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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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114 今、巣立ちの時


 レオゥルムさんがビクッと身体を仰け反らせたのに対して、タタタさんはグラサンをちょっと下にずらして、枠の上から覗くようにじと~っとした目を向けてから、フイッとそっぽを向いて頬を膨らませた。


「今更気がついても遅うございます。(わたくし)のことなど気にせず、新しい生活をトイディ様と満喫されればよろしいのでは?」


 こ、これはッ! ……完全に拗ねてますね。


 ツンとした態度を向けるタタタさんに、レオゥルムさんはあたふたして羽を広げたり畳んだり。


 触れようにもどう触れたらいいか迷っている感じの、漫画なら間違いなく汗が吹き出る描写がされてる状態で、そ~っと下から覗き込んだ。


「そ、そう拗ねるでない、タタタ。何も其方(そなた)をないがしろした訳ではない。

 確かに分け身は下に向かうが、何も此方(こなた)がここよりいなくなくなる訳ではない。これからも変わりなく、其方と共にアーセムの管理をし、共にここより人の営みに思いを馳せよう。のっ?」


 身長差というか、体高差が凄いから、レオゥルムさんがタタタさんの顔を覗き込もうとすると身体を伏せて首を伸ばすしかなくて、なんか傍からは腹を見せるためにスタンバっている犬のようにも見える。


 なんとかご主人のご機嫌を持ち直そうと躍起になってる大型犬の様相……。


 そんなレオゥルムさんの姿、見とぉなかった!


 ――それワタシの専売特許だからッ!


 まさしく犬から骨を取り上げるがごとき所業。ワタシから(こび)をなくしたら何が残ると思ってるんだ。何も残らないんだぞ!


 そんな巨体でつぶらな瞳を潤ませないでください。それでなくてもワタシの居場所(テリトリー)がどんどん侵略されてなくなってるっていうのに、少しは遠慮してください。


 マスコットの立ち位置まで持ってかれたらワタシはどうすればいいんですか、こちとら耳まで入れても身長一三五センチくらいしかない幼女ですよ?


 大人げないと思うね、ワタシは。


 だから愛玩犬として腹を見せて尻尾を振る役割は大人しくワタシに明け渡してください。


 レオゥルムさんは、隠し持っていたセクシー女優の写真集が見つかってしまった新婚夫婦の旦那って設定で我慢してください。もしくは母親の真似をする娘に叱られる父親でも可。


 自分に非があるのかって言われるとそこまでって感じなんだけど、それはそうとして一刻も早く落ち着いて欲しいから、とりあえず謝っておこうっていう空気感。


 そういう惰性って大切ですよね。


「今をやり過ごせばなんとなるだろうという思考が透けて見える謝罪は必要ありません」


 で、大体の場合はバレると。


「なっ!? そのようなことを思っているはずがないではないか! 地上に降りて人々に寄りそうのと同じように、ここで其方と共にアーセムと人々を見守るのも重要な役目なのだ。どちらも疎かにする気など微塵もない」


「お勤めのことばかり……私のことは疎かしてもいいということですね?」


「そうは言っておらんであろう!?」


 胡乱な視線を横目に送っていたタタタさんは、レオゥルムさんの慌てようを一通り見られたのに満足したのかクスリと小さく笑みを零して、グラサンを外して向き直った。


「冗談です」


「そ、そうか。冗談であったか」


「腹を立てているのは冗談ではありませんが」


「ぬう!?」


 あからさまにホッとした様子でいたレオゥルムさんだったが、思わぬ追撃にグッと身体を仰け反らせてダメージを受けた。そんな自身の主の姿を見ながらタタタさんは一層笑みを深め、先程まで隠されていた瞳に一欠けの痛みを潜ませて細めた。


「ふふふ。お許しください、レオゥルム様。遊びが過ぎました。

 しかし、私も何分初めてのことで、この感情を内に残したまま折り合いをつけることができなかったのです。

 ……レオゥルム様の願いが叶ったことは間違いなく喜ばしいこと、それは私にとっても吉事でございます。万感を喜びとしてお見送りするのが当然のこと……当然のこと、なのですが」


 言葉に詰まって俯いてしまったタタタさんに、レオゥルムさんはゆっくりと身体を伏せて視線を合わせると、静かに語りかけた。


「……タタタ。後悔しておるか。此方と共にここに残る任を帯びたことを。

 他の巫子のように世を渡り歩き、人々の営みの側にその身を置き、他の精霊たちと戯れ友好を結ぶ。其方が望むのであれば、今からでも……」


「あり得ません」


 レオゥルムさんの提案をタタタさんの凛とした声が遮った。


「ここ、アーセムに残り、レオゥルム様のお世話に勤しみ、他の巫子からの便りをまとめる。これは私の望みであり、誇りです」


 顔を持ち上げ、レオゥルムさんの銀色の瞳をしっかり見つめ返しながら、タタタさんは身体の小ささを感じさせない立ち姿で胸を張ってみせた。


「その大役を私に一任してくださっていることに喜びこそ感じはすれ、重みに感じることなど、ただの一度たりともありません」


「……しかし、寂しく思うことがある。……それもまた、事実であろう?」


 レオゥルムさんの言葉に、タタタさんは反射的に返そうとして唇を震わせたけど、震えるばかりで数度と口を開いてみても、言葉は出てこなかった。


 自らのふがいなさに、口惜しく唇を噛むタタタさんの姿を、レオゥルムさんは優しく見つめながら深く息をついた。


「やはり、此度のことに関しては此方のみで応対するべきだった。……いたずらに其方の心を乱し、傷つけてしまった。すまなんだ」


 レオゥルムさんは身体を伏せたまま、長い首を使って器用に深く頭を下げる。それに対してタタタさんは激しく首を横に振った。


「レオゥルム様がお謝りになることはありません。すべては、私の心の弱さが招いたこと。わざわざレオゥルム様が前にお出になられて、トイディ様とお二人で話を進められようとしていたところに出しゃばったのは私です。

 ……思い上がっていたのです。いくらあの魔法騒動の調査が私主導で進められていたことだったとはいえ、主を差し置いて前に出るなど……傲慢が過ぎる行いでした。申し訳ございません」


 タタタさんも深々と頭を下げた。お互いに頭を下げ合っている二人を傍から見ながら、またしても訪れた場違い間に、尻尾をゆらゆらさせた。


 話はまとまって、やることやったから後は下の街に戻るだけのはずなんだけど、これは言い出せる雰囲気じゃありませんね。……どないしよ。


 というか、初めて話しかけられた時にタタタさんがいなかったのには、ちゃんと理由があったんですね。ワタシはレオゥルムさんが待ちきれなくて、先走っただけかと思ってました。


 でも、確かに考えてみると、タタタさんからすれば置いていかれているようなもんだしね。


 いや、実際にはワタシと一緒に行くのはミニルムさんで、レオゥルムさんはここから動かない訳ですけど、そうと分かっていても感情的には複雑なんだろう。


 生まれてからこの方、ずっと一緒にいた存在が自分から離れていってしまうようなものだもんなぁ。……あれ? そう考えると……ワタシってば諸悪では?


 いやいやいや。ワタシと一緒に来るって決めたのはレオゥルムさんだから。ワタシは何も強制してないから。むしろワタシに選択の余地はなかったから。


 つまり、ワタシは何も悪くない。そういうことだから、ワタシは黙っとくんでお二人は気が済むまでお話をどうぞ、続けて。


 心に免罪符を貼りつけて、なるべく二人の邪魔にならないように、さらに一歩離れた位置に移動して口を塞いだ。


「なに、其方の心情をおもんばかれなかった此方にも非はある。其方ばかりが責任を感じることはない。

 ……お互いに久方ぶりの客に舞い上がっておったのだ。故にお互い様だ。のぉ? 

 そこら辺で手打ちにせんか? 此方は、其方とこのような空気の中で時間を共にするのは……その、なんだ、息苦しさを感じてしまう……」


 レオゥルムさんの困り果てたといった感じの笑みに、タタタさんもようやく調子を戻して、少しだけ寂しさの残る笑みを返した。


「私の方こそ、これからという時に我が儘を申し訳ございませんでした。私は変わりなく、この場でレオゥルム様と共に務めを果たし、もう一人のレオゥルム様のお帰りをお待ちしております。……お土産お願いします」


「ふっふっふ。うむ、任された」


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