096 マグリス
マグリス=B=イリシオ。今代の王、バグラス=Z=イリシオの第二子。俺と兄、グロックスの間に、妾の子として生まれたのがマグリスだった。
生まれつき体が弱く、武勇に秀でたグロックスや俺を、羨ましく思っていた。それは、過去本人から聞いたことだ。
マグリスは非常に頭が良かった。武闘派の俺たち兄弟よりも余程政治に精通し、この国の事を考えていた。
幼い頃は、俺たち兄弟は仲が良かった。ベルメルが生まれてからは、三人でよく可愛がったものだ。
しかし、俺が十四になる頃、マグリスの母が死んだ。
元々、あまり体は強くなかったこともあり、最期は自室で目覚めなかったのだと聞いている。
マグリスは、俺たちの母、つまりはメアリー王妃が殺したのだというが、少なくとも俺はそんな話、聞いたこともない。それどころか、母上たちは、存外仲が良かったように記憶している。
それはともかく、その頃からマグリスは内に引きこもるようになっていった気がする。
そして、いつの間にか、マグリスの中で修復できない程の蟠りを抱え込んでしまったのだろう。
「ハハハ、アルガストロ!どうした!その程度か!――ケラヴノス!」
「クッ!」
しかし、マグリスがこれほどまで戦闘技術に精通しているとは思わなかった。確かに、以前とは比べ物にならない程強化された俺とアルメリアだったが、何故かあと一歩が届かない。
問題は、マグリスの魔術の豊富さだろう。剣技だけで言えば、今の俺たちに及ぶべくもない。しかし、魔術との併用により、迂闊に手を出せないでいるのだ。一言で言えば物凄いやりづらさを感じる戦い方をする。
恐らくは、両手に装備した多種の指輪が関係するのだろう。魔術の発動速度が尋常じゃない上に、魔術の並行起動などもやってのけている。
「全く、どこの宮廷魔術師だ!」
俺は悪態を吐き、どうにか降り注ぐ雷の雨を回避する。アルメリアは魔力を通した盾で全て受け切ったようだ。その手があったか。
「殿下、このままでは埒が開きません」
アルメリアもこういった手合いは苦手なのかもしれない。どうにも攻め切れない。
「お手伝いしましょうか?」
後ろからアルムの声が掛かる。一瞬悩んだが、俺は頼む、と一言叫ぶように言う。
成程、魔術師には魔術師を、だな。
「何だ、邪魔をする気か。――エクリクスィ!」
「バリアー!――貫いてください!」
アルムは爆発の魔術を気の抜けた声で防ぐと、お返しとばかりに熱衝撃波を放つ。ついでに玉座が吹き飛ぶが、……まぁ、今は些細なことか。とにかく今は、マグリスをどうにかする必要があるだろう。話し合うにしろ、奴の動きを封じなければどうにもならない。
「――カタラ・ホプリゾン」
マグリスの周囲に、瘴気と言ったら良いのか、悪寒のする気配が膨らむ。マグリスの動きが早くなる。
「グアラアアアア!」
「うぐ!」
飛び込んできたマグリスの一閃を盾で防いだアルメリアだったが、そのまま後方に吹き飛ばされる。
続けざまにアルムに斬りかかるも、アルムは上空へと回避。そのまま――。
「――焦げてください!」
上空から雷撃を放つ。しかし、それも瞬時に回避。
「アァァァルガアアアアアス!!!」
そしてそのままこちらへ。
「マグリス!」
お互いに拮抗し合う。
驚くべきことに、力は五分。
「マグリス!この力!」
「ハハ、アルガス。貴様も既に人外の様だがな、俺に加護を与えているのは誰だと思っている!」
「クッ!」
そうか、魔王もとい創造神アルビオ。先代の勇者、エマを生み出した神か!
火花を散らしながら激しく剣を打ち合う。すると、アルメリアが復活する。
「マグリス殿下、もう加減はしませんよ……。クッコロスッ!」
ゾワリとする程の魔力を彼女の槍、クッコロスが吸い込む。そして、突進。俺も瞬時にその後に続く。
「――加護を!」
体が軽くなる。アルムが何かしたのだろう。
次第に激しくなる戦闘。マグリスの表情もすっかり余裕が無くなってきた。
「マァグリィス!」
そして、ようやく俺の一太刀が入る。加減は出来なかった。
マグリスは後方へ飛んで、完全には入らなかったが、袈裟斬りに斬った傷口からは血が溢れている。
「クフ、アルガス。やるじゃないか。三対一とは褒められたものではないがな。……これで最後にしよう。――アネモスト・サナトス」
マグリスの持つ剣に暴風が纏う。直感する。これは、殺す気で行かないとマジでヤバイ。
「――集魔練気、至鬼邪滅」
「……殿下」
俺ももう、覚悟を決めた。アルメリアも悟ったのだろう。
「サヨナラだ!アルガス!!」
「おおお!――魔鬼、両断ッ!!」
折れたのは、マグリスの剣。俺の剣はマグリスの剣を断ち割り、マグリスを切り裂き、地面を割った。
両断されたマグリスは後方へ吹き飛び、即死だっただろう。
「サヨナラだ、兄上」
ふらりとなる意識をどうにか繋ぎ止め、俺は魔王を睨みつけた。あの野郎、笑ってやがる。
なんて神様だよ、畜生。
「案ずるな。彼の者の魂は、我が導く。正しく、輪廻を巡り、次の生へと繋ぐだろう」
そういう問題じゃねぇよ。
そう言いたかったが、最後の一撃で相当に消耗した俺は、そんな悪態すら吐くことが出来なかった。




