084 神の道化
前回に引き続き説明回のようなものです。
ネロさんが語ったのは、それはそれは今までの歴史を覆すお話でした。
一通り話を聞いたニコさんは、「まるでゲームみたいね」と煙をプカリ。フィズィさんは口元が歪んでいますが、目は爛々と輝いています。その目に映る感情は怒りでしょうか。
アルム君はうんうんと頷いており、何やら得心がいったという様子。アルガスさんとアルメリアさんは愕然とし、口が金魚みたいになっています。
「つまり、私は道化であったと」
レムレスさんがポツリと呟きました。足元を見つめ、唇を噛んでいます。
話の内容はこうでした。
三百年前、ヒト種の間で激化していた戦争。それにより広がる不安、悲しみや怨嗟。被害を被ったのはヒト種に限らず、戦場となった場所に生きる全ての生命が危機に晒されます。
神々の目的は世界に魂を降ろし、魂を浄化することでした。不安や悲しみ、憎しみ、これらは時に魂の浄化を促しますが、常にそれらに晒されれば、浄化どころか穢れが発生します。
神々は地上で行われる戦争を嘆いていました。
ネロさんとフラウさんは、地上の人々の成長を信じ、過度に干渉することなく見守る道を選びましたが、創世神であるアルビオさんは、それを歯痒く思っていました。
そこで思いついたのが一つのシナリオです。魔族という新たな種を作り、自らが魔王として君臨。ヒト種に争いを嗾けることで、争いをコントロールするというものです。アルビオさんは「マジか!我マジ天才!」とばかりにすぐさま行動を始めました。
手段を選びませんでした。あっと言う間に魔物と魔族を用意したアルビオさん。最後に勇者を生み、加護を与え、魔王アルビオラマ=エスカリオとして地上に降りました。
これに泡を食ったのはネロさんとフラウさんです。この時の心境を端的に表すと、「あやつ、やりよった」だったそうで、二柱の神様は揃って頭を抱えたそうです。
ネロさんとフラウさんは、アルビオさんの後を追い、慌てて地上へ降臨しました。しかし、その事を予期していたアルビオさんは罠を張っていたのです。それにまんまと引っ掛かったネロさんとフラウさんは、そのままダンジョンに封印されてしまいました。フラウさんは悔しさのあまり、思わず「マジ卍……」と呟いたそうです。
それからネロさんとフラウさんは、世界の様子をお酒片手に眺めるしかありませんでした。アルビオさんは見事自分の描いたシナリオを完遂。更に、三柱の加護を受けた――と流布した――勇者に自分が倒されることで、神の権威を強調。なんというマッチポンプ。おまけに魔王の復活まで予言しての最期でした。ネロさんは死に際の良い笑顔が癪に触ったそうです。「やり切った感が腹立つわ」との事でした。
つまり、当時を生きたモノは全て、アルビオさんの手のひらの上だったということです。その最たるモノは勇者として祭り上げられ、神を信じて魔王を討伐したエマさん。つまり、レムレスさんとなります。
「神の加護を受け、導かれたのは確かだけれど。掛ける言葉もないわね。……ドンマイ!」
二度目のドンマイですね。レムレスさんはますます下を向いてしまいました。
「……俄かには受け入れがたい話です、神デネロス。それに、何故神アルビオは三百年後に復活すると?」
「そいつは自明だなァ、どうせ抑止力とかそんなもんだろうよ」
アルメリアさんの疑問にはフィズィさんが答えました。フラウさんも頷きます。
「未来、自身の復活を予言すれば、自身の死後、再び世界が大規模な戦争は再開されないと踏んだんじゃろう。いずれにしろ、ヒト種も魔族も疲弊して、しばらくはロクに争うこともできんじゃろ」
「当時魔王を失った魔族は、反魔王派と呼ばれていた勢力から新たな王を選び、ヒト種に降伏した。これを受け入れなかった魔族は地下に潜ったが、その数は多くなかった。ヒト種に降伏した魔族は、三百年後の魔王復活時、速やかに対処できるよう魔族が持つ技術をヒト種に提供することを約束し、争いは終結した。その後しばらくは復興や魔族の受け入れなどで、戦争どころではなかった。思えば魔王は各国の戦力を均等に均す様に攻撃していた」
レムレスさんも当時を思い出しながら話しました。
「しかし、今回神アルビオは復活したとして、何故また戦争を起こそうというのですか?事実、我等の国は魔王軍に……。神々の目的とは外れるのではありませんか」
苦し気な表情のアルガスさんとアルメリアさん。母国イリシオは魔王軍に蹂躙されました。神々の目的が魂の浄化であり、争いは穢れを生むというのなら、わざわざ争いを起こす理由が分かりません。
「予言は達成されなければ意味がない」
「恐らく、周期的に魔王という恐怖が現れることで、世界の争いをコントロールしようとしておるのじゃろ」
二柱の神が言います。
フィズィさんの気配が膨れました。
「そんなこったろうとは思っていたがよォ、神がそんな事すんのかよ。そいつは神がヒトをこれっぽっちも信じてねェってこったろ」
「少なくともアルビオはな。この世界、イピロスはまだ幼い。子供同然じゃ、アルビオは躾けのつもりなんじゃろう」
ネロさんはそう言ってカクテルに口を付けました。
「フザケンナよ。躾けなら子供を傷つけてもいいってのか?」
「熱くなるな、蛇よ。それならば麿たちではなくアルビオの奴に言うが良い。少なくとも麿もフラウルもそれを良しとは思っておらん」
「そう、じゃから妾たちも今度こそ、アルビオがこの世界に干渉せぬようあやつを止めようと思っておる」
フィズィさんは舌打ちを一つ。どうにか怒りを鎮めました。
「それで、間抜けにも封印された神様たちはよ、何か考えはあるのかよ」
「ある。逆に奴を封印してしまうのよ。肉体を殺しても転生するだけじゃからな。そのために、主らの力を借りたい。どうじゃ?蝙蝠よ、力を貸してはくれんかの」
皆の視線がニコさんに集まります。ニコさんは目を閉じて「うふふ」と不敵に笑いました。
煙管の吸い口に口をつけると、火皿に乗った煙草の葉がジジジッと音を立てて赤く燃えます。口を離せば漏れ出た煙がポフッと一つ、小さな輪っかを作りました。
ニコさんはそれは美味しそうに息を深く吸い込むと、細く長く、息を吐きます。すると、豊かな紫煙が広がり、ゆっくり静かに空に消えていきました。
そして彼女はカッ!と目を開くと言いました。元気よく言いました。
「お断りよ!」
「言うと思ったわ!」
当然ツッコんだのはアルガスさんでした。ご苦労様です。
最後までお読みくださり、幸甚に存じます。
勢いで感想とか書いて頂けると、これに勝る幸いは御座いません。
宜しくお願い申し上げますm(_ _)m
ところで皆さまはこの作品で気に入って下さったキャラクターとかいるのでしょうか。
私はモグ爺さんが好きです。また書きたい。




