077 犬顔の戦士たち
ニコさん達は巨大鯨の背に乗って、コボルトを乗せたドラゴン、騎竜戦隊ネッセンジャーにゆっくり近づきました。そして気付かれないギリギリの間合いでしょうか。フィズィさんがスコープを覗いて呟き、愉快気に嗤っています。
「このくらいならまぁ、狙えるか。ヒヒ、ホントこの身体はスゲェなァ」
フィズィさんは、スコープ越しに高速で動くドラゴンをしっかりと追っています。それも、しっかりレティクルの中心に収めているのですから驚きでしょう。
「しっかし、エクェスコボルトとか言ったか?顔面チワワじゃねェか」
「……そう、チワワなのね」
ニコさんはそっと目を伏せて言いましたが、その姿を想像してしまったのでしょうか。俯きながらプッ、と吹き出していました。
「なんか、凄い嫌だなソレ。アルメリア、お前確かお前の家でチワワみたいな小型犬飼ってなかったか?」
「ベディですか?殿下、よく覚えてらっしゃいましたね。ベディも光栄でしょう。しかし、それを聞くと何だか戦いづらくなりますね」
どうやらアルメリアさん、犬を飼っているようです。犬を飼う独身女性は婚期を逃すという話はよく聞きますが、実際のところどうなんでしょう。少なくとも相手の条件に犬 Love は入りそうですが。
それは一先ず置いといて、フィズィさんは「そんな可愛いモンじゃねェよ」とスコープを覗いています。
「ヒヒ、多分見たら殺意湧くゼ?身体は人間で、頭だけチワワだから、とりあえずキモイというか腹が立つ。なんて言うか、俺も犬は嫌いじゃねェが、アレは許せねェな」
チワワと聞いてしんみりしていたアルガスさんとアルメリアさんも、流石に顔だけチワワはげんなりするようです。アルガスさんはやるせない顔で、アルメリアさんはキリっと言いました。
「……それは、嫌だなぁ」
「……断固として認められないな」
フィズィさんはヒヒヒ、と笑うと引き金に指を掛けます。
「とにかく、撃つぞ」
そして、そう言って引き金を引いたフィズィさん。
一瞬の間に発砲音。白銀の閃光が辺りを照らし、真っ直ぐ伸びていきます。
光の弾丸は一直線に尾を引いて、まるで一筋の流星のようです。
光の矢はおよそ目には映らない程の速度でネッセンジャーレッドへと迫りました。
しかし、どうやって察知したのかドラゴンはその飛行軌道を変え、高速で迫る光の弾丸を華麗に回避したのです。
「外れたわね」
「ッチ!避けやがるかチワワヘッド!」
ドラゴンが凄いのか、まさか騎乗しているコボルトが優秀なのか。これにはフィズィさんも驚きます。
ニコさんもフゥーっと煙を吐くと、不敵な顔で言いました。
「成程。エースパイロット、エースチワワね。……やるじゃない、相手にとって不足なしよ!」
全くカッコよさを感じないのは、やっぱり相手がチワワだからでしょうか。
「なんだよ、エースチワワって……」
「アレはチワワではない。間違えるな」
それはともかく、騎竜戦隊ネッセンジャーは今の一撃でニコさん達の存在に気付いたようです。
「気付かれましたね」
「さて、来るわよ!」
ニコさんが叫ぶと同時、一斉にこちらを向いて散開、接近するネッセンジャーの皆さん。
本当に竜騎士の小隊の様な動きです。
そのうち一体、イエローがカパリと口を開けました。
その瞬間、ゾワリとした感覚がアルメリアさんを襲います。咄嗟に魔術結界を強化しました。
アルム君も、ブレスを迎え撃つべく杖を振ります。
「―――――――ッッッ!!」
それと同時、ドラゴンの口からは熱線が放射されました。それは極太のレーザーのようで、ちょっと前まで戦っていたドラゴン達の熱線よりも更に凶悪な一撃でした。
「さっきまでとは訳が違いますね!」
その一撃はアルム君の魔術と激突しますが、その勢いは完全には殺せませんでした。僅かに軌道が逸れましたが、逸れた先はアルメリアさんの結界の範囲内。結界を食い破らんと激しい光を撒き散らします。
「~~~ッ!クッコロス!!」
アルメリアさんは慌てて魔槍を使います。今は羞恥心が高まっているわけでもないので、あまり増強は期待できませんが、少しでも強度を上げないと本当に破られてしまう程なのでしょう。
アルメリアさんが叫びます。
「マズい!一斉に打たれたら破られる!」
するとニコさんが一歩前に出ました。
「仕方ないわね!アルメリア、私がやるわ!貴女はあいつらを叩いて!」
ニコさんも防衛に回る様です。
アルメリアさんは逡巡しますが、ニコさんが人外の戦力であることは既に身に染みて分かっています。すぐに任せることにしました。
「すまない!任せた!」
「ッチ!俺が空を飛べりゃなァ!アルガス、アルメリア!とにかく撃つぞ!近づかせるな!」
「とにかく、囲まれる前に叩きましょう!」
フィズィさんはライフルを構え、再び射撃を開始しました。
アルガスさん、アルメリアさんもそれぞれの銃を取り出し、迫り来るネッセンジャーに向かって光弾を撃ち続けます。
しかし、敵も然るもの。バレルロール、インメルマンターンなど、無駄に美しい飛行を見せながら華麗にそれらの攻撃を避け、高速で距離を詰めてきます。
「トンデケ!トンデケ!」
「キケンダ!キケンダ!」
「キャイン!キャイン!」
チワワ顔のコボルトが叫び、ドラゴンが熱線を吐きます。それを何とか凌ぎ続けるアルム君とニコさん。二人の顔からもいつの間にやら余裕が消えています。
「クッ!やっぱりこの世界のコボルトって皆あんな感じなのね!?」
ニコさん、口だけは余裕そうですが。
「このままじゃ埒が開かない!何かないか!?」
『私も少し手を貸そう。少し耳を塞いでいるがいい』
痺れを切らしてアルガスさんが叫ぶと、鯨が言いました。
言葉は分からなくとも、良くない雰囲気を感じたのでしょうか。その巨体に空気を取り込むと、世界をビリビリと震わせる程の声を上げたのです。
これには騎乗していたコボルトが驚き、ドラゴンが動きを止めました。余りの声に、ニコさん達もフリーズしてしまいそうになりましたが、再びアルガスさんが叫びます。
「今だ!撃て!」
「言われなくても分かってるっての!」
その叫びに呼応して、フィズィさんも体勢を整えノワールの引き金を引きます。更に、この一瞬の隙を逃すまいと、ニコさんとアルム君の防御陣も魔法と魔術の一斉掃射を行いました。
幾重もの光が闇夜を切り裂き、硬直したドラゴン達へと吸い込まれ、爆砕します。
「当たったわよ!」
「やったのか!?」
直撃を受けたのはネッセンジャーイエロー、ブルー、グリーン。余程頑丈なのか、ドラゴンに外傷らしい外傷は見えませんでしたが、そのまま吹き飛ばされて墜ちて行きました。
しかし、障壁を展開したことで直撃を逃れたレッドとギリギリ攻撃を避けたピンク。硬直から解放されれば、再び空を泳ぎだし、ニコさん達から距離を取りました。
「二体残したか!」
「同じ手は通用しないでしょうね。三体墜とせただけでも上々です」
一旦距離を置いたレッドとピンクは、遠距離から凶悪なブレスを放射してきます。アルム君とニコさんはそれを防ぎます。
「これじゃあ動けないわね!」
そう言った矢先、二体のドラゴンは突然互いに急接近し始めました。
「ドッキング!ドッキング!」
「ファイア!ファイア!」
チワワ頭のコボルトが叫ぶと、二体のドラゴンは重なるくらいに近づいて、同時にカパっと口を開きました。それはまさかの合体技です。
「「――――ッッ!!」」
同時に発射された熱線は互いに絡み合い、一本の極太レーザーとなってニコさん達に迫ります。
「なッ!?」
「合体技かよ!」
これがもし、五体でやっていたならどれ程だったのか気になります。きっと視聴者が「最初からやれよ」と突っ込みたくなるような一発逆転の威力だったでしょう。
「ちょッ!?絶対に止めるわよ!?少年!」
「――逸らしてください!」
当然予想していたアルム君も障壁を展開します。それは抑えきるよりも逸らすことを重視した鋭利な形状。
これにより、何とか威力を分散させ、残りをニコさんが展開した円形の障壁が外に流します。
しかし、体の脇スレスレを通り抜ける熱線に驚いた鯨が、声を上げて僅かに身を捩ります。ニコさん達も大きな地震に遭ったかのように足場を失いました。
「うおお!」
「すみません!」
「チクショウ、あの何とかレンジャー!舐めやがって!おい、ニコ!こっちも合体技でいくぞ!」
「そんなの無いわよ!」
「俺を持って飛べ!」
「いや、無理でしょう!?」
幸い落ちたものは居ませんでしたが、鯨の上ではお祭り騒ぎです。
「ッチ!使えねぇ!だったら、やってやるよ!――風の蛇神!」
フィズィさんが勢い任せに発動した魔法、それは飛翔の魔法でした。フィズィさん、どうにか空を飛べないかずっと考えていたのです。
彼女は今、その身の周りに暴風を纏っています。
「うぉぉ!」
「きゃあああ!」
吹き飛ばされそうになったアルガスさんとアルメリアさんの手を掴み、ニコさんが叫びます。
「ちょっとアンタ!風が煩いわよ!?」
「うるせェ!これならいけるんじゃねェか?!」
フィズィさんは鯨から飛び降りると、何かに吹っ飛ばされるようにニコさん達の前まで再び飛び上がってきました。これにはニコさんも、助けに向かおうとしたアルム君も驚きです。フィズィさんはとにかくエンチャントや攻撃といった魔法に向いているのかもしれませんね。
「ヒャヒャヒャ、出来たぜこの野郎!これで空は俺のモンだ!待っていやがれ、蜥蜴野郎!」
そう吠えると、フィズィさんは再び吹き飛ばされるように、今度はドラゴンに向かって吹っ飛んでいくのでした。




