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吸血蝙蝠ニコさんのダンジョン攻略記(仮)  作者: こぺっと
第三章 ニコさんと神々の遊び
69/100

069 健全な魂は健全な筋肉にこそ宿るべし

「うあああああああああああああ!!」

「クフフ、任せたよ。アルバ」


 先手必勝、良く使う言葉ですが、それがそのまま成功するシーンってあまり見かけないですよね。しかしながら、アルメリアさんは兎にも角にも先の先を取りに行きました。抑えられず飛び出した、という方が正しいのですが。

 対してベインさんはそれに応じる気はないらしく、アルバさんの後ろにソロリと下がりました。


「オーケー。全力デ、カモンガール」


 アルバさんはブーメランパンツのマッスルナイスガイです。彼はそう言うと、ただ少しだけ腕を左右に膨らませただけの立ち姿、つまりはリラックスポーズでアルメリアさんの突進を迎えました。


 この瞬間、アルメリアさんは勝利を確信し、「殺ったぞ!」と吠えました。

 それは、完成された突きでした。もはや芸術の域に到達したその一撃は、間違いなく目の前の男、アルバさんを直撃し、その筋肉を穿ち、突き破り、骨を砕き、貫通する。そう、アルメリアさんは確信していました。


 そして、一直線に吸い込まれる槍。

 ゴスッ!!と響く鈍い音。


 しかし、なんということでしょう。空を切り裂かんばかりの一撃はアルバさんの体に直撃するも、その鍛え上げられた肉体を貫くことはおろか、一センチ後退させることすら叶いませんでした。


「ンッンー、カワウィーネー」


 つまりは、アルバさんのマッシヴなマッソーの勝利です。

 余裕の表情を浮かべるアルバさん。


「クッ!?馬鹿な!」


 反対に、信じられないとばかりに、立て続けに突きを繰り出すアルメリアさん。その一撃は下手な魔物など一撃粉砕の威力なのですが、全く効果が無いのかハハハ、と笑うアルバさん。全く余裕の様子です。まるで幼い子供のパンチを受けるお父さんのようです。

 後方ではアルガスさんも驚きの表情を浮かべています。


「何故だ!何で!?貫け!クッコロス!」


 何度も何度も魔槍を叩きつけるアルメリアさんですが、アルバさんは「ナイスマッサージ!キモチイーネー」と全く意に介さないどころか、真っ白い歯を輝かせてのナイススマイルを浮かべています。到底許容できる光景ではありません。


 その様子を見ていたアルム君が顎に手を当て呟きました。


「アレは、まさか……」

「アルム、何か知っているのか?!」


 その表情は正に真剣そのもの。アルガスさんも真面目な顔でアルム君を見ます。すると、スゥっと目を細めたアルム君。その視線はアルバさんの鋼の肉体を注視しています。


「恐らく、アレは筋肉魔法です。彼はウィザード・オブ・マッスルの使い手というわけですか」

「ウィザード・オブ・マッスル……だと!?」


 アルム君は帽子のツバをクイっと引き下げ、「ご存じと思いますが」と瞳をキラリ輝かせます。


「筋肉魔法、それは己の筋肉を愛し、信じ、日々育て続ける真の筋肉愛好家が稀に会得する、とても強力な魔法の一つです。自らの筋肉を信じる心が魔法となり、その心折れない限りその身一つでどんな攻撃にも耐え、どんな相手も打ち砕きます。それが筋肉魔法です」

「馬鹿な!それじゃあ、アルメリアはッ!?」

「ええ、今のままでは絶対に勝ち目はありません」


 アルガスさんは苦悶の表情を浮かべ、舌打ちを一つアルメリアさんを助けにと飛び出しました。


「まさか、この大陸にあのような使い手がいるとは……。世界は広いということですか、いやはや参りましたね。バルク、デフィニッション、プロポーション共に中々のものじゃないですか。これならノルデニアの大会でもいい線まで行きそうです」


 アルガスさんを見送りつつも一人戦慄しているアルム君。

 ニコさん、フィズィさんはどうしたモノやらと顔を見合わせています。


「ウィザード・オブ・マッスル。意味わからんが」

「何だか良く分からないけれど、とにかく凄そうね。マッスル・マギカでも良くない?」

「なんだよその色んな意味危険な……。劇画タッチの魔法少女でタイトル文字だけ可愛いギャグマンガとかでありそうだな」

「何それ、ちょっと読みたいじゃない」


 ニコさん達が良く分からない話をしている間も、アルガスさん、アルメリアさんとアルバさんの攻防は続きます。と言っても、アルバさんはただポージングと共に白い歯を輝かせているだけですが。


「下がれ!アルメリア!」

「クソ!」


 アルガスさんが袈裟切りに一閃。アルバさんにバスタードを振り下ろします。


「ンー、モスト・マスキュラー!」


 キィィィィ……、と硬質な音。

 黒光りするアルバさん。


 全くもって人体を斬った音とは思えない音が夜闇に響きました。当然なのかどうかはわかりませんが、アルバさんは無傷です。


「キレてるキレてるー!」

「斬れてねぇよ!」


 斬れてないのにキレてるとはまた不思議な感じですね。アルガスさんは涙目です。


「広背筋見せてー!」


 謎の掛け声を掛けるニコさんとフィズィさん。ニカッと白い歯を見せると、ニコさんのリクエストに答える様に体を捻るアルバさん。

 月光を反射して輝くその筋肉は、正に神の与えたもうた筋肉です。非の打ちどころの無い肉体は一切の無駄なく、それはまるで一つの芸術でした。


「背中に羽生えてる!」

「ナイスチョモランマじゃねェか」


 彼女たちがワイワイと歓声を上げる気持ちも分かります。


「お前たち!何をしてるんだ!」

「遊んでないで!手伝え!……アルム!」


 そんな彼女達に悲鳴にも似た抗議の声が投げ掛けられましたが、まぁそれはそうですよね。

 ちなみにベインさんはというと、さっきのニコさんたち同様、アルバさんの筋肉を褒め称えています。「ナイスバルク!」とか言っています。仲が良いですね。


 カオスな状況が続く中、アルバさんもいい加減攻撃を受けるのに飽きたのか、それとも本当は痛かったのか、


「ンー、イイ加減、カワウィクナーイ」


 そう言うと、アルバさんは筋肉を軋ませながら上体を捻りました。

 とうとうその筋肉が守りではなく攻撃に使われるのでしょうか。その圧迫感と言ったらありません。

 元々大きい体が更に大きくなったような錯覚に、アルガスさんとアルメリアさんの顔からは血の気が引き、目の前のマッシヴ・ガイから死の気配を感じとりました。


「マジ、かよッ」

「こんな、まさか……ッ!」


 絶望的なまでの気配に飲まれた二人は、蛇に睨まれた蛙の如く体は動かず、ただ、信じられないと言った表情で固まっています。

 そこにフィズィさんの声が響きます。


「そこまでにしときな!」


 その語気とは裏腹に、口許は歪み実に楽しそうです。


「ヤるなら、俺と遊んじゃくれねえかァ!?」


 言葉通り、鉄砲玉のように飛び出したフィズィさん。固まっている二人の間に割り込み、アルバさんの必殺の一撃に、己の拳を叩きつけました。


「ウィィィィィィッ!!!」

「曷ッ!!!」


 驚きに見開かれる目は、アルバさんのモノ。フィズィさんはヒヒヒ、と嗤い、瞳孔全開マジキチスマイル。そのまま全身を使った打撃を止めどなく繰り出します。


「フィズィ!」


 早さではフィズィさんが上手。アルバさんはその嵐のような乱打を捌けず、その頑強さと暴力の権化でもって対抗します。そうです、対抗です。今、初めて、アルバさんが親子のじゃれあいから、闘争へとシフトしたのです。


「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!たァのしィなァ!!全力で殴り合えんのはよォ!!」

「ウィィィィィィッ!!」


 フィズィさんの言葉に応じるようなアルバさんの叫び、そのナイススマイルには僅かながら獰猛さが滲み始めました。


「あーあ、アルバ押されてるじゃん?珍しい」


 嵐のようなフィズィさんに、暴力の権化のようなアルバさん。二人ともとても楽しそうにしています。

 それを見るベインさんも珍しいものを見たと、口角を吊り上げていました。

 アルメリアさんは唖然としています。


「ンンンーッ!!一家二一台!!」

「俺が欲しいってか!?おらァ!!」


 フィズィさんのソバットを受けたアルバさんは、地面に後を残しながら後ろに押し出されます。


「……カワウィネー」

「ハッ!嬉しいじゃねぇか!可愛いなんて、そうそう言われねェからよォ」


 視線を交わす二人。

 ニコさんは「脳筋ね」と煙をプカリ。


「終わりましたか?」

「ノットマッシブ、バットオールソー……」


アルバさんも目はぎらついていますが、一旦は満足といった所でしょうか。フィズィさんとお互い構えを解くと、リラックスポーズへと移行しました。


「で、結局アンタたちはここに何しに来たのよ」

「僕たちはね、クフフ。……まぁ君たちと同じだと思うよ」

「ふうん」


 ニコさんは右目を光らせアルバさんとベインさんを注視しました。


「……貴方たち、まぁいいわ。それなら一緒に行きましょうか」



おまけ--


ベル=モグレス。

もっと緩いウェーブなイメージですが……。


挿絵(By みてみん)

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