065 閑話 - 続・フィズィさんは女の子
最近一文がもっさりしてますね。
スナック感覚で読めるポリポリ文章を目指したいです。
2017/11/05 あとがきにフィズィさん追加しました。
襲撃の翌日、アルメリアさんが戻ってきた後なので、日が大分傾きかけた頃合い。アルガスさん含むニコさん一行は、ノビリスのベルゴール公爵家の別邸に厄介になることになりました。
ベルゴールさん家は西区の貴族街にあるのですが、運良く今回の被害にはほとんど会わなかったようで、アルメリアさんが招待してくれる運びになったのです。いつまでも騎士団の所で世話になるわけにもいきませんし、これはとても良い提案でした。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ああ、ただいま。エイドリアン。彼らはお客様だ、明日には出ていくが、くれぐれも粗相の無いように頼む。私も今日はここに泊まるから、人数分の部屋を用意しろ。任せたぞ」
「畏まりました。お客人の皆さま、ようこそおいで下さいました。それでは中にご案内いたします」
ベルゴールさん家は、大きな屋敷でした。到着するなり身なりの良いロマンスグレーの紳士、エイドリアンさんが出迎えてくれます。
癖の強い髪を七三に分け、左右にキチっと真ん中かわ分けた口髭がとてもチャーミングですが、その身のこなしは洗練されており、フィズィさんの口角がニヤっと上がっていました。ワクワクしちゃったのでしょうか。
ベルゴール家の皆さんは、普段ノビリスにいることはないので、ここの屋敷の管理は全て使用人たちに任せているとの事らしいですが、とても良く管理されているのが見て取れます。
広い敷地の庭には美しい花が色とりどりに咲いており、その配色も見事に計算されています。
緑の芝には焦げ跡一つなく、まるで昨日の惨劇などどこ吹く風と、この屋敷には一切無縁だったかのように思えます。
もしかしたら、その裏では公爵家使用人VS魔物軍団みたいな深夜の激闘が繰り広げられていたのかもしれませんね。ワクワクしちゃいます。
「凄いわね!この辺りはどこもブルジョワジーな家が多いと思ってたけど、ここはまた一層ブルジョワーナね!」
ニコさんも良く分からない言い回しで褒めました。
屋敷の中に入れば、これはまた立派なモノで、その内装も美しい庭に勝るとも劣らない、実に品格溢れるインテリアです。
具体的に言うなれば、良く分からないけど凄く高そうな謎の絵画とか、歴代当主の肖像画とか、何だか分からないけど綺麗な花瓶にブーケだったり。しかもその配置もやっぱり実によく計算されており、ただ並べるだけではなく、優雅さや気品を感じる仕事がされています。
「……天晴じゃないのよ」
「テメェはさっきから、何を一人でブツブツと言ってやがる」
何やらこのオシャレ空間に戦慄しているニコさんでしたが、隣を歩くフィズィさんはそんなニコさんを少し恥ずかしそうに睨んでいました。
ニコさん達が通されたのは、いわゆる客間であり、大きな窓から光が差し込む明るい雰囲気の部屋でした。
「殿下、それに連れの方々。昨夜からロクに休めてもいないでしょう。一先ず、今日は休み、具体的な話は明日ということで如何でしょうか?」
「ああ、それでいい。嬢ちゃん達もそれでいいか?」
「別に構わないわよ」
アルメリアさんの提案に、異論を返す人はいませんでした。皆、それなりに疲れが溜まっているのでしょう。
「それでは、まず風呂でも如何か?その間に食事を用意させよう」
「風呂!?風呂って言った!?」
「風呂だと?!」
ニコさんとフィズィさんは風呂という単語に異常なまでに食いつきました。
それもそうでしょう。今まで身体を清めるといったら、もう選択の余地なく川にダイブでしたから、風呂という単語には輝きにも似た希望を感じたのでしょう。
「ええ、この屋敷には浴場が二つあるので。殿下さえよろしければ、男女に分けて入ってしまうのが効率的かと。お一人で入られますか?」
「ああ、構わないさ。俺にはあまり気を使わなくて良い」
アルガスさんは適当に手をヒラヒラとさせていましたが、アルガスさんにとってもお風呂は久しぶりのようで、その表情はとても柔らかいものになっていました。
「失礼しました。それでは、エイドリアン、殿下とそこの方々の案内を頼む。それでは我々も行こう」
そう言って、アルメリアさんはニコさんを連れてさっさと行ってしまいました。これはいつか見たパターンですね。ニコさんはクツクツと笑っていました。
「で、アルガス。俺とはいるかァ?」
「いや、お前も行けよ!」
さて、アルメリアさんに付いて行ったニコさんですが、脱衣場でアルメリアさんと共に和服をシュルシュル脱いでいました。
「随分と見慣れない服だ。流石は神の遣いか」
「まぁ、そんなところね!」
やはり、アルメリアさんも和服は気になるようです。それは物珍しさからでしょうが、ニコさんはとっても得意気です。
「そういえば、ニコ=ウォーカー。羽はどうしたのだ?」
「ニコで良いわよ。羽は、取れたわ」
「取れた!?」
「嘘よ、意外にいいリアクションするのね」
「……揶揄わないでくれないか」
はぁ、と溜め息一つ。アルメリアさんはニコさんを半眼で見ます。
アルメリアさんが騎士団のかっちりとした装備を脱いでしまうと、そこには気品が漂う裸体がありました。流石に騎士、しかも団長ということもあってか、結構鍛えられているようですが、バランス良く鍛えられており、それは女性らしさを損なうどころか一層際立たせています。
これぞ、女騎士と言ったところでしょうか。因みに、どこがとは言いませんが、控えめです。
「ほうほう、これは中々美味しそうな……」
「ヒトの身体をマジマジと見ないで欲しいのだが。というか、美味しそうとはなんだ、美味しそうとは」
ニコさんの視線を鬱陶しそうに身体を隠すアルメリアさん。
「いや、私一応吸血鬼だし?」
「……よからぬことは、考えない方が身のためだぞ?」
「ふふ、冗談よ。あ、でも、気持ちいいらしいわよ?」
「なっ!は、破廉恥な!このような者が、神の遣いなどと、全く何の冗談だ!」
アルメリアさんの初な反応にクスクスと笑うニコさん。「モグ爺さんに会わせたらきっと喜ぶわね!」とか言っています。セクシャルなハラスメントです。
着物を丁寧に畳み、赤くなってずんずんと行ってしまったアルメリアさんを追いかけて浴場へ続く扉を開けると、そこには何とも豪華な世界が広がっていました。
ニコさんは一瞬ばかり、目を丸くして呆けてしまいましたが、直ぐに頬を緩めて中に入りました。
湯煙漂うその先には、二十人位は優に入りそうな浴槽で、しかもかけ流し。吸い寄せられるようにそちらへ向かうニコさんは、まるで長い間行方不明になっていた家で息子と再会した母親のような足取りで、その表情も真に迫るものがあります。
「……源泉、かけ流し」
浴槽は淡いピンク色であり、大理石のような材質でしょうか。ピカピカに磨かれたそれは、ほわー、と覗き込んだニコさんの顔を映します。
「……私、全部終わったら、ここに住むわ」
それはもう、物凄い真顔でした。マジなヤツです。
「いや、止してくれ」
「ケチね!?」
まぁ、当然というか、却下されましたが。残念ですね。
「浴槽に入る前に汗を流してくれよ」
「分かってるわよ」
若干むくれながらニコさんがアルメリアさんの方を向くと、何とそこにはシャワーで汗を流しているアルメリアさんがいました。
「シャワーもあるのかよ!通りでなんか聞きなれた音がすると思ったわよ!むしろ馴染み過ぎてて気付かなかったわ!」
ニコさんはもう大興奮です。一体喜んでいるのか怒っているのか、良く分からないリアクションですが、全裸で地団駄踏むのはレディとしてどうなのでしょうか。
「なによ!私はいつ日本に帰ってきた!?ここ、ちょっとした高級ホテルの浴場と変わらないじゃない?!世界観大事にしなさいよ!」
「何を騒いでるのかは知らないが、まぁ確かに珍しいのだろう。風呂の文化は、イリシオが一番発達しているからな」
そういうアルメリアさんも、自国自慢かどこか得意気です。
ニコさんもシャワーを使うため、アルメリアさんの隣へ行きました。
二人は軽く汗を流すと、大きな湯船に入ります。広い湯舟を二人で何て、贅沢です。
「あー、風呂酒したいわー」
「風呂で酒だと?そんな事をしたら直ぐに逆上せてしまうだろう」
「そういう文化もあるのよー。あー、気持ちいー」
ふーん、とアルメリアさん。因みにお風呂でのお酒は危険行為らしいですね。
そうして二人がまったりとしていると、誰かが浴場に入ってきました。
「よー、スゲェとこだなおい」
「ハ!?ちょっ!!フィズィ=ウォーカー、貴方ですか!?何で入って来てるんですか!?」
その正体はフィズィさんでした。今だ湯煙でお互い影しか視認できませんが、アルメリアさんは全力で体を隠します。
「は、早く出て行ってください!今ならまだ許しますが、ってああ!それ以上近づくな不埒者!」
「ヒヒ、まぁいいじゃねぇか」
「ちょっと!ホントに、ヤダヤダ何で!?ちょっとニコ、貴女も何で笑っている!?」
顔を真っ赤にして涙目のアルメリアさん。ニコさんはもうケタケタと大爆笑です。
そうしてやがて、お互いに視認できる距離に近づくと、もうフィズィさんも耐えられないと腹を抱えて笑いました。可哀想に、アルメリアさんだけがもう目をグルグルさせています。
「おい、アルメリア、俺を良く見てみろよ」
そう囁くような声で言うと、フィズィさんはアルメリアさんの腕を掴みました。
「きゃあああああああ!!!もうちょっ!放して!イヤ!破廉恥!変態!馬鹿!女の敵め!貴様のような者は!って……」
風呂の湯を散々ぶちまけながら暴れ叫んでいたアルメリアさんも、フィズィさんの裸体を若干の好奇心からチラ見したところで、ようやく気付きました。
「……女性?」
「ヒャヒャヒャヒャ!そうだよ、俺は女さ!お前、俺を男だと思ってたか。ヒヒ、さっきの慌てよう、可愛かったぜ?あー、ヤベェ、涙出てきたわァ」
「ふふ、いやぁ、ふふふ。アルメリア団長様も随分と可愛いお声を、うふ。上げるのでございますわね。ふふ、うふふふ」
二人に揶揄われて、更に真っ赤になったアルメリアさん。今にも顔から火が出そう、というのが本当にしっくりきます。それにしてもこの二人、イイ性格してますね。決して褒めてませんが。
「クッ!コロ……ス!!」
そして、その物騒な一言と共に、突如として現れた槍がアルメリアさんの右手に握られていました。
それは魔槍クッコロス。乙女の羞恥心を力に変えるという不思議な槍で、ベルゴール公爵家に代々伝わる物でした。
アルメリアさんは、豪快にそれを振り回すと、二人も一瞬笑いが止まるほどの魔力を湛えて叫びました。
「貴様ら、死ねえええええええええええええええい!!!!」
一方、その頃、アルガスさんとアルム君は、女湯の姦しさとは対照的に、何ともゆったりとお風呂という贅沢を噛み締めていました。お風呂は静かに入りたいものですね。




