101 魔力ってな~にぃ?
「つい先日のことにございます」
あっ、駄目だ。分かってしまった。
この人、回り道しかないなら最短距離に直線道を作るタイプだ。これまでのわずかな会話からワタシの本能が敏感に嗅ぎつけてくれましたよ。
犬ですからね、嗅覚の感度はビンビンで、尻尾にもビンビンにキテますよ。
しかも、その道に障害物があったら爆破して直進することを選ぶ系ですね、間違いない。
でもですよ。仮に、本当に仮定の話ですけど、その障害物が実はワタシだったとしたら……どうします?
「あの日もレオゥルム様はアーセムとの同調のため、瞑想を行って……いたはずのですが、いつものように私の目を盗んで、下の、街の人族の様子を覗かれていたようなのです」
障害物はすでに爆破された後でしたね、すみません。
でもね、いくら粉々に砕かれたとしても、挫けなければ、人は何度だって立ち上がれるんだ。
みんな、転んでは立ち上がって、立ち上がって転んで、砕かれながら、すり減らしながら、お互いに支え合って生きている。
それが人を生きるってことなんだって、ワタシは信じてるよ……。
まぁワタシ、犬なんで。転ぶ以前に二足で立ち上がることができていないんですけどね。
「何を言うか。街を見守るのも此方の重要な務めの一つである」
「そのために他のお務めをサボられていては、本末転倒でございます。猛省のうえ、自重いただき、今後の務めに対する姿勢を改めてくださいませ」
「むぅ……善処する」
そう言いながらも、レオゥルムさんはタタタさんと絶対に目を合わせようとしない。
分かる、分かりますよ。ワタシも現実さんと最後に目を合わせたのはいったいいつ頃だったか……。振り返ってみても思い出せないくらいですからね。
アイツ、ホント目力が半端じゃないから。長く直視してられないんですよね、分かるわ~。
もしかしたら、ワタシがあったと思い込んでるだけで、そんなことはなかったのかもしれませんね、ハハ。
だからって訳ではないんですけど、これは善意からの忠告というか、ワタシが勝手に心配になっちゃってるってだけの話なんですけどね。
アイツ、もう少しあの目つきをどうにかしないと、友達が一人もいなくなっちゃうじゃないかと思うんですよ。
現実逃避の自己弁護とかそういうのじゃなくて、むしろ現実のヤツがワタシと向き合う努力が足りてないっていうかさ。
……ねぇ?
「善処をしていただく必要はございません。結果をお示しください」
ほら~。そうやってすぐに正論と手を組んで、ワタシたちを組み敷きにくるとことか直した方がいいと思いますよ? レオゥルムさんも苦虫を噛み潰したみたいな顔になってますもん。
空気も読めないワタシが、どうやったら猛禽類の表情を読めるのかって言われると、返す言葉はないんですけどね。
「失礼いたしました、続けます。要約いたしますと、その日もつつがなく通常通りの一日が流れていた、ということになります。……なる、はずでした。
時間にして昼過ぎの頃、突如として巨大な魔力がなんの前触れもなく爆発的な勢いで膨れあがったのです」
「うむ。あれ程の魔力の奔流。此方もかれこれ二〇〇年は感じたことがなかった。思わず驚きに声を上げてしまい、それが原因でタタタに気づかれてしまったのだ」
……なるほど。魔力が膨れ上がったと。……はいはい、あー、分かる分かる。ヤバいよね。
街中で急に魔力を膨らませるとか、わいせつ物陳列罪でしょっ引かれても仕方ないことですもんね。それが巨大で、凄い勢いで膨れあがったとなってはなおさら。
大人になってまでやらかす奴ってマジでいるんだ、って感じですよね……はい、本当は何も分かってないです。
「す、すみません。それって何が問題なんですか? その、ワタシ、そこら辺のこと疎くて。魔力の危険性とか分からなくて。正直ピンときていないというか……ごめんなさい」
なんか知っていて当然みたいな調子で話を進められてるもんだから、知ってなきゃいけないのかな~って強迫観念で武装した現実さんに脅されちゃって、知ってる風に自分を納得させてみようと思ったんですけど無理でした。
本当に現実って強引なところあるからさ。
つまり今までのはあくまでも強要された自白であって、ワタシの意思じゃあないから。証拠能力に疑問が生じるのは当然のこと。
(だから、何も知らなかったとしてもワタシのせいじゃない……ってことで、駄目?)
なるべく可愛らしく見られるように小首を傾げてみる。
「くっ!?」
瞬間、タタタさんの頬に朱が差す。何かに慄くみたいに身体を反らしているのは、可愛さを真正面から受け止めてしまったからですね。
……うん。もしかしなくてもこれは行けるんじゃなかろうか? まぁ、どこに行くのかはワタシ自身分からないし、進んでも虚無が広がっているだけなんですけどね。
虚無に誘われながらも、なんとかその場に止まることができたタタタさんは、「うう゛ん!」と咳払いをして仕切り直した。
「謝っていただく必要はございません。トイディ様のように魔力や精霊と繋がりが深い方の中には、身近なものであるがゆえに、そういった部分を気に留める機会がそもそもなかったという方が多いと耳にしたことがございます。
こちらこそ、知っていることが前提で話を進めるなど、配慮に欠けていました。申し訳ございません」
「い、いえいえ。こちらこそ話をさえぎってしまい、すみません」
……いや、ちょっと待って。ワタシが魔力やら精霊やらと繋がりが深いとか初耳なんですが?
そういうことは、普通チュートリアルで教えてもらえるもんでしょう。
本当にあの自称神様はなんなんですかね。こんな凄い重要っぽい情報を隠蔽しておくとか、訴えられたら負けますよ。
(沈黙を保つワタシの優しさに咽び泣いてください)
いやマジで、咽び泣く必要はないですけど、他人の脳裏に出てくるときくらいワタシのこと笑うの止めてもらえません?
頭の中でこっちを指差して爆笑しているショタはいつか泣かすからな。
「それでは魔力についてですが。まず魔力というのを簡単に言い換えますと、燃料です」
「燃料……エネルギーですか?」
「はい」
さっきまでのことがまるでなかったみたいに、タタタさんは神妙な顔で頷いた。
「魔力は空気のように、この世界を隅々まで満たしています。有機物、無機物の区別なく、すべての存在は魔力を宿しており、互いに干渉し合っています。
しかし、内包する魔力の量や干渉する力には強弱があり、その方法は多種多様です。それぞれの存在ごとに差があるのです」
「な、なるほど? えっと、それは種族ごとにある特別な力とかにも関係あるんですかね? たとえば、森人族の植物の声を聞く力とか……」
「無論、関係ある」
ズイッと、それまで沈黙を保っていたレオゥルムさんがワタシたちの間に顔を差し込んできて話に割って入ってくる。……寂しかったんですね。
「先程タタタが言ったように、魔力は燃料である。あくまでもエネルギーであるから、それをどのように使用するかは人によって異なってくる。
だが、すべての存在が一からその使い方を考え、学び、修練していたのでは効率が悪かろうよ。そんなことをしていては、エネルギーを使う前に寿命が尽きてしまう存在の方が多かろう?」
「えっと、つまり?」
「つまりです」
ここでもう一度タタタさんがインサイドをくい込んでくる! 熾烈なポジション争いだ!
「トイディ様が仰った森人族の耳などは、彼らの先祖が無意識的、意識的問わず、自分たちの望む形で魔力を効率的に使うために身体を作り変えてきた結果、生まれながらにして身につけた魔力運用器官なのです」
なるほど……迫ってくる二人の圧がすごくてあまり頭に入ってこないですね!




