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異世界ファンタジーのための私的プロット・草案  作者: 黒一黒
第1章 世界を見守る巨樹と空師の街
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98 福がくるならよぉ、笑うしかねぇだろ!


 これはあれだ。そう! 本能が叫んだんだ。


 犬としては、自分より格上の存在を前にしたからには、下手にでながら腹をだすのはむしろ自然というか、誇りですらあるんですよ。


 飼い殺され予定の誇り高き室内ペット犬候補としては、ここらで犬ポイントを重ねておかないと。


 最近なんでか責任のある役割を押しつけられて、まるで人間みたいに扱われがちだかね。


 犬なら犬、人なら人。


 どっちつかずっていうのが一番良くないんだ。


 だからこれは、あんまりな圧に折れてとか空気に流されてなんてことはなくて、むしろ自分の芯ってヤツをしっかり持ったうえでの選択だから。


 ワタシ、胸を張ろうと思うんです。


「ふむ。それはまとこか?」


「……お、おそらく?」


 張れる胸が物理的にない場合は例外だから大丈夫、セーフセーフ。


「………」


「………」


 アウトですよね。分かってるから、そんな見つめないでよ恋しちゃうでしょ!?


 チクショウ、ドキドキが止まらねぇ。


 きっと遮蔽物のない原っぱで、辺りを警戒しようと何げなく後ろ足で立ち上がったときに、鷲と目が合ってしまったウサギもこんな気持ちだったんだろうな。


 ふふふ、たまんねぇや。


「……ふぅむ」


 ……ゴクリ。


 瞳を通してワタシの奥底まで見通そうとしているみたいに、グリフォンさんがグッと首を伸ばして覗き込んでくる。


 向こうからすれば、さっきの発言の意図とこっちの性根を暴いてやろうと目を凝らしているってだけなんだろうけど、ワタシからすれば自分の全長より大きな猛禽類の顔が迫ってくるわけで、食べられる瞬間のスナック菓子の気持ちが分かりすぎて、ワタシたち仲良くなれそうだねって親友フラグが乱立するあまりマブダチ百人も夢じゃあないですよ。


 こんなに緊張したのは小学校の授業参観以来だぜ。誇ってくれていいんだよ?


「……クッ」


「……く?」


 グリフォンさんはふいに視線を外すと、俯くようにグッと首を前に巻き込んだ。


 何かに耐えているみたいに身体を震わせている(さま)は、歯を食いしばって怒りを抑え込んでいるように見えないこともなくて、やっぱり友達は選ぶべきだったんだって身に染みて、染み過ぎて心も身体も湿気ってしまいそうですわ。


 きっと、「コイツ、スナックとマブダチらしいぜ。軽く遊んでやろうぜw」っていうふうに、ワタシもサックリ軽やかなうちにいただかれてしまうんだ。


(でも、スナックは一回でも手をだしたらマジで『やめらんねぇからよ。とまんねぇからよ。とまるんじゃねぇぞ』って、癖になって抜け出せなくなるってハッピーたぁーん先輩が言ってたんで、マジでよしておいた方が身のためですよ。いやホント、ダメゼッタイ)


 キョドると泳いで震えるのは目だけじゃなくて身体も震えて、精神的には泳げなくて溺れそうになるんですね。く~、また賢くなってしまいました!


 天井も先の見えない成長を続ける自分に、感動のあまり泣きそうになっているワタシの前で、たわんだバネが弾けるみたいに、グリフォンさんの首が勢いよく振り上げられた。


 ついに最後の審判が下されるんだと、ビクッと瞬間的に震えを十割増して身構えた。


「ハッハッハ!」


「……へ、あ……? えっと……、へへっ」


 しかし、予想に反して振り上げられた(くちばし)が叩きつけられることはなく、顔を上に向けて反らしたまま、グリフォンさんは喉が波打つのが見て取れるくらい豪快に、声を上げて笑いだした。


 さしものワタシも、このセオリーから外れた展開には一瞬呆けて間の抜けた声を上げてしまった。


 しかし、そこはベテランのゴマスリストとして、即座に長く下積みしてきた下心に裏打ちされた猫ならぬ犬なで声で愛想笑いを繰りだし、流れを止めることなかった。


 今のはリカバリー早かった。減点どころか芸術点での加点も期待できますね。


 ワタシの手腕に気を良くしたのか、グリフォンさんの笑いもとどまることなく大きくなっていき、その笑声(しょうせい)はアーセムの樹冠の隅々まで響いて枝葉をザワつかせた。


「ハーッハッハッハ!」


「へへへっ」


「ハァーアッハッハッハ!!!」


「へっへっへっ」


(怖いわッ! 笑いすぎやろ! え、何? そういう病気の人?)


 いや、人じゃないのは知ってる。でも人じゃないからって、自分から人並外れていくのは違うと思うんですよ。


 何事も並が一番ですよ、並が。


 ちなみに現状のワタシは許容量が並々一杯なんで、もうちょっとで色々溢れます。そこんとこ気をつけてくださいね?


「ハァ……。いや、すまんな。此方(こなた)は滅多なことではここより動くことができぬ。最後に動いたのは、まだ人がこの街を築く前であった……。

 故に、こうも(けむ)に巻くような物言いをされたのは初めてでな。

 やはり、人というものは面白い。声を上げて笑うなどいったい何時ぶりか」


「さ、左様でございますか。へへ、お楽しみいただけたなら幸いでごぜぇます。はい」


「ああ、楽しませてもらったとも。簡単には手の内を晒すことはしない……これが腹の読み合い。心理戦というものなのだな!」


(違います)


 えっ? 大丈夫かよ、この幻獣様。薬でもやってんじゃあねえだろうな。


 今の流れから心理戦にしゃれ込むとか、昨今の色々と肝要になってきた社会でも許されねぇよ。


 ――でもワタシは許します。


 急に言葉にならない思いを叫びたくなることは誰にでもあるってハッピーたぁーん先輩も言っていたし、先輩の周りにいた人はだいたいそんなのばっかりだったから。


 ワタシもハッピーたぁーん先輩みたいに、みんなを幸せにできる存罪になるんだ。だからまずは隣人を許すことから始めようと思います。愛するのはまだちょっと早いと思うんで。


「ふふふ、久方ぶりの客だ。じっくり楽しませてもらうとも。さあ、次はどのような催しで楽しませてくれるのだ?」


 欲しがりさんだ! コイツ、欲しがりさんだ! 絶対に飲みの席とかで部下に無茶ぶりで一発芸とかさせて、周りをしらけさせて自分だけ爆笑しているタイプだ。


 チクショウ。欲しがったからってなんでも簡単にもらえるなんて思ってたら、社会に出てから苦労するんだからな。そういうことなんで、ちょっと時間もらってもいいですか? ネタ確認するんで。


「さぁ、早う早う。場も温まり、これからさらに盛り上がるのであろう?」


 ブーメランが投げられる前に頭に刺さってるとか、これはもう才能としか言いようがないね。


 政治家とか向いてる気がする。


 そして政治家先生としての未来が約束された今なら、きっとこの状況を打開する腹黒さも備わってるはず!


 ――お先もお腹も真っ暗、ってね。へへ……。


 すでに暗中模索って感じに、黒星に包まれ過ぎて闇が広がってますよこいつぁ。


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