085 ネロさんの頼み事
「ふむ、断られたか」
「当たり前じゃない。何をするかまだ聞いてないもの。内容を聞かないで承諾するなんて言うのは、仕事ができないヤツの特徴その一よ! ついでに、内容も説明していないのに仕事をお願いするのはダメな上司の特徴その一よ! よく覚えておきなさい!」
人差し指でビシッとネロさんを指さすニコさん。もはや神差し指ですね。全く以て無礼千万。間違ってもやってはいけません。しかしネロさん、この無礼な振舞いも気にしません。それどころか「それもそうじゃな」とか納得。とても寛大な神様です。
まぁ、ニコさんが無礼なのは初めから分かっていた事ですし、今更気にしても仕方のないことかもしれませんね。
「さして難しい頼みごとでもないんじゃが、要するに魔王に触れさえすれば良い。蝙蝠か蛇、もしくは元勇者でも良いぞ」
「それって、ネロの眷属の誰かってことかしら」
「然様」
それを聞いたレムレスさんは「私でもいいのか?」と顔を上げました。その表情には明確な決意が浮かんでいました。
「私でも良いなら、私はやる」
その声には力がありました。いくら神様でも随分と良い様に踊らされたのです。幾分プリプリしてもしょうがないですよね。
フィズィさんもそれに続きます。
「俺もアルビオのやり方は気に入らねェ。酷く気に入らねェなァ。ヒヒ、俺も手を貸してやる」
当然、アルガスさんとアルメリアさんもそれぞれ続きます。アルガスさんの目的はそもそも、魔王を止める事ですから当たり前ですね。
残ったのはアルム君とニコさん。アルム君がニコさんに問いかけます。
「ニコ=ウォーカー、貴女は?」
「んー、そうねぇ」
ニコさんは口元に指を当てうんうんと考えます。
「話の規模が大きくて良く分からないし、面倒臭いわ!」
元気に面倒臭がりました。ネロさんは上品に笑い、悪戯っぽい笑みをニコさんへ向けました。
「蝙蝠よ、引き受けてくれるのなら、主の願いを叶えてやるぞ」
「……私の願い?」
ニコさんは眉を顰めます。ニコさんにはそれが何かわかりません。強いて言えば、今現在お腹がすいているので、早くご飯を食べたいという欲求でしょうか。
「あ、もしかして、ここでバーベーキューしたいって今思ってた奴かしら?それじゃ割に合わないわよ!やりたいけども!」
そう思って聞いてみれば、自然と涎が溢れます。ジュルリングです。
ネロさんは「いや、それではないのじゃがな……」と苦笑い。ニコさんに手招きします。
「まぁ、それもやっても良いが、ちょっとこっち来い」
ニコさんが何かしら、とそっちへ行けば、ネロさんは何事か彼女に耳打ちしました。
すると、ニコさんの目が大きく開かれます。信じられないという思いでした。ネロさんを見れば、彼はニヤリと、「嘘は言わんぞ」と言いました。どうじゃ?と言わんばかりです。
「分かったわ」とニコさん。珍しく真剣そうです。
「それが本当なら私はやるわ」
しかし、その顔も長くは持ちません。
「それと、バーベキューもね!」
ニコさんもニヤリと笑って言いました。
さて、急に乗り気になったニコさん。一体何を言われたのでしょうか。
満場一致で魔王に一泡吹かせることになったニコさん達。具体的な話はニコさんの提案で腹ごしらえをしてからと決まりました。ニコさんとフィズィさんが参加するなら、アルム君も付いていきます。
「なんか最近全然休んでない気がするの。お腹も空いたし疲れたわ」
外では神アルビオによって世界が引っ掻き回されています。アルメリアさんは何を悠長な、と憤りを見せましたが、そこはアルガスさんが宥めます。腹が減っては戦はできぬのです。逸る気持ちは失敗の元と言われれば、アルメリアさんも引き下がるしかありません。
腹ごしらえは、ニコさんの希望通り砂浜でのバーベキューに決定しました。食べ物は現地調達ということで、フィズィさんとレムレスさんは灼熱の氷海へ。ニコさんとアルム君は海釣りを。アルガスさんとアルメリアさんは、海に潜って漁をすることにしました。お肉はフィズィさん達に期待でしょうか。
「あ、アルガスにアルメリア。どうせだから矛盾の実を取ってきなさい」
矛盾の実とは、魔法使いになるための一つの手段。かつてニコさんやフィズィさん、それに人間災害の二人が食べた実。それは、今ニコさん達の目の前に広がる海の中に自生する木に生る実です。
ニコさんから効能、特徴を聞いた二人は、漁のついでにそっちも探すことにしました。ついでではなくメインの勢いで。アルメリアさんは暗い笑みを浮かべていました。アルバさんとベインさんのことでも考えていたのでしょうか。そういえば、あの二人は一体どこへ行ったのでしょう。
「ニコ=ウォーカー」
海釣りをしていると、アルム君がニコさんに話しかけてきました。因みにニコさんは水着の上にTシャツ。じんわりと滲む汗がセクシーです。何といっても海ですからね。
「デネロスに何を言われたのですか?随分と驚いていたようですが」
「別に、大した話じゃないわ。……私の中で燻ってる瞳の気持ち。それを解消できる。それだけよ」
「瞳というのは、貴女の前世の?」
「そうよ。二条 瞳。あ、引いてるわよ?」
アルム君の竿。そこから降りた糸の先。浮きがピクンと反応します。次の瞬間大きく沈むと、「どっせいああああ!」とアルム君。リールをマキマキ竿を大きく振り上げました。
「大きいわ!」
海からザブンと吊り上げられたのは、50cmほどの魚でした。すかさずアルム君は手持ちの網で魚をキャッチ。見事魚を確保しました。
「これ、美味しいのかしら。まぁいいわ!どんどん魚を釣るわよ!」
ニコさんとアルム君は釣りを続けました。一時間ほど釣れば、魚籠はいっぱいになりました。素人のニコさんでも釣れるとは、随分チョロい魚たちです。
「さて、とそろそろ戻りましょうか」
アルガス達はちゃんと食料を確保できたかしら。そんな事を考えながらニコさんは立ち上がると、ふとあることを思い出しました。ビキニのパンツをパチンと直すと砂を払います。
「そう言えば少年」
「なんでしょう」とアルム君。二人の黄金が交差します。
ニコさんはかねてからの疑問がありました。そして、フラウさんの言葉。
「貴方、異界の人形ってどういうことかしら。この世界、イピロスの人間でないことは今までの話の流れから分かっているけれど、人形というのはどうにもしっくり来ないわ」
「ああ、その事ですか」
アルム君は魚籠をよっこいと担ぎました。
「ご賢察の通り、僕はイピロスの民ではありません。こことは別の世界というか、大陸ですね。そこの人工生命です」
「ホムンクルス!」
「ありていに言えばそうなりますね。私の生みの親は、そちらの世界の人間です」
二人は元来た道を歩きます。
「それが何で異邦人保護なんてやってんのよ」
「私の生まれた大陸は、異界から人間を召喚する方法が確立されています。貴女がたの様に前世の記憶を持つ方々も稀ながらいますし。以前も言いましたが、そうした方達が不用意に利用されないようにと私の親、それにその主人は心を砕いているのです」
自分と同じような目に合わないように、とアルム君は付け足します。
「今回の件は、異邦人として利用されている訳ではないようですし、何れにしろ私たちは本人の意思を尊重します。全て終わったら、改めてお話しますよ」
ニコさんは「そんなこともあるのねぇ」と意外に他人事です。いずれにしても、これはまた別の話。今はまだ関係ありません。ニコさんは疑問が解消したことで取り合えずスッキリ。足取りも軽くなりました。お腹もグゥと鳴ってます。
「さて、ホントに飢えてしまうわ!サザエのつぼ焼きとビールって最高よね!」
と、そんなオッサンのような事を声高に言いました。
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