089 イリシオの隠し通路
今更ですが、ですます調で書くのって結構大変ですね。
何が大変なのかは謎ですが、何となく難しさを感じます。
「魔王軍だと!?」
魔王軍が来た。この言葉に、俄かに色めき立つバーの空気。最初に反応したのはアルガスさんでした。
「ああ、そうだ。魔王軍だ!だからコネリー、俺と一緒に逃げよう!」
そう言ってコネリーさんに手を差し伸べるエドさん。被り物で表情は分かりませんが、相当に慌てているようです。というか、もうコネリーさんしか見えていません。
そこにアルガスさんが割って入ります。
「おい、お前。確かエドとか言ったな。その話、ちゃんと聞かせてはくれないか?」
「そんな悠長なこと言ってる余裕はねぇ!さぁ、コネへぶぅ!?」
アルガスさんを完全にスルーしてコネリーさんしか見えてないエドさん。話が進まない苛立ちから、フィズィさんはエドさんに掴みかかりました。短気ですね。
「うぐ、何を」
「魔王軍がどうしたってんだよ」
凄むフィズィさんに苦し気なエドさん。兎の被り物がガクガクと揺れます。
「ま、魔王軍が北、イリシオからこの森に向かって侵攻する準備を始めてる。森の入り口付近にかなりの兵が集まってる……らしい」
あうあう言いながらもエドさんは答えました。
「らしい?誰かから聞いたってことか?」
ようやくお話をしてくれる感じになったので、フィズィさんはエドさんを離してあげました。ケホケホと咳き込むエドさん。可哀想です。
「ああ、そうだ。バベル村の連中に聞いたんだ。奴ら、南に逃げるかどうするかって騒いでてな」
バベル村はこの森の北にある村だな、とマバルさんが補足します。どうやらここベルダンとは逆方向のようですね。
「成程な。それで、エドとやら。貴殿は逃げると言っていたが、何か宛てがあるのか?この村はベスティア大森林でも南にあるのだろう?」
アルメリアさんが訊きました。確かに、逃げるといっても北がほとんど封鎖されているような状態では南に逃げるしかありません。
しかし、ここベルダンは既にかなり南方。これ以上何処に逃げるというのでしょうか。皆が疑問に思っていると、僅かに言い淀むエドさん。しかし、話をしないことには進みません。
「……この村から更に南に行くとな、海に面した崖に出る。その下へ行くとな、ちょっとした洞窟、みたいなものがあるのさ。そこに隠れれば、ひとまずはやり過ごせる……と、思う」
何となく自身がなさそうなエドさんです。
「その隠し通路は何処かに繋がってるのかしら」
これはニコさん。煙管から煙を燻らせながら訊きました。
「……それは分からない。俺も亡くなった爺さんから聞きかじった話だ、実際に行ったことはない。ただ、たしか、奥には鉄の扉があって開かなかったとかなんとか」
「鉄の扉、か。もしかすると……」
ふむ、とアルガスさん。すると、レムレスさんが言います。
「それ、イリシオ王家の隠し通路」
「やっぱりそうか」
一人得心するアルガスさん。
「やっぱりって、アルガス知らなかったのかしら?」
「隠し通路はいくつかある。王家内の権力争いとか、万一のことを考えて、全ての隠し通路を知っている者は王のみだ。俺や、兄上やベルメルなんかは限られた隠し通路しか知らん」
すると、グラスをカランとフィズィさんが笑い、グラスの中の琥珀色が揺れます。
「権力者ってのも面倒なモンだなァ。身内の裏切りにも気を配らないといけないとはなァ。ただ、これで、外の軍を気にしないでイリシオに行けるってこったな」
レムレスさんがこっくり頷きます。その瞳には、決意の炎が宿っていたりいなかったりしそうです。表情に乏しいのでよくわかりませんが。
「だが、隠し通路の扉の鍵がない」
アルガスさんはそう言うと煙草に火を着けました。
「アルガスは持ってないのかしら?」
「鍵も全部別々だ。俺は持ってない、と思うぞ」
セキュリティ上、確かに同じ鍵を使うのは良くないですからね。ただ、鍵が多すぎてもどれがどれだか分からなくなりそうです。スペアキーとかもあるんでしょうか。
「んなもん、ブチ破ればいいじゃねェか」
「いや、まぁお前らの力なら何とかなるかもしれんが、少し特殊な術式が掛かっててな。仮にも一国の重要人物のための通路だ、専用の鍵がないと開かない上に相当強固な防壁が張られてる」
アルガスさんは頭をガシガシ、とりあえず試してみるか?と煙を吐き出しました。まぁ確かに、ニコさんたちの火力ならどうとでもなるかもしれませんね。
しかし、その必要はないとレムレスさん。
「隠し通路の術式は私が知っている。解除もできる」
彼女はそう言ってサムズアップします。
「では、その隠し通路とやらイリシオの城に侵入し、魔王もとい神アルビオに接触するという方針で良いですかね」
パンッとクラッカーを鳴らすアルム君。どこから出したのでしょうか。
「ところでエ……、レムレス殿。隠し通路はどこに繋がっているのでしょうか」
「……忘れた」
流石に昔のことです。レムレスさんも覚えてはいないようですね。
ここまですっかり置いてけぼりを食らっていたマバルさんたちはすっかりポカーンとしています。
「ちょっと待ってくれ、一体どういうことだ?」
「ああ、そういえば言ってなかったわね。私たちは魔王をギャフンと言わせるために旅をしているのよ!」
「ギャフン、はちょっと古くねェか?そもそもギャフンっていう奴見たことねェよな」
ヒヒヒ、とフィズィさん。
マバルさんたちはまたもポカーンとしています。
「まぁ、何はともあれ、行ってみましょうか。その隠し通路とやらに」
「じゃあ、そこのエドだっけ?案内宜しく頼むわね」
こうして、なし崩し的にエドさんは、コネリーさんとの逃避行ではなく、ニコさんたちの案内をする羽目になりました。因みにこの後の話で、マバルさんたち村の人たちは一旦今後の対策を全体で話すことになったそうです。
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