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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
102/150

100 人生の地図ってどこで売ってるんですかね?


「よ、よろしくお願いします……へへへ」


 それに対して、ワタシのドブ川のゴミだまりみたいに濁った、卑屈さが性根に媚びりついた笑みよ。


 すでに意識することなく繰りだすことができるし、もちろん尻尾を振ることも忘れない、これが達人の域ってヤツですよ。


 しかし、どう贔屓目に見ても、越後屋(えちごや)な顔をしているのは鏡を見るまでもないのに、直視に堪えないはずのワタシの顔面を前にして、あろうことかタタタさんは笑みを深めた。


「ふふふ。トイディ様は随分と愛らしい笑い方をなされるのですね」


(…………何言ってんだコイツ?)


 予想外過ぎる言葉に声がでなかった。


(おいおいおい。鏡を見てきた方がいいぜ? 貴女の方が可愛いですからぁ!)


 天使かよ。口元を小さなお手々で隠す仕草は大人っぽさを感じるくらい様になっているのに、それで逆に可愛らしさを爆発させてくるなんて。


 いくら高いところにおわしますからって、そんな高高度爆撃を繰りだしてくれなくたって大丈夫ですよ? そんなことをせずとも、すでに虫の息ってヤツなんで。


「あっ。も、申し訳ございません!」


 あまりの破壊力に呆けてしまったワタシの様子に、タタタさんはパッと顔を赤らめた。


「お客様に対して愛らしいなどと、失礼いたしました。こちらへ、席をご用意しております」


 タタタさんは顔の赤さを隠すようにそそくさと背を向けると、先導して歩きだした。


 おそらくはワタシの能力の影響を受けたせいなんだろうけど、そうは言っても可愛いものは可愛いので、その後ろ姿にほっこりしながら後に続いた。


 レオゥルムさんも後からついて来てはいるんだけど、頑なにタタタさんの方を見ないようにする姿が、そっぽを向きながら母親の後にピッタリくっついて歩く男の子そのままで、レオゥルムさんが雄かどうかは置いておいて、やっぱりほっこりする。


 しかし、二人の和む姿を見たとしても、不安は払しょくされない。


 これから一体何が起ころうというのか……。それを考えると何が待ち受けているか分からなくて震えてきそうだけど、今まででも何が起こってるかなんて半分も理解できていない自信があるから特に問題なかった。


「こちらへお座りください」


 案内された先にあったのは、地面の枝葉がそのまま椅子の形をとったようなオブジェだった。


 促されるままに腰を下ろすと、枝や葉っぱがチクチク刺さることもなく、柔らかい芝生のような感触がお尻に返ってくる。


 逆に、良すぎる座り心地が居た堪れなさをくすぐってくるみたいで、落ち着きなくもぞもぞしながら尻尾を(ゆる)く揺らした。


「失礼いたします」


 タタタさんは丁寧に一礼してからワタシと向かい合って座った。


 レオゥルムさんはタタタさんの後ろに大きな体を小さく丸めて横になるが、まだ機嫌が直らないみたいで、ぶすっとした表情(に見える気がする)で目を閉じたまま押し黙っていた。


「まずは、改めて。かくも遠き地にご足労いただき、深謝申し上げます。トイディ様におかれましては、心身への負担計り知れず。かようなお手間を取らせてしまい、まことに申し訳なく……」


「がぁああ! よいよい、もぉうよい!」


「ひゃっ!?」「わうっ!?」


 突如、レオゥルムさんの怒声が響いた。


 これには、タタタさんをもってしても完全に予想外だったようで、悲鳴を上げて座った態勢のまま飛びあがったけど、こんなときでも可愛さを忘れないのはさすがだ。


 ワタシも、「いいんです、いいんです。ほら、自分の席ないみたいなんで。発言権もないってことでしょ? 大丈夫ですよ、黙ってますから~」みたいな感じにへそをぐりんぐりんに捻じ曲げてると思っていたから、急な大声に尻尾がボワッと爆発してしまった。


 ワタシとタタタさんは互いに目を丸く見開いて見つめ合ったけど、驚きすぎてアイコンタクトもままならないまま、そぉっと、レオゥルムさんに視線を流した。


 レオゥルムさんは身体を起こして目をカッと見開き、ワタシたちを物理的に高いとこから見下ろしながら大きく嘴を開いて声高に鳴いた。


「まったく。其方(そなた)は昔から口を開けば形式ばったことばかり! 少しは会話を楽しもうという気配りをしてはどうなのだ?

 いつもいつも、朝の瞑想(めいそう)のお時間ですや、祈祷(きとう)のお時間ですや、御就寝のお時間ですや。務めのことばかり!

 息が詰まってしまうわ、このお節介者の頑固岩石カチカチお角めッ!」


「なっ!? それはレオゥルム様が人族にばかり目をやって、ほかのお勤め疎かにされているからではありませんか!

 いつもいつも、私の目を盗んでは下の様子を覗いてばかりいて!

 貴方様のお務めはこのアーセム全体の及ぶのですよ? それを言うにこと欠いてお節介? カチカチお角!? 撤回してください! この巻角は(わたくし)の誇りにござます!」


「知っておるわ! 口が過ぎたようだの! すまなんだ!」


「許して差し上げます!」


(仲良しかッ!?)


 いや、こんな地の果てみたいなところにいるんだから仲良くなかったらやってられないんだろうけど、それにしたって恐ろしく早い仲直り。ワタシじゃなかったらツッコんじゃってるね。


 ……ワタシは何を見せられてるんだろうな……コント?


 いやいや、そういうことでもないだろ!


 思い出せ! ワタシがなぜこんな片宇宙まで送り込まれることになったのかを!


 そうだ、ワタシは重要な任務を帯びてここまで導かれてきたんだ。そう、あれは……なんだっけ? あれ? えっ? もしかしてだけど……ワタシ、なんでこんな宇宙に片足突っ込むような事態になったのか、未だに知らないじゃかなろうか……どういうことやねん!?


 おおおおちおちおち、落ち着けワタシ!


 そうだ、知らないことは人に聞けってばっちゃが言ってた! 道に迷ったら人に聞けば教えてくれるってばっちゃが言ってた!


 よぉっし! そうと決まれば誰に聞くかだけど、この場には選択肢が二つあるように見せかけて、その実、一つしか存在しないのはワタシくらいになれば見抜くまでもない。


 その選択は……タイミングが分からなくて話しかけられない、これしかないね!


 ……どうして人生の道は誰も教えてくれなかったんだよぉ!


 迷ったまんまなんですけどぉ!?


「あ、あの! トイディ様!」


「あ゛ぁい!?」


「い、いかがなされましたか?」


 いつの間にかタタタさんがワタシの(かたわ)らに膝をついて、心配そうに覗き込んでいた。


 深紅の瞳からは、純真にワタシの身を案じている様子が伺えて、キチガイじみた返事をした身としては居た堪れなさに震えるけど、それ以上に縋りつきたくなる。


 これは間違いなく誘ってやがりますよ。


 ――仕方ねぇな。その見え見えの誘い……乗ってあげますよ!


「タタタさんは」


「はい。なんでございましょう?」


「なぜ、ワタシはここにいるとお思いですか?」


 ――フフ、フゥアッハッハッハァア! 言ってやったぜ!


 クックック。まさかレオゥルムさんもタタタさんも、ワタシが何も理解していないポンコツとは思っていなかっただろう。


 だがしかし、蓋を開けてみればコレだぜ!?


(さぁ、ガッカリしろ!)


「……それは、茶番は止せ、と。そういうことでございますね?」


 ………………うん?


「承知いたしました。……そこまでのお覚悟を、すでに固めておられたのですね」


 ……いや。いやいやいや、待って待って。固まってない、固まってない! むしろユルユル! 頭もキャラもユルユルのガバガバに固まっていないのが売りのワタシですよ!


 さっきも言った(言ってない)けど、知性も人生も迷子なんだってばぁ!


「御見それいたしました。頭から本題に入っては性急であると、自身の器の小ささを基準にトイディ様の大器を推し量り、要らぬ憂慮を重ねていた自身を恥じ入るばかりです。――さっそく本題に入らせていただきます」




(――そうは言っても、人生回り道も必要だと思いません?)


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