認するみたいに、一度ぐるりと見渡してから頷いて続けた。


「今回の件を踏まえ、我々はトイディ様にでき得る最大限の謝意を示し、その大恩に報いなければなりません。そこで私は――トイディ様に特級空師の称号を献上したく思います!」


「……へっ? 特級、っていうのは一体な」


「さんせ~い!」


「そのくらいは当然でしょう」


 リィルとゼタさんの声を皮切りにあちこちから賛同の声が上がった。


 ワタシの声は喧騒に飲み込まれて誰にも届くことなく、周りの盛り上がりについていけずに立ち尽くすワタシを置き去りにして消え去ってしまった。


「如何でしょう? トイディ様、受けていただけるでしょうか?」


「は? えっと、あの」


 いやいや、まず特級空師ってなんだよ!? 空師って一級までって話じゃなかったんですか? その上があるなんて聞いてないよ。


 そもそも、ワタシを空師にしてどうしようって言うんですかね。言っとくけど、ワタシは今さっき持病の高所恐怖症が悪化して、高低差一メートル以上のところに上ったら精神的に死滅するようになってしまったからね。


 期待するだけ無駄だ……って言えるような空気じゃないですね、はい。


 ああもう! 受けるしかないんでしょ! 分かってますから、そんな期待に満ちた目でワタシを取り囲まないでください。新興宗教の集会って感じで恐怖しかないから。


 でも、返答にこれ以上の間を空けたら余計に面倒くさいことになるのは目に見えてる。


 下手しなくても、その程度の褒章しかないの? 的に受け取られて、余計に祭り上げられる気がする。ここは可能限り自信なさげに、小さな声で了承しておくしかないだろう。


「ワタシなんかでいいのなら謹んでお受けしますぅ……」


「謹んでなど、とんでもございません! 巫子の問題の解決だけでなく、幻獣であるレオゥルム様とのご契約。さらには今まで誰も成し得なかったアーセムの登頂に加えて、そこから生還。

 これだけの偉業をなされたトイディ様に対して、正直に申し上げれば特級の称号だけでは到底足りません。

 御所望を申し上げいただければ、必ずやオールグの総力をあげて実現して……」


「いい! いい! 特級空師だけで十二分ですからッ!」


「左様でございますか……」


 なんで残念そうにしてるんですかね!?


 もう、こっちとしてはお腹一杯なんで勘弁してください。


「トイディ様がそう仰るのであれば」


「ええもう! 身に余る光栄ですよホント!」


「分かりました。では、皆の衆。この良き日を堅苦しい話だけでしめてしまっては無粋というもの。固い話はここまでとして、本日を更に良き日とするべく、宴会を執り行いたく思います!」


「待ってましたッ!」


「早く始めてくださいよぉ!」


「落ち着きなさい。では、乾杯に際して、まずアーセムの頂上より遠路遥々(えんろはるばる)お越しくださいました、レオゥルム様よりお言葉を頂戴したく思います」


「うむ」


 それまで魂が遠出でもしてるんじゃないかってくらい、ワタシの頭の上で微動だにせず黙り込んでいたミニルムさんが大仰に頷いて見せた。


「この場に同席できること、此方も嬉しく思う。此方がいようと気負う必要はない。大いに飲み、大いに歌い。アーセムに其方らの笑声、存分に聞かせてやるがよかろう」


 ミニルムさんの言葉に誰もが歓声で答えた。皆が皆、もう待ちきれないといった様子でそわそわしている。空気自体が落ち着きなく流れているみたいにで、みんな今にも爆発でもするんじゃないかって気がする。


 こんな狭い空間で爆発に巻き込まれたら、か弱いワタシなんか一溜まりもない。今すぐ逃げるべきか、キョドりながら迷っていると、アーセリアさんがワタシに微笑んできた。


「では、トイディ様。乾杯の音頭を」


「えッ、ワタシッ!? いや、でも、その。あっ、はい」


 急なフリに慌てて断ろうと思ったけど、これはどうやっても逃れようがないことを早々に察して諦めた。もう、みんなワタシ以外にあり得ないって顔をしてらっしゃる。


 くそッ、ワタシは人前に立つと圧迫されてる気がして持病の閉所恐怖症が悪化するっていうのに。


「わぉ、えっ、その」


 ああもう駄目だ、頭の中でぐるぐる言葉が回って、どんなことを言えばいいかまとまらない。


 心なしか息も苦しくなってきた気がするし、視界まで回転しているような気もする。こうなったら、あの魔法を使うしかないッ!


 ――もうどうにでもな~れ。


「かんぱーいッ!」


「「「乾杯ッ!」」」


 それからはもうしっちゃかめっちゃかだった。


 地位も人種も関係なく、誰も彼もが飲めや歌えやのお祭り騒ぎ。何が楽しいのかも分からなくなるような乱痴気騒ぎに、全員が酔い痴れた。


 ワタシもいつの間にか空気に酔ったのか、それとも飲みものの中に酒でもあったのか、尻尾を振り回しながら騒いでいた。


 周りを囲むのは笑顔ばかり。こっちの世界に来てから色々と巻き込まれて、大変なことばかりだったけど、ゴールがこれなら悪くない。


 ポワポワした熱に心地良く浸りながら、力が入らなくなって落ちてきた目蓋の裏にみんなの笑みを描きながら、彼らの未来(あす)を願った。


 ――明日も良い一日になりますように。







 ――清々しい朝。


 しょぼしょぼする目蓋を擦りながら、カーテンを勢いよく開いて窓を開け放つ。


 遮られていた水が一気に流れ込んでくるみたいに、瑞々しさを孕んだ空気が部屋の中を駆け巡った。


 ぐぅっと背伸びをしてから腰に手を当てて、自分の身体を見下ろした。


「……うん。まぁ、そんな気はしてた」


 そこには、相も変らぬつるぺたぼでぇ。


 昨日、夢身心地で夢見た明日は、まだ異世界だった。


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