098 一つの終幕②
「さて、あのデカブツどうしようかしらね」
私がそう呟くと、涙がすっくと立ち上がり、ツリーデーモンへと進んでいく。
一瞬止めた方が良いかと悩んだけど、私の横を通り過ぎる瞬間、真っ赤に腫らした目で心配するなと目くばせしてきたので、とりあえず私は涙に任せることにしたわ。
「嫌だ!来るな!来るなぁあぁぁあ!」
「GRRHHHHHHHHHHHHH」
ツリーデーモンと宇賀田が叫ぶ。大振りに振り上げられた両腕が涙に振り下ろされるが、そんな単純な攻撃に当たる涙じゃない。掻い潜るように前へ飛び、そして宇賀田本体の胸倉を掴む。そして、無理矢理宇賀田をツリーデーモンからブチブチと引きずり出す。
「ヒィッ!ッッがあああああああああ!!痛いぃぃ!!!」
半分手足は同化していたのでしょう。ポイっと捨てられた宇賀田の手足は木に変化しており、引きちぎられていたにも関わらず、血の一滴すら流れていない。
宇賀田を抜かれたツリーデーモンは断末魔のような声を上げると、その動きを止めたわ。どうやら、ツリーデーモンは寄生先の生き物の生命力を使って動くモンスターみたいね。
「うああああああああああああ!もう嫌だ!何で僕がこんな目に会わなきゃいけないんだああああ!!」
自分の体を、両手を見ながら叫ぶ宇賀田。
「瞳、まずは俺からだ」
そう言うと涙は、宇賀田の傍までコツコツを歩み寄ると、宇賀田の背中を踏みつける。しっかり体重乗っけてるわね。
「おい、糞野郎。久しぶりだな」
「る、涙、お前!何で生きてるんだよおおおお!」
「ギャアギャアうるせぇ奴だな、相変わらず。さっきそこの魔王が説明してただろう。テメェが俺たちを殺した後、勝手に死んでたところをあの野郎が俺たちが生まれ変わった世界にテメェを連れて来たんだとよ」
「そ、そんなことがあるわけ……ッ!」
「まぁ、信じる、信じないはどうでもいい。とりあえず、テメェは心底殺してやりたいが、瞳がテメェを許すと言っている。だから、俺はこれくらいで許してやるよ。――円環の蛇」
怖気を感じる程の魔素を取り込み、涙は魔法を展開する。
「ほらよ!」
そして、宇賀田の顔……のすぐ傍の床を踏み抜いた。その衝撃で宇賀田は吹き飛び、ゴロゴロと転がった。……大丈夫なんでしょうね。
「瞳、あとは譲ってやる」
「……ありがとう」
私は転がっていった宇賀田のところまで行くと、彼の隣に腰を下ろした。
彼の顔を見ると、少しだけ手が震えた。でも、完全に怯え切った彼を見ると、手の震えも収まったわ。
「宇賀田って言うのね。貴方」
「お、お前は」
「涙の姉、二条 瞳。貴方が涙と勘違いして殺した女よ。……私と涙は双子なの」
「ハ、ハハ、なら僕は、関係の無い女を嬲り殺したっていうのか!?いや、関係なくなどない!貴様らが似すぎているのが悪いんだ!そもそも、あの女が、僕をコケにしたから……ッ!そうだ、僕は悪くない!なぁ、許して、許してくれよ!」
……思ったよりも度し難いわね。え、私これを許さないといけないの?さて、どうやって手打ちにしようかしら。思ったより難問じゃない?これ。
何となく魔王の方から気配を感じて目をやれば、あの性悪、笑ってやがるわ。腹抱えて。ああ、何だかもうさっさと終わりにして、あとはネロたちに任せたいわね。
「なんか、今の哀れな貴方を見てると、言葉も出てこないわ。正直完全に興が覚めたわ。涙にも、言いたいことは言えたし、貴方はそうね、どうしようかしら」
本当にどうしましょう。
そういえば、私がこいつを許したところで、こいつは一体どうなるのかしら。別に私は許すだけであって、助ける気は微塵もないわ。
「うーん、面倒ね。そうね、貴方のことも神々に委ねるわ。私は、もう貴方を許してる。あとは裁きを待ちなさい」
「そ、そんな!助けてくれ!助けてくれよ!」
「五月蠅い!」
私はなおも縋る宇賀田の額に膝を入れたわ。
昏倒する宇賀田。何だかグダグダになっちゃったじゃない!
「くふ、くはははは!」
すると魔王が笑いながら拍手をする。
「貴様ら姉妹の決断、しかと見せてもらったぞ。しかし、まぁなんだ。及第点だな」
「随分と偉そうじゃない」
「我は偉いからな。しかし、良かったな。これで本格的に世界を滅ぼす計画は中止となった」
「は?どういうことかしら」
高笑いする魔王。
向こうも決着がついたのか、アルガスとアルメリアも、今やこのフロアの全員が魔王に注目しているわ。
「何、貴様らがこの哀れな男に対して安易に復讐をするのなら、我はこの世界を一度初期化しようと思っていたのだ。ヒトを滅ぼし、新たな器を魔族とし、新たな秩序を作ろう。そう思っていたのだ」
神が遠くなった地の魂を見たかった。魔王はそう言った。
「それで、及第点ってわけね」
「如何にも」
「全く、この世界の神はどうにも戯れが過ぎるのではなくて?」
私は魔王に歩み寄る。
キルギスが間に入ったわ。
「魔王様に近寄らないで」
「何よ、記念に握手でもしようと思っただけじゃない」
私がそう嘯くと、魔王はキルギスを下がらせる。どうやら、掛かったようね。
私が手を差し伸べると、魔王も手を出す。
「デネロスの仕掛けであろう」
ドキッとする。
しかし、魔王は私の手を取ったわ。




