091 ベルモスさん再来
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カランカラン、と薬莢が地面に落ちる音が通路に響きました。
「……勘が良いな」
通路の奥からボソリと聞こえる声。それは、何処か聞き覚えのある声でした。
フィズィさんは何が可笑しいのか、急にヒヒヒ、と笑いだしました。彼女の瞳は通路の奥に広がる闇を、正確にはその闇の中に潜む狙撃手を捉えていました。
「狙いは俺かよ。嬉しいじゃねェか、なぁ。ヒヒ」
「……」
フィズィさんはゆらりと態勢を戻すと、周囲の魔素を急激に取り込み始めます。それは空間が歪んで見える程です。そんな魔素の収束を始めて目の当たりにするアルガスさんとアルメリアさん。二人は驚き目を見張ります。
フィズィさんは取り込んだ魔素を自らの力に変え、まるで青黒い炎を纏ったようです。
「ベヒモスさんよゥ!」
そして咆哮。
「……ベルモスだ」
弾丸のように闇へ飛び込むフィズィさん。再び銃声。しかし、フィズィさんはベルモスさんのツッコミも銃弾も無視のようです。
「しゃらくせェ!」
フィズィさんは纏った魔素で弾丸の軌道を捻じ曲げて間合いを詰めると、ブーツに仕込んだ黒塗りのナイフを抜き、ベルモスさんに飛び掛かります。
「おい、ニコ!こいつは俺が貰うぞ!」
「別に許可なんかいらないわよ」
「手を出すなってこった!」
どうやらフィズィさん、タイマン張りたいようです。若いですね。ベルモスさんもサーベルを抜き、フィズィさんを待ち受ける形です。
振りぬかれたナイフとサーベルが交差。甲高い音を立てて火花を散らします。
「随分と舐められたものだ」
「ああ、楽勝だ」
そのまま数合、打ち合いを続け、再び間合いが開きます。
「――八咫蛟」
「斬魔、一ノ太刀」
フィズィさんの周囲から溢れ出す水の大蛇。それを横一閃に切り裂く閃光。相殺。フィズィさんの顔が愉悦に歪みます。
「ヒヒ、楽しいなぁ!」
「……悪いが、一対一を楽しむつもりはない」
更に銃声。これは牽制。狙いは付けず、フィズィさんには掠りもしません。しかし――。
「フィズィ!上よ!」
フィズィさんの頭上、通路の天井には仄暗く光る魔法陣。
「シャアアアッ!」
頭上からの伏兵。そこから現れたのは、蜥蜴男でした。巨大な曲剣をフィズィさんに向けて振り下ろします。
フィズィさんはそれをバックステップで躱すと、曲剣がフィズィさんの居た地面を削ります。蜥蜴男は感情の読めない顔で、フィズィさんを睨みつけながら立ち上がり、曲剣を肩に担ぎました。
「ハッ!お仲間の登場かよ!」
「悪いが、遊びではないのでな。しかし、こちらがアタリとは。プロドティスが悔しがるな」
「ベルモス、こいつらか。廃鉱山にいたって奴らは」
蜥蜴男は実際蜥蜴というよりも、もっと強そうな感じです。例えるなら、竜人でしょうか。硬質な鱗に包まれた肉体を、更に鎧で覆い、並みの攻撃は一切通りそうにありません。ズルいです。
「そうだ。人数は、若干増えているが、そこの男女と後ろの赤毛の女、それにアルガストロ=A=イリシオ第三王子。他は知らんが、後ろの女はピオニー騎士団のアルメリア=K=ベルゴールだな。アルガストロ以外は殺して構わない」
「ハハ、だとよ、お前ら。悪いがここから先は通せんぼだ。或いは地獄へご招待ってやつか」
流石に強そうな外見です。発言も超強気ですね。
そこへレムレスさんが一歩前に出ました。
「皆殺しのルムトル……」
レムレスさんの口から何だか物騒な名前が出てきました。
「あぁ?なんだ、爺の知り合いか?」
「……そう、子孫」
一人納得するレムレスさん。
「何でもいいが、俺は爺が嫌いでよ。何でもかんでも比較しやがって、その名を口にした奴は縊り殺すって決めてんだ。それが女子供でもよぉ。……まぁ、お前らはそんなの関係なく殺すけどな」
そう言って笑う蜥蜴男。
「ああ、覚えなくていいが、爺の名前で呼ばれんのは癪だ。俺の名はダスモルト。殺戮王ダスモルトとは俺のことよ!」
そう言って飛び出す蜥蜴男もといダスモルトさん。殺戮王とか超カッケーです。ダスモルトさんの口上に、後ろの方でニコさんが隠れて噴き出しています。
「まずはテメェだ!お嬢ちゃん!歳の若い順ってな!」
狙いはレムレスさん。ダスモルトさんはその巨大な剣でレムレスさんを叩き斬るつもりです。単純な振り下ろし、だが速い。相手がエドさんだったら一撃だった……かもしれません。
しかし、相手は元勇者のレムレスさん。振り下ろしに合わせて八つ裂き丸を振るいます。
「断絶」
キィィィィィン、と甲高い音。振り下ろされた曲剣はバターの様に切り裂かれ、すっ飛んだ切っ先はエドさんとニコさんの丁度間に突き刺さり、二人は悲鳴を上げました。ニコさんは後ろで笑ってた罰が当たったのでしょう。
レムレスさんは更に、驚いているダスモルトさんの胸に左手を当て――。
「絶破」
「ゴルッパァァァァッ!!」
ダスモルトさんを後方に吹き飛ばしました。
ベルモスさんの脇を逆ヘッドスライディングで吹き飛んでいくダスモルさん。それを見てフィズィさんが爆笑。アルム君が一言。
「出オチですね」
レムレスさんも一言。
「……因みに私は若くない」
ああ、可哀想なダスモルトさん。すっかりカマセ扱いになってしまいました。
次回、ダスモルトさんの活躍に乞うご期待。
果たして見せ場はあるんでしょうか……。
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