097 一つの終幕
ニコさんの考え方自体に賛否はあると思いますが、ただの物語としてお楽しみください。
存外に、ツリーデーモンという化け物は存外に鬱陶しい。
しかも、厭らしいことに宇賀田の魂を盾にしてくる。フィズィはそれを物ともせずに攻撃しようとするけど、私はその攻撃からツリーデーモンを守っている。
「邪魔すんじゃねェよ!テメェは誰の味方だ!」
「するわよ馬鹿!」
フィズィは完全に宇賀田を消滅させる気だわ。
私はまだ、自分がどうしたいのか分からない。ただ、このままただツリーデーモンを宇賀田共々消滅させるのは何だか、違う気がする。
そんな私たちを魔王、いや、神アルビオはニヤニヤと嗤ってみている。本当に性格悪いわね!
そんな中、フィズィの放った水の大蛇が宇賀田の魂を掠る。捌き切れなかったッ!
響く宇賀田の悲鳴。
「フィズィ!」
「テメェはあくまでそいつを守るつもりかよ!なら、まずはテメェからノしてやらァ!――八咫蛟!」
標的が私に代わる。
「――盾よ!」
迫りくる大蛇を盾で防ぐ。が、大蛇の影からフィズィが飛び出してくる。
掌底が私の鳩尾を抉り、私は後方に勢いよく吹き飛ばされる。
正直言って、フィズィと私の実力差は酷いものね。武術を思い出したあの子に私が勝てるわけないじゃない!現に今も相当手加減されているみたいで、吹き飛びはしたけど致命傷には程遠いわ。私はすぐに起き上がって、フィズィが放ったツリーデーモンへの雷撃を魔法の盾で防ぐ。
「ッ!加減し過ぎたか!」
「フィズィ!一旦落ち着きなさい!」
「うるせェ!」
再び私を狙うフィズィ。私はもう普通に対抗するのをあきらめ、巨大な魔法の結界を展開。ツリーデーモンと私を包む。
「食い破れ、――破壊ノ蛇」
バカみたいな衝撃。結界が軋む。
「随分と硬ェじゃねェか、よ!」
更にもう一発。結界に罅が入る。ニヤリとフィズィ。
「もう一発ッ!」
「――解除!」
私は結界を解除し、フィズィの一撃を躱す。勢いあまって態勢を崩したフィズィに体当たりを仕掛けるが――。
「甘ェんだよ、バカが」
逆に軽く投げられてしまう。
私は悲鳴を上げながら転がった。目が回るじゃない!
「……なぁ、ニコ。いや、瞳」
フィズィは私を瞳と呼ぶ。
「何でアイツを庇うんだよ。もしかして、お前、覚えてねェのか?」
「……」
勿論覚えているわ。
むしろ、忘れられたならどれだけ良いか。今だって、私の心の奥底に食らいついている。忘れたわけじゃない。尊厳を奪われ、玩具にされ、憂さ晴らしのためだけに殺された。そんな記憶。
私だって、アイツを庇いたいわけじゃない。殺したい程憎い。
でも、それはニコではなく、瞳の記憶。
「私は、私を間違えないわ。私はニコよ。ニコ=ウォーカー」
「……なぁ、お前、逃げてるだけじゃねェか?辛い記憶から」
「逃げてなんて無いわ」
私はしっかりとフィズィの瞳を見る。
「なら、何で俺の邪魔をする。俺が最期に見たお前の姿は、今だって涙が出そうになるほどヒデェもんだった。俺はあいつを殺したい。魂なんてものがあるなら、それごと消し飛ばしてやりたい。なるべく惨たらしく、お前が、俺たちが味わった屈辱を味わわせながら」
フィズィの瞳に憎悪の炎が揺らめく。
「……私だって、その気持ちが無いわけじゃないわ」
「じゃあ何故その気持ちに従わない!」
「それじゃあ、駄目なのよ」
「なんでだよ!」
何故。
そう、何故駄目なのか。私も上手く言葉にできない。でも、たどたどしくでも、きっと今伝えないと、フィズィは本気でアイツを消滅させるでしょう。
「……正直わからないわ。私だって、瞳の記憶をちゃんと持ってる。アイツに人生を奪われるまでの一生分の記憶よ。あいつに殺された時の記憶だって」
フィズィは黙って私を見ている。
「でも、あいつをこのまま消滅させて終わりにするのは、何か違うのよ。別に、それがアイツのやったことと同じだとか、そういう理由じゃない。なんていうか、私はアイツを許すべきだと思ってるのよ」
そう言うと、フィズィは激高したわ。
「テメェ、ふざけんなよ?もしかして、出まかせじゃねぇか?テメェが瞳の記憶を持ってるってのも!瞳の無念はそんなもんじゃねェだろうがよ!俺は絶対に認めねェぞ!?」
「フィズィ、いえ、涙。聞いて」
「テメェがその名を呼ぶんじゃねぇ!」
でも、私も引かないわ。
「……涙」
このまま、フィズィの言う通り、アイツを消すことになったら、私は多分一生瞳のまま。……あの記憶を私の物として引きずって生きていくことになるわ。ああ、そうか、そういうことね。結局、私はあの記憶から逃げたいだけなのかしら。
……いや、違う。違うわ。私は、あいつを許さないといけないのよ。
「私は、瞳は、あいつにアンタと勘違いされて攫われてね。それで、アイツと、アイツの仲間に玩具にされて死んだわ。尊厳を奪われて、辱められて、最後には私は、形振り構わず懇願したわ。助けて、許してって。物凄く惨めだった。私はもう、人間から堕ちちゃったのよ。そんな惨めな私をアイツは笑いながら殺した」
フィズィは、涙は歯を食いしばる。
きっと、あの時の事を思い出しているのだろう。
「だから、私は今まで、それを思い出してからはその記憶から逃げてたわ。私はニコ=ウォーカーであって、あんな惨めに死んでいった人間じゃないって。じゃないと、耐えられないじゃない。でもね、あの性格の悪い神様は、ある意味私にチャンスをくれたのよ」
私はある魔法を展開した。それは、私の姿を変える魔法。
私の姿は、今、二条 瞳のあの日の姿そのものになっているはず。
「ねぇ、ちゃん」
フィズィの瞳に涙が浮かぶ。
後ろをチラリと見れば、アイツ、宇賀田は狂気に犯されながらも私の顔を見て驚愕する。
「ヒィィィィィヤァァァァァ!!!!」
「五月蠅いわね、お化けでも見たのかしら」
私はクスリと笑って見せる。
宇賀田は私を見てただ、ごめんなさいごめんなさい許して、と繰り返すばかりになった。とりあえず放っておきましょう。
「涙。私ね、アイツを許さないといけないのよ。だって、私がアイツを罰してしまったら、私があの記憶を乗り越えるチャンスは一生来ないわ。ただ、復讐して、それで、何を残せるの?きっと、私はあの記憶に苛まれるわ。生きている限り、ね。でも、あいつを許してしまえばきっと、私は乗り越えられる。今生を、二条 瞳として生きるのではなく、ニコ=ウォーカーとして生きることができるのよ」
「……ねぇちゃん。ごめん、ごめん」
フィズィはいつの間にか私の前に両膝をついている。
私はフィズィに魔法を掛ける。自分に掛けたものと同じ、姿を変える魔法。フィズィは今、二条 涙だ。
私は自分そっくりの彼女をそっと抱きしめると、いいよ、と呟く。
「涙は何も悪くないわ。私が、少し馬鹿だっただけ。……あなたは、もう二条 涙に囚われる必要はないわ。フィズィ=ウォーカーとして、生きて良いのよ」
涙は声を上げて泣いた。
私も少し、涙が出た。
お読みいただき、ありがとうございます。
瞳と涙のお話が終わりました。
あとは、宇賀田さんと魔王さんです。
ちなみに瞳の話を書き起こしてみましたが、とてもじゃないですがなろう様に載せられない話となってしまったのでボツになりました(*'ω'*)
感想など、お待ちしております。




