095 Fate
光りから抜けると、そこはまさに過去ゲームとかで見た、いわゆる謁見の間、という風体の部屋だった。
「ようこそ、我が城へ」
声の主を見れば、浅黒い肌に漆黒の全身鎧を纏った髪の長い男がいたわ。キルギスは直ぐにその男に駆け寄ると、傍に侍ったわ。
男の隣には何やら目立つものが一つ。そして、私はソレの正体に気付くと飲んだわ。
趣味の悪いオブジェクトだった。木製の巨人。その体の中心に取り込まれているかのように、手足が半分ほど埋まりこんだ男。そして、その男の顔は――。
「おい、テメェが魔王か」
フィズィが堪えきれないように尋ねた。
「如何にも。我が魔王だ。魔王アルビオラマである」
「そうか、なら訊くがよ。その趣味の悪いモンスターはよゥ、テメェが用意したのか?」
フィズィの顔を見れば、こめかみに青筋を立て、……駄目ね、完全に瞳孔が開いてるわ。
「如何にも。気に入ってくれたかな?二条 涙」
「ヒヒ、ヒヒハハハ。駄目だ、ニコ。こいつはネロたちが来る前に俺が殺す」
魔王の奴、流石神ね。私たちのことは前の事含めてお見通しってことね。しかしまぁ、随分と趣味の悪いことね。
魔王はフィズィの威嚇もモノともせずに笑ってる。
「ねぇ、アルビオ。貴方、魂の進化だか、真価だかが今回の目的なのよね。一体どういうつもりかしら」
「二条 瞳か。貴様等には、今からゲームをしてもらう」
そう言うと魔王は大きく手を広げた。やけに芝居がかってるわね。そしてフィズィが何とも言えない顔でこっちを見てるわ。……やめて頂戴。
その瞬間、レムレスが消えるように飛び出したわ。あの子、ここで決めてしまう気ね。
「おい、レムレス!」
「無駄だ」
レムレスの手は、一歩届かず魔王の前の不可視の壁に阻まれたわ。バチバチと、紫電が散って、あら痛そうじゃない。やらなくて良かったわ。
「そう焦るなよ、エマ。まさかお前が現れるのは予想外だったが、相手は余興が終わってからたっぷりしてやろう。どうせ、ネロやフラウに何か吹き込まれたのだろう」
「……ッ!」
レムレスはバックステップでこちらへ戻ってくると、焼けた左手の修復を始めたわ。
「魔王様、奴はどうしますか?」
「ああ、プロドティスか。呼べ。まずはそちらから始めよう」
キルギスは魔方陣を展開する。どうやら今度は転移じゃなく、召喚の様ね。
魔方陣が輝きを放ち、それが収まると、現れたのは……、ああ、ノビリスに居た仮面の男。
その男は現れるなり、魔王に跪いたわ。
「プロドティス、良い。それよりも感動の再開だ」
すると彼はこちらの、アルガスを見たわ。口を三日月みたいに歪ませると不気味に笑っているわ。……本当に不気味ね。そういえば彼……。
「ああ、アルガストロ。会いたかったぞ」
「裏切者、決着をつけてくるがよい」
プロドティスは徐に仮面を投げ捨てた。その素顔は、私には見覚えなんかないけれど、アルガスと、そしてアルメリアは何とも悲痛な顔をしてるわね。
「……マグリス様」
「……やっぱ、兄上だったか」
マグリス。確か第二王子ね。うん、そう。
「そうだよ、そうだよアルガス。兄さんだ」
「何故、こんな真似を」
「ハハ、ハハハ。何故!?何故だと!?アルガストロ!この私の痛みを、貴様が知らないとは言わせないぞ!?」
何やら語り出すプロドティス、もといマグリス。
「兄上と貴様、特別な人間に挟まれ、体も弱く無能と諸侯から馬鹿にされてきた私の痛みを!……私の母を奪ったのも、貴様等の母の、王妃の計略であろう」
憤怒に満ちたマグリス。
「他にも、私はこの国の諸侯の腐敗を散々目にして来た。それを正さぬ父上、兄上!私はなお、許せなかったのだ!……だから、私は魔王と道を共にした。この国の、ヒトの腐敗を正すというこの魔王の元に着いたのだ!」
「父上と、母上、それに兄上は……」
マグリスはニタリと笑った。
「私が、殺した。ハハ、フハハハハ!次は貴様だ、アルガス!」
「クッ!殿下!」
「やるしかない、アルメリア」
マグリスが駆け出すと同時に、戸惑い気味のアルメリアも大楯を持って前に出る。
アルガスはその後ろに潜むようにして、自らの体に強化を掛ける。……この二人の連携、様になっててなんかズルいわね。
そして、剣戟や魔術の音がBGMになり始めたわ。
「ふむ、良い余興だ。それではこちらも始めようか」
「GRRRRRRRRRRRRR……」
……さて、現実逃避はここまでにして、私は私たちの因縁と向き合わないといけないってわけね。まぁ、こっちはもうどういう状況なのかすら、よく分からないけど。
「その前に、訊かせてくれないかしら。その男、この世界の人間ではないのでしょう?」
「如何にも。二条 瞳、貴様にとってこの男、よく覚えがあるのではないか?」
「……全く、趣味が悪いにも程があるじゃない。それに私は瞳じゃないわ。ニコよ」
厭らしく嗤う魔王。
私の隣で急激に膨らむ魔力。
「――円環ノ蛇!――八咫蛟!」
「ちょっと!フィズィ!」
「ウルセェ!俺はもう我慢出来ねェんだよ!」
「待ちなさいよ!」
魔王は"ゲーム"とか言っていたはずだわ。何かルールを用意するはず。それに則るのも癪だけど、話も聞かないで事を起こすのは面倒ごとの種って、相場が決まってるわ!
「私はここよ!」
私はフィズィの胸倉を掴む。
「いい、私はここよ」
「……ッ!」
フィズィは舌打ちすると、大蛇を嗾けるのだけはやめてくれたわ。
「それで、さっきゲームとか言ってたわね。一体何をしようって言うの?」
「随分と落ち着いてるな、二条 瞳。貴様の怨敵が目の前にいるというのに。その手の震えはどうか?」
指摘されて初めて気づいたけど、私、手が震えてたみたいね。
「まぁ良い。貴様等はもう気づいていると思うが、此奴は宇賀田 稀久。貴様等姉妹を殺した人間だ。此奴はな、間抜けなことに貴様等を殺した後、穴に落ちて死んだ。ハハハ、思い出すと涙が出る。実に間抜けな最期。アレを見れば君たちの留飲も少しは下がるのかもしれないよ!……そして、我はそのままでは、貴様らの世界では地獄と言ったな。そこに魂が引かれる前に此奴の魂を此方に引き取った」
「それが何で、そんな感じになってるのよ」
「貴様等、此奴に審判を下したくはないか?」
宇賀田は、ヒッ!と小さく悲鳴を上げた。
「嫌だ!嫌だ嫌だぁあぁぁあ!」
「本当に五月蠅い奴だね、君は」
魔王の右手が光ると、宇賀田は苦しみだしたわ。
随分と強引な黙らせ方ね。というか、しゃべり方が一貫しないわね、魔王。
「それで、私たちに何をさせたいの?」
「今から此奴と戦ってもらう」
「それのどこがゲームなのかしら」
すると魔王は、宇賀田に掌を翳す。宇賀田の口から光の球が五つ吐き出されたわ。
宇賀田はオゴオゴと苦し気に呻き、木の化け物もそれに呼応して魔物言語かしら、そんなのでなんか叫んでる。五月蠅いわね。
魔王はその光の玉を木の化け物の体、頭と両手足に設置すると、満足気に頷いた。
「これは、此奴、宇賀田の魂そのもの。貴様等であれば、これを粉微塵に破壊することも出来よう。だが、それは此奴の魂が破壊されると同義。輪廻にも戻れず、永劫に消え去る。此奴を助けるのであれば、これらを避け、宇賀田も避けてこのツリーデーモンを倒さねばならぬ。因みに、制限時間は五分になります。準備は宜しいでしょうか?」
「はッ!?ちょっと、宜しくないわよ!」
「何時でもいい、とにかくその化け物と宇賀田をぶっ殺せば良いんだろうが!」
「フィズィ!?」
「うるせェ、テメェ!自分がこいつに何されたか、覚えてんだろ!?本当は!」
私は一瞬フラッシュバックした瞳の最期をどうにか頭を振って振り払った。確かに、こいつを助けるってのは癪だけど……。
「さて、見せてくれよ。あんた達の決断をさ。ハハ」
そして、動き出す木の化け物。こうして迷いの中、私たちの戦いも始まったわ。




