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吸血蝙蝠ニコさんのダンジョン攻略記(仮)  作者: こぺっと
第三章 ニコさんと神々の遊び
81/100

080 神の座

今更ですが、登場人物の名前が"アル"で始まり過ぎですね。

全く意識していなかったので、自分でびっくりしてしまいました。

 空一面に張り巡らされた透明な床。その上には静かに揺れる浅瀬。辺り一面青と白の眩しい世界。穏やかで清涼な世界。

 更にその先には大きな木が緑豊かに一本だけ生えていました。まるで御神木のような存在感を放っています。注連縄や紙垂(シデ)は付いていませんが。


「ここが終点、私の旅の目的地ね」


 そんな世界に一番乗りのニコさん。その声からは特に達成感などは感じられません。それはまるでまだ終わらない、と言うように……。とか言うとちょっとカッコいいですが、ニヤリと口角が上がってるあたり、ちょっと言ってみたかっただけかもしれません。


「なんだか、ダンジョンに入ったばかりの頃の光景を思い出すな」

「確かに一面に広がる空はそうですね。ですが、床が認識できるのは良いですね。それだけで素晴らしい景色を素晴らしいと言えます」

「ああ、そうだな」


 アルメリアさんは胸いっぱいに空気を吸い込みました。空気が綺麗な所って何だか深呼吸したくなるのは何ででしょうね。釣られてフィズィさんもンーッ、と伸びをします。


「ネロのとこはただ真っ白な部屋だったんだがなァ」

「あっちは外にビーチがあったじゃない。もしかしたら、こっちにもフラウのお部屋!みたいなスペースがあるのかもしれないわ!」


 レムレスさんは辺りをキョロキョロと見回しています。そんな彼女にアルム君が声をかけました。


「レムレス=ウォーカー。どうかしました?」

「……ここが、神の座?」


 レムレスさんがそう呟くと同時、穏やかな世界の空気が一変しました。澄んだ空気がサァァと流れ、無理矢理現実に引き戻されるような、そんな感覚です。そして、何かに気付いたように全員がある一点に目を向けました。

 そこにはさっきまで影も形もなかったモノが在りました。一つの完成した美を湛えた少女です。

 眠たげな目つきに長い睫毛、黄金の瞳が密かに輝いています。青い髪は随分と長く、毛先に向かうほど蒼へ紺へ黒へ。白い肌の上に纏っているのは真っ白なワンピース。柔らかい風に揺れて輝いています。

 そんな少女が口を開き、声を発します。


「久しいな、デネロス。愛しき人」


 デネロス。それはネロさんの神としての名です。鈴の音の様な声が凛と、その神の名を呼びました。

 緊張が走る中、ニコさんが一歩前に出ました。そして微笑みを浮かべ一言。


「ああ、フラウル。久しいよな。逢いたかった。ずっと」


 そう言ったのです。




 目の前に青い髪の美少女が現れたと思ったら、急に声が聞こえたわ。


『暫し借りるぞ』


 声が頭に響くと、私の意識は急にぼんやりとして、何だか奥に引っ込んだ感じ。あの声は多分ネロよ。ネロが何かしたんでしょうけど、まぁ想定パターンの上位に食い込んでいた事象だから別にそこまで驚かないわ。何せ、(ネロ)の因子を取り込んでいるんだもの。

 今の状態は自分の意識はぼんやりとだけど残ってて、何となく夢の世界で自分が勝手に動いて喋って、不思議な気分ね。きっと彼女がフラウね?ネロがずっと逢いたかった(ヒト)


「息災であったか」

「貴方こそ、デネロス」


 とっても静かな再会ね!ここまで頑張った私としては、もっと欧米っぽくハイテンションで喜びあって欲しいものね。ハーイ、フラウ!久し振り、300年振りだっけ?相変わらず綺麗だけど、あれあれ?その毛先、もしかしてストレスで黒くなっちゃった!?なんて、そんな勢い!全く、神のクセにはにかみ屋さんね!


『ええい!喧しいわ!少し黙っとれんか!』


 あら、怒られちゃったわ。てか聞こえてるのね、どう聞こえてるのかしら、不思議ね!とっても不思議。あれかしら、無意識がうるさいみたいなそんな感じ?頭の中の独り言(セルフトーク)が止まらないとか良くあるわよね!私なんかいっつもそんな感じ!たまにセルフトークが無いヒトとかいるらしいけど、あれってどんな感じなのかしら、そう言えばお腹すいたわね。


『まっこと、やっかましいのぉ……。いとやっかましいのぉ。あー、よしよし、良い子じゃから少し静かにしとれ』


 あら、子供扱いなのね?まぁ別に良いけれど。私は心の広い女なのよ!むしろ子供って良いじゃない!私ずっと子供でいたいわ。って少し黙っとくのね、ごめんなさい。もう黙るわ、3,2,1。ハイ、黙ったー。私黙ったー、もう黙ったわよー!はい、ほんと。てか思考を止めるってどうすれば良いわけ?!止まらないわよ?!


『……何を一人でブツブツとやっておるのじゃ。もう呼吸の数でも数えとれ』


 うふふ、ごめんあそばせ。そうしておくわ!


「デネロス、どうかしたか?」

「いや、少し此の体の主が喧しくての」


 悪かったわね、喧しくて!


「てめェ、ネロ!ニコに何しやがった!」


 あら、フィズィが突っかかってきたわ。あらら、ちょっと、揺さぶらないでほしいわね。


「案ずるな、蛇よ。暫し体を借りただけのこと。彼奴も別に構わんと言っとる。喧しいのは奴の思考よ、げに喧しい。危うく麿も釣られるところじゃ」

「ッチ!紛らわしいんだよ!まァ確かに、アイツの思考が流れてきたらウルセェだろうけどよ」


 フィズィ、全く相変わらず失礼な奴ね!何嗤ってるのよ!


「して、フラウ。近う寄れ」


 あら、ネロさん、何かするのかしら。そんな、頬に手なんか添えちゃって、まるでキスでもするみたいにってぎゃああああああ!何本当にキスしてんのよ!ネロ!私の体で何してんのよ!?フラウが悩ましい声だしてるじゃない!?ちょっと!


『ええい、黙っておれ!フラウの封印を解いとるだけじゃ!』


 全く!そういうことなら先に言いなさいよ!ビックリするじゃない!ほら、見なさい!アルガスとアルメリアを!何とも言えない顔になってるじゃない!?って他に方法は無かったの!?

 てか私のファーストキスが女神様とか、どうすればいいの?喜べば良いのかしら?!


『当然じゃ。むせび泣いて喜べ』


 ムキー!ってあら?


「それではな、フラウ。待っておるぞ」

「わかっておる。疾く行こう」


 何かフラウのチョーカーが光って消えたわね。アレが封印?


『如何にも、アレは囚人の証よ。全くアルビオめ、戯れが過ぎる。ほれ、蝙蝠。体を返すぞ』




「っと!?」


 どうやらニコさんが帰ってきたようです。おかえりなさい。

 急に戻ってきた現実感に足元がフラッとしています。


「デネロス。……もう帰ったか」


 フラウさんはそう言うとそっと唇を触りました。ニコさん的には何だか気恥ずかしいですね。いくらやった本人は違くとも、体は自分の物ですから。

 フラウさんはツイっと、そんなニコさんから視線を外しました。


「そこな男」


 ご指名を受けたのはアルガスさん。アルガスさんは「俺?!」とキョロキョロしています。全く王族設定が仕事しないヒトですね。


「主、エマの系譜よな」

「ええ、私は確かに三百年前に魔王を討ち果たした勇者エマの子孫です。あの、勇者エマは……」

「デネロスと妾の、ヒトとしての子ではない。その様な話が何時までも語られているのは不愉快以外の何物でもない。覚えておくが良い」


 どうやら伝承は間違っていたようですね。アルガスさんはちょっと固まってしまいました。一番後ろにいたレムレスさんはと言えば何処か寂しげにフラウさんを見詰めています。


「奴はアルビオが戯れに選んだただの人間よ。この身が産んだ子ではない。よりにもよってその様な戯言、アルビオの奴め」


 フラウさんは始終表情が眠たげですが、語気だけは実に憎々し気です。何故かレムレスさんの肩がピクリと跳ねました。まるで叱られた子供のようです。


「しかし、女神フラウル。アルビオと言うと創生神のことですよね?一体何が?」


 口を挟んだのはアルム君。物怖じしない子です。お陰でアルガスさんが人知れずドキッとしています。


「外界の人形か。その話はデネロスの元へ着いてから存分にしてやろう。その前に」


 そう言うとフラウさんはニコさんたちに背を向け、腕を上げます。彼女の差した先には、あの大きな木。


「其処に在るは妾がてづから育てた木よ。この木に成った実は子等の枷を一つだけ外す。一番強い枷をな。資格があるのは其処な二人」


 フラウさんが指差したのはアルガスさんとアルメリアさん。


「助けがあったとはいえ、ヒトの身で此処に辿り着いた褒美だ。欲すか?」


 突如指名された二人は何のことかさっぱりです。しかし、アルガスさんは直ぐに予言を思い出し、答えました。


――汝、扉を開くものなり

――汝、災い止める勇者なり


「……有り難く頂戴致します」


 アルガスさんが膝を着き、アルメリアさんも続きました。フラウさんはうむ、と一つ鷹揚に頷くと、木下まで歩きました。すると、彼女が差し出した両手に吸い込まれるように赤い実が二つ。


「此れよ。一つ囓れば目が開き、二つ囓れば(しん)が広がり、三つ囓れば枷は外れる。全てを食せば正しく器と心は一体に、器は世界と一体に」


 フラウさんについていった二人はそれを受けとりました。そして言われるままその実をしゃくりと齧りました。するとどうでしょう、彼等の意識は拡張され、ズレに気付かされ、それが正されていくような感覚が湧き上がりました。目が覚めたような心地、というものでしょうか


「信じられない……」


 アルメリアさんが呟きました。


「俺は、俺たちは一体……」


 二人は急に別世界に来たようなヒトになってしまいました。そうして急かされるようにしゃくしゃくとその実を全て食べると、なお信じられないという様子で、ただただ己の両手を見詰めます。


「食ったか。どうじゃ?枷の外れた、覚醒した感覚は」

「女神様、感謝致します。まさかこれ程とは……、枷とは一体」

「ねぇフラウ、私たちは何で資格が無いのかしら?」


 ニコさんはやっぱり神様も呼び捨てです。小心者なのか、大胆なのか良く分かりませんね。


「主等三人は既にヒトの身を越えたモノじゃろ」


 それもそうね、とはニコさん。

 ニコさん、フィズィさん、レムレスさんのことですね。


「そして其処な人形はそもそも我らの創った理の中には居らぬモノ」

「その人形ってなァ?」

「妾に訊かずとも、本人に訊けば良かろ」


 アルム君はいつも通り笑っています。フィズィさんはそんな彼をチラリとみると、溜め息を一つ吐きました。まぁ、アルム君がまともに回答するイメージはあまり湧きませんよね。

 ニコさんは一人何か納得している様ですが。


「さて、それでは行くか。主等にはまだやってもらうことがあるからの」

「ネロのところかしら?」

「左様」


 すると、フラウさんを中心に強烈な風が巻き起こります。ブワリと吹きすさぶ風は、世界そのものを吹き飛ばすかのよう。

 一瞬の後、風が収まると景色は一変。真っ白な空間に早変わりです。そして響く声。


「待っていたぞ、フラウル。それに蝙蝠と愉快な仲間達」


 それはネロさんの声でした。

最後までお読み頂きありがとうございました。

感想などお待ちしておりますm(_ _)m


おまけ――


以前描いたけど、載せていなかったフラウさん。

挿絵(By みてみん)

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