103 こんなに白いのに、黒なんだぜ……
えーっと、なんて言えばいいんですかね。その……ちゃうねん。
いやいや、焦るなワタシ。まだ犯人だと断定された訳じゃないんだ。諦めちゃ駄目だよ、まだ挽回効くって!
それにほら、ワタシは魔法も魔術も習ったことないから、実際どうすれば魔法とか使えるのか分からないし、そもそも魔力だってしっかり認識したことないんですよ。
つまり、ド素人どころではないワタシには、タタタさんたちの言う高度な技法なんて行使できる訳がないんだ。
たとえ、その効果がワタシの吐き出したセリフのまんまだったとしても、それは偶然の一致であって、ワタシが魔法を行使した証拠になんてならないッ!
そうですとも、何も慌てることなんてない。なんか身に覚えのありすぎるシチュエーションだったから、思わず自分のことだって勘違いしたけど、結婚式のお祝いで孫に囲まれて老衰で死んでしまえって言葉を贈るなんてのはよくある話ですよ。
いや~、焦りました。これってあれでしょ、誰にでも当てはまることをさもワタシにしかない事実のように話すっていう、占いとかによくある手口でしょ?
(ワタシ知ってるんだから! 簡単に騙される、チョロ犬だなんて思わないでよね!)
それに、こういうのは目を見れば分かるってことも知ってるんだ。目は口ほどにものを言うってね。ふふふ、すみません。賢いとこ見せちゃって。
ほぉら、タタタさんの目を見れば一目瞭然。ワタシ方を見て、一切微動だにしていない。
もう目の前の真実から目を反らさないって意思が凝り固まっていて、可能なら日本産の目薬を贈呈してあげたいぐらいだよね。
……完璧にワタシで決め打ちしてますやん!
これはもう目薬どころか言い逃れすら効かなくってますね。というか効くとか効かないとか以前の問題に、ワタシのこと以外に考えてませんってぐらいに思考までカチカチに固まってますよね!?
――ワタシ……こんな一途に思われたの初めてだ……。
でもさ……それって自分の可能性、潰しちゃってない?
いや、分かるよ。どんな分野でもその道の一流って呼ばれる人たちは、幼少の頃からそれに打ち込んで、脇目も振らずに努力してきたからこそトップに上り詰めたっていうのはさ。
でも、ちょっと思ったことない? 才能もあって、それだけの努力ができるっていうその素質……他に活かしたら凄いことになるんじゃないかって。
もちろん選択の自由は当人にあるのは当然だよ。でもさ、ワタシは感じてほしいんだ。
――世界の広さってヤツをさ……。
(レオゥルムさんは保護者的存在として、そこら辺をどのようお考えなんですかね?)
そーっと、レオゥルムさんの方へ視線を横に滑らせてみれば。
さっきまであれだけ自己主張の激しさを押しだしてきていたのに、まるで裁判中に本当にそこにいる必要があるのか疑問しかない、たまに裁判長の脇にいる人みたいに静かにお座りしていた。
――本当に裁判所だったのか……!
でも、その主人を立てる忠犬みたいな振舞いはどうなんですかね。
それはワタシのアイデンティティじゃないッ!
他人の存在意義を脅かすのはどうかと思いますよ。
まぁ、現在のワタシは意義どころか存在そのものが怪しくなっているらしいですけどね。
(…………何か話してくれてもいいですよ?)
これだけの時間を無言の圧力に当てるってことは、二人共ワタシの次の行動が気になって仕方ないってことですね。いや~、人気者のつらいとこですね。
(でも、ワタシのことなんて捨て置いて、話を進めていただいて一向に構わないんですよ? なんなら席を外しましょうか?)
しかし、どれだけ沈黙を保っていても二人からのリアクションはない。
カウンター狙いで待ちに徹するエリンギヘアーのアメリカ軍人並みの隙のなさだ。これは間違いなく素人には攻略不可能な難易度だから、もう少し様子を見たいところなんだけど……。
(もしかしてですけど……ターン制だったりします? あ~、申し訳ないです。手札がなかったもんで、ハハッ)
――山札すらないのはいじめか何かですか?
チクショウ、進める以外の選択肢がないとか人生かよッ!?
しかも始まる前からフィールド魔法が展開されてるとか規則違反でしょ、そんなとこまで人生に寄せなくていいんだよ。これは裁判するまでもなくジャッジキル案件だね。
でも、キルされるのがワタシなのは揺るがないんだろうな……。
くそぉ、こうなったら破れかぶれだ!
何もせずとも処刑されるのが変わらないなら、最後くらいみっともなく足掻いてやる。
騙せ、震えを二人に気取られるな。つばと一緒に緊張を飲み干して、いかにもワタシは無関係です、初めて聞くお話ですぅ~って感じに装うんだ。
相手に表情を読み取らせないように細心の注意を払い、タタタさんとレオゥルムさんを視界に収めたまま、少しだけ、ほんのちょぴっとだけ偉く見えそうな感じで腕を組んで、やや見下ろすように口を開いた。
「な、何かワタシがやったっていう、そういう、しょっ、証拠でもああるんですかぁ?」
ザァッと、一陣の風がワタシたちの間を吹き抜けた。爽やかな風に、胸のわだかまった濁りが洗われるようで、力の抜けた溜息が知らないうちに漏れていた。
――ふぅ。
…………自白! 明白な自白!!
もう明るすぎて白日の下に晒されても見えないくらい明け透けな自白ですよ。やらかしましたよ、ええ。
こんなん自供通り越して物的証拠じゃないですかッ! 調書なんて取るまでもない!
言葉もない! というより言葉するまでもない! なんだアレ!? キョドるだけで答えを教えるなんて……、ショタ神様からそんな能力を授けられた覚えはないんですけどねぇ。
今時は親に悪戯を問い詰められている子供だって、もう少し落ち着きを見せつけてくれるってもんですよ。あんなあからさまに動揺してたら、ワタシがやりましたって全身で訴えているようなもんでしょ。これじゃあ……!
「そ、そんな! トイディ様がなさったのですかッ!?」
「なんと。其方が原因であったか……」
ほらぁ~、もう答え合わせをするんですか? みたいな感じに拍子抜けした顔……へっ?
バッと勢いよく顔を向けると、二人は世界の隠された秘密を目の当たりにしたみたいに、驚きに開いた口が塞がっていなかった。
「……えっ、待って。待ってください。え、だって、ワタシが犯人だって分かってましたよね? 問い詰められてましたよね、ワタシ。無言っていう言葉の弾幕に晒されてましたよね?」
「い、いえ。魔法と魔術の違いをご存じないトイディ様が原因だとは、露ほども考えておりませんでした。ましてや、返事を急かすような気など毛ほどもなく。
そのようにお感じになられていとは……ご気分を害してしまい大変申し訳なく、面目次第もないことです……」
しゅん、と萎れた様子で俯くタタタさんに、レオゥルムさんが気づかわしげに顔を寄せる。
なんか、ワタシが悪いみたいな雰囲気が漂ってますけど、おかしくないですか?
「いやそんなことより! じゃ、じゃあ! あれは、あの目は!? あのワタシを縫い留める、針みたいに鋭い視線でずっと見つめてきていたのはどういうことですかッ!?」
「それは、その……トイディ様のご尊顔が、悩まし気に移り変わってゆくのが可愛らしくて。つい……って何を言わせるんですか、もう!」
(何を言ってるんですか、おお?)
そんな赤いほっぺに手を当ててもじもじしても可愛いだけだかんなッ!?
というか、何? ワタシはつまり、問い詰められていた訳でもなく、罪人として吊し上げられていた訳でもないのに、自ら首に縄をつけて処刑台に意気揚々と上がった馬鹿であると?
馬でも鹿でもねぇし! 犬だし!
犬なら首に縄がついているのは普通だから、ワタシも何も悪くなかったな、うん。
「……んな訳ない!」
「ひゃぁっ!?」
「ぬぉおお!?」
突然響いたワタシの叫びに、二人は弾かれたように声を上げて身体を強張らせた。
ワタシたちの間に痛々しい沈黙が流れる。
でも、そんなことを気にしている余裕なんてない。だってなんにしてもやらかしたのは間違いないんだッ!




