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吸血蝙蝠ニコさんのダンジョン攻略記(仮)  作者: こぺっと
第四章 ニコさんと魔王
84/100

083 砂まみれのカクテル

数話挟むと言いながら、特に何も思いつかなかったので新章を開始してしまいました。

今回は今までのおさらいのような回となりますので、説明が多分に含まれます。

 青い空、白い雲。空に浮かぶ太陽からは眩しい日差しが降り注ぎ、目の前に広がる海がキラキラと光を反射しています。

 押しては引いてを繰り返す波の音。海鳥の鳴き声。遠浅の海は澄んでいて、海底に生えた草や珊瑚(さんご)。泳ぐ魚もハッキリと見えます。

 こんなにも綺麗な場所ならば、良い観光地となりそうなものですが、人影は全くありません。全く長閑(のどか)な光景です。


 砂浜には大きなパラソルが一つ。一人の少年がビーチチェアに背を預け、ゆったりと(くつろ)いでいます。

 アロハシャツにハーフパンツ、ビーチサンダル、サングラス。爽やかな青、マリブサーフを片手に持って、目の前の景色を貸し切りです。休暇中のセレブもかくやです。

 ここは深淵の迷宮(アビス)と呼ばれるダンジョンの第六層。少年の名はネロ。深淵の迷宮の管理者であり、星の神デネロス。世界を創ったと言われている三柱のうちの一柱。三百年前、魔王の手により深淵の迷宮に封印されてしまった神様でした。

 魔王に封印される神というのも良く分からないモノですね。


「ふむ」


 彼は何かに気付いたように、目線を少し上げました。すると突然の風。暴力的なまでの風は辺りの砂を()き散らし、パラソルもガタガタいってます。ネロさんの持つカクテルもあっと言う間に砂まみれ。何というソルティドッグでしょうか。

 バイオレンスな風が収まると、そこには六人の男女の姿が在りました。

 少年はサングラスを外すと、黄金の瞳を輝かせ、その六人をニヤリと見ました。


「待っていたぞ、フラウル。それに蝙蝠と愉快な仲間達」


 その六人、正確には先頭にいる青い髪の少女はネロさんが三百年待ち焦がれた神物(じんぶつ)でした。


「うむ。その姿、久しいな。デネロス。この三百年、身も凍える思いだったぞ」


 特徴的な髪の少女です。足首まで届くかというくらいまで伸びた髪で、毛先に行くほど濃く、黒くなっていき、まるで墨を付けた筆のようです。

 髪を差し置いても、その完成された美貌は一度見たら忘れられないことでしょう。

 ワンピースから覗く白い肌。黄金に輝く瞳。彼女はネロさんと同じ神様。天空のフラウル。同じく天空の迷宮(セレスティア)に封印されていましたが、ついさっきその封印が解かれました。

 フラウさんは眠たげな眼差しを更に細め、微笑みました。


「逢いたかった」


 ネロさんも目を細めます。


「ああ、逢いたかった。蝙蝠に蛇、礼を云おう」


 ネロさんの視線の先には二人の女性。

 一人は肩甲骨まで伸びた真っ赤な髪に着物姿の女性。白い花弁を散らした薄紫の着物の上に、赤い羽織を引っ掛けています。それだけでも十分特徴的ではありますが、更に目を引くのはその瞳。右目が黄金、左目は空色というオッドアイです。


「どう、約束は果たしたわ!私はできる女なのよ!」


 彼女はニコ=ウォーカー。深淵の迷宮にて生まれた蝙蝠が、ネロさんと出会って吸血鬼となった存在です。稀なことに、二条 瞳という人間の記憶を持つ転生者でもあります。

 ネロさんにフラウさんを天空の迷宮から連れ出して来て!とお願いされたので、頑張って連れてきたのです。つまり、おつかい完了です。


「まぁ、モノのついでさ。別にお礼の品ってやつがあっても良いんだぜ」


 もう一人は黒いコートの長身の女性。細身の体系にフィットしたスキニーパンツに武骨なブーツ。くすんだ金髪は短く刈られ、ベリーショートと言えば良いでしょうか。中世的な顔つきも相まって、男性に間違われてもおかしくない容姿です。

 名はフィズィ=ウォーカー。彼女もニコさんと同じく、深淵の迷宮で生まれた魔物。一匹の大蛇でした。同じくネロさんによってヒトの姿をとる魔物、いわゆる魔族となった存在です。そういえば具体的な種族はあるのでしょうか。

 ついでに言えば、ニコさんの前世、二条 瞳の双子の妹、二条 涙の記憶を持った転生者です。何とも数奇な運命ですが、お互いこのことに気づいていながら、お互いが気付いていることには未だ気付いていないのです。いえ、薄々感じてはいるのですが。


「礼、か。主らには既にくれてやったと思うが、まさか本当にフラウルを連れてくるとは思わなんだ。構わんが、暫し待て」

「成功報酬ってやつね!」

「ヒヒ、言ってみるもんだなァ」


 イエーイと言わんばかりの二人です。それに乗っかるように、銀髪の少年が金の目を光らせます。


「神からのお礼ですか、それはとても興味深いですね」


 橙色の三角帽子。橙色のポンチョ。黒のローブに更に橙色のブーツ。何が彼にそうさせるのかという程のオレンジで、ハロウィンを彷彿とさせる容姿です。

 アルム=カサバ。それがオレンジ少年の名前です。

 異邦人保護協会という怪しげな組織に所属し、ニコさんに接触してきた人物で、素性も行動も言動も良く分からない、そんな少年です。良い言い方をすればミステリアスでしょうか。


「いや、お前等なぁ」

「神の御前で、よくもまぁ恐れ多いことを……」


 そう呆れているのは金髪碧眼の男性と、同じく金髪碧眼の女性。二人は二柱の神を前に、膝をついて(こうべ)を垂れています。(みだ)りにお上の顔を見てはいけない、というのはこの世界にもあるのでしょう。

 男性の方は壮年に差し掛かったくらいの年頃に見えます。少し長目の髪を後ろで括り、動きやすさを重視した軽装。背中にはバスタードと呼ばれる大きめの剣を背負っています。

 彼はアルガストロ=A=イリシオ。イリシオ王国の第三王子です。王子様といっても、今までそれらしいところはほとんど見たことがありません。

 予言を受け、ニコさんが深淵の迷宮から出て直ぐの頃から行動を共にしており、貴重な常識人(ツッコミ)です。

 彼の父であるイリシオ王が治めるイリシオ王国の首都は、先日魔王軍によって制圧。蹂躙され、王と彼の兄の一人、第一王子は死亡しました。第二王子は行方不明、彼の家族で唯一残ったのは妹であるベルメル姫のみとなってしまいました。

 女性の方は、アルメリア=K=ベルゴール。ベルゴール公爵家の令嬢であり、イリシオ王国の女性騎士団、ピオニー騎士団の若き団長です。

 初代ベルゴール家当主より代々伝わる魔槍を操る女騎士であり、魔槍クッコロスは乙女の恥じらいを力にするという不思議な槍です。その威力は強力無比、恥じらいが強ければ強い程威力が増します。

 彼女だけはニコさんに付いてきたわけではなく、アルガスさんに付いて、ここまで来ました。


「さて、まぁ諸々(もろもろ)あると思うが、まずはフラウ」


 ネロさんはフラウさんを招きました。

 彼女はネロさんの首、チョーカーに触れます。すると、チョーカーは光となって消えました。


「「「ぶふ」」」

「ちょっと!?」

「なんじゃ?」


 吹き出す人たち。憤慨するニコさん。意地悪そうな顔のネロさん。

 それも仕方のないことです。


「キスじゃなくても良かったの!?」


 ネロさんがニコさんの体を使ってフラウさんの封印を解いた時、ネロさんはフラウさんにキスをしたのです。ニコさんは封印を解くためなら仕方ない、と納得しました。

 それなのに、フラウさんはネロさんのチョーカーに触れただけ。これは納得いきません。


「まぁ、接吻である必要な無いの」

「返しなさいよ!私のファーストキス!」

「……いや、それは返せないだろ」

「妾との接吻は不本意か?」

「不本意よ!!」


 意地悪そうに笑うネロさんとフラウさん。

 一頻(ひとしき)り笑ったネロさんが呟きます。


「さて、と。あとはアルビオじゃの」


 ネロさんとフラウさんの目は、何処か怪しげな光を帯びています。

 アルビオというのは、創世に関わったと言われている三柱、創世の神、星の神、天の神のうちの一柱、創世の神を指します。


「神デネロス、宜しいでしょうか」


 アルガスさんが発言します。


「良い。(おもて)を上げよ」

「ハッ!」

「なんじゃ、真面目な奴じゃな。で、何ぞ」


 アルガスさんはデネロスさんをしっかりと見ます。今更ですが、砂浜でアロハシャツの少年に(ひざまず)く冒険者風の壮年男性というのは一体どんな状況なのでしょうか。いえ、まぁこういう状況なのですが。


「そう言えばアルガス。貴方、ネロに会ったら訊きたいことがあったって言ってたわね」

「ほう、申してみよ」

「では、遠慮なく。恐れながら三百年前、勇者エマが御身を訪ねた時、何故、セレスティアへ導かなかったのですか。彼女を使えば、貴方がたの封印は三百年前に解けていたはず」


 その言葉に、ニコさん達の最後尾にいた白い髪の少女が反応します。

 彼女はレムレス=ウォーカー。ニコさん達と同じく、魔物がその存在の格を上げたモノでした。セレスティアにいた巨大鯨の亜精霊ですが、ニコさんがネロさんに貰った進化の石を飲まされたのです。

 ニコさんの趣味と、独断と偏見により、ミニ丈の和服にハイヒールな下駄というマニアックな格好をしています。

 彼女の灰色の瞳は僅かに伏せられ、左手は右腕をキュっと抱いています。


「其様な事か。ならば、そこな少女に訊いてみるが良い」


 ネロさんの視線の先にはレムレスさんがいます。


「其奴こそ、そのエマの魂の生まれ変わりぞ」

「「なっ!?」」


 驚きの声を上げたのはアルガスさんとアルメリアさん。頭を垂れていたアルメリアさんも思わず背後を振り返りました。驚きの視線に晒されたレムレスさんは尚、その視線を下に向けました。何やら物凄く気まずそうです。


「私が、悪かった。大変失礼をした。神デネロス、意地の悪い物言いは止して頂けまいか」


 するとネロさんは笑います。可笑しそうに笑います。


「其奴はな、玉座に座る麿を見て「父上!」と申したのじゃ。確かに、外では勇者であった其奴が麿とフラウルの子であり、且つアルビオの祝福を受けた人間であるという出まかせが流布されておったようじゃがの。それにしても、開口一番父上はダメじゃろ。麿、神ぞ?」


 顔を真っ赤にして俯くレムレスさん。ネロさんはニンマリ楽しそうです。


「じゃから、麿はその誤解を解いたまでよ。したらば其奴、顔を真っ赤にして帰ってしまったのじゃ。「失礼しました!」とか言ってな。鍵を渡す暇も無かった」

「「……」」


 半目になったアルガスさんとアルメリアさん。恥ずかしそうに身体を小さくしていくレムレスさん。

 世の中、どうでも良い理由で不意になってしまう出来事というモノも意外に多かったりしますからね。


「恥ずかしくて、(おそ)れ多くて戻れなかったのだ」


 ニコさんはそんなレムレスさんに歩み寄り、肩をポンッと叩きました。そしてサムズアップ。満面の笑顔を向けました。


「ドンマイ!」


 レムレスさんは顔から火を噴く勢いです。フィズィさんは「トドメ刺してやるなよ」と笑っています。

 ニコさんは「トドメじゃないわよ!」とプンプン。しかし、ふと思い当たったように目線を上に、人差し指で唇に触れます。


「それにしても、その噂、どっから出たのかしらね。レムレス、当時のエマ自身も信じてたってことでしょう?」


 するとネロさんが鷹揚(おうよう)(うなづ)き、「さて、それでは本題に入ろうかの」と口元を歪めました。


三章までの感想など頂けるととても嬉しいです。

是々非々、お願いいたします。

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