064 閑話 - 通り雨
閑話です。読んでも読まなくても、本編には影響ありません。
ピオニー騎士団二番隊所属、セシリア=C=ヘルクラウド。チャームポイントはふわふわの髪に、ぱっちりした目。好きなものはピオニー騎士団団長、アルメリア=K=ベルゴール様。嫌いなものはアルメリア団長に害為すもの全般。それと男。特にイケメンとかいう女の敵。そんな私はヘルクラウド男爵家の子女だけど、アルメリア団長に憧れてこのピオニー騎士団に入団ました。
元々は三百年前に勇者様と共に魔王に立ち向かった、ベルゴール公爵家初代当主であるアリア様に憧れていたのだけど、アルメリア様は正にそのアリア様の血を色濃く受け継いでいるようなヒトで、私はすぐにアルメリア様の虜になりました。
端的に言えば、強く、優しく、美しい。それがアリア様、そしてアルメリア様なのです。とても私と歳の近い方とは思えぬ程、気品に溢れ、その所作一つ一つが完成されているので、ただ見ているだけで溜め息が漏れます。
その性格も、実に清々しく、行動力も決断力もあります。身分関係なく、言うべきことは誰が相手であろうと言い、下の者にも気を配り、決してその身分、権力をひけらかすこともありません。ピオニー騎士団は女性騎士団ですから、そのことから色々と揶揄されることの多い騎士団ですが、ただ行動と結果で示せば良いのだと、そのことに対してもどこ吹く風です。
その姿は正に凛とした一凛の花。ああ、このセシリア、アルメリア様をお慕いしております。
そんなアルメリア様ですが、どうやら昨日突如として戻ってきた第三王子、アルガストロ殿下に付いて、しばらく騎士団を留守にするというのです。まさか、いきなり現れたあの男が王子殿下だったということにも驚きましたが、アルメリア様まで連れて行ってしまうとは、いくら王子でもやって良い事と悪いことがあります。これは抗議せねばならない事案ではなかろうか。しかも王子と一緒に居たあのちょっと悪そうなイケメン。ああ、アルメリア様、私の胸は今不安でいっぱいです。やはり一度、釘を刺しておくべきではなかろうか!
「ぐぬぬぅ」
「セシリア、何を唸っている」
「何をも何もないでしょう!団長がアルガストロ殿下に連れて行かれちゃうんですよ!?しかも!あそこにはチョイ悪系イケメンがいたんですよ!?」
「チョイ……、何を言っているんだお前は。お前が団長を敬愛しているのは知っているが、少し落ち着いたらどうだ?全く、一体何の心配をしているんだ」
セシリアさんを諭そうとしているのはカナリア副団長です。彼女はセシリアさんが所属する二番隊の隊長、通称足軽遊撃隊の隊長でもあります。斥候や遊撃、動きの軽さを重視した任務を得意としています。まぁ余談ですが。
「これが落ち着いていられますか!勿論、旅の危険性も知っていますし、その点についても心配です!しかし、でも!団長ったら、あのチョイ悪の方を度々見ているんです!口では得体の知れないとか言ってましたけど、内心気になってしょうがなかったのではないかとか、どうしてくれるんですか!?団長の中の乙女があのチョイ悪に!チョイ悪にぃぃぃ!!」
「何を言っているのかは良く分からんが、団長がフィズィ=ウォーカー殿に懸想しているではないのかと、そう言っているのか?」
全く呆れた奴だ。とカナリアさん。
「確かに気にはなるだろうが、それはそういった物ではないと思うぞ。フィズィ殿は、団長の率いた部隊が手古摺っていた魔物を一人で倒してしまったという程の実力を持っているらしい。しかも殿下の信頼も厚い方だ。気にならないということは無いだろう。私だって気になる」
「本当にそれだけでしょうか?!それに!逆に!あのチョイ悪が団長に邪な気持ちを抱いてたりしたら、危険じゃないですか!?」
「いや、それは知らないが、まぁ、団長ならば大丈夫じゃないか?団長だって、家柄や血筋だけで団長になった訳じゃない。魔槍だってある。それにあの団長が雰囲気に流されるなんてところは想像できないが?」
「団長のように真面目な人程、チョイ悪な男に弱いんです!コロっと騙されて、気付いたらその男と褥を共にしてしまったなどという事故が起きたりするんです!団長の貞操の危険が危ないんです!破廉恥!!」
「いや、お前、本当に何を言ってるんだ!お前の頭が破廉恥だ!いくら何でもそれは団長に失礼だろう!?」
カナリアさんは何を想像したのか、若干顔を赤くしています。そんなとき、二人が歩いていた廊下の先から、フィズィさんとアルム君が歩いてきました。ばったり鉢合わせです。
「噂をすれば、何とやらですね」
ふふふ、と不気味に笑うセシリアさん。その目はフィズィさんをがっつり捉えています。流石にそんな熱烈な視線を投げ掛けられてはフィズィも当然気付きます。
「あん?何か用か?」
「ええ、ちょっと貴方にお話があります」
「おい、セシリア、よしておけ」
「今は作戦行動中ではありません。私の行動は私が決めます」
怪訝な顔をするフィズィさんに、何を考えているか分からないアルム君。止めるカナリアさんを振り切って、そんな二人にツカツカ詰め寄るセシリアさん。その目はつり上がっています。
「貴方達。昨夜は街の防衛に尽力いただき、私も国を守る騎士団に所属する一人の騎士として、そしてこの国の貴族の一人として、改めてお礼を言わせていただきます」
「……表情と言葉の内容に著しい乖離があるなァ」
「僕は好きですよ?目は口程に物を言うって奴ですね」
「好き!?貴方、何て破廉恥な!知り合って間もない女子に対し、何たる不遜な物言いですか!無害そうな少年かと思えば、貴方も要注意人物じゃないですか!?やっぱり私は認めません!」
顔を真っ赤にして憤慨するセシリアさんに、どうしたものかと困り顔のカナリアさん。
「済まない、少し思い込みが激しいんだ」
「いえ、見ていて愉快な方ですね。それで、僕たちに何かご用ですか?」
「いや、なに。アルメリアがお前たちに取られてしまうと拗ねているんだ」
「拗ねてるとは何ですか!私は団長の身を案じているんです!ちょっとそこのチョイ悪な方!単刀直入に訊きますが、貴方、団長の事をどう思ってますか!?」
「チョイ悪って、俺か?」
「僕ではないと思うのですが?」
急に水を向けられ、戸惑い勝ちのフィズィさんですが、根は真面目なのです。どうと訊かれれば、それは一応考えるのですが、別にまだそこまでアルメリアさんのことを知っているわけではありません。
「別に、どうもこうもねぇが。俺はテメェ等の団長のことなんざ、ほとんど知らねぇ」
と、至極当然なことを答えたのですが。
「それは、これから知っていき徐々に仲を深めたいってことですか!?」
とセシリアさん。もう「ひぃぃぃッ!」と叫びださんばかりの表情です。一瞬何を言っているんだコイツ、的な顔になったフィズィさんですが、成程そういう類のモノかと得心すると、面白そうに口の端を、ソレこそちょっと悪そうに歪めました。
「あ?ああ、まぁ何か知らねぇが、ヒヒ。まぁ、ソレも悪くはねェか?」
「やっぱり!やっぱり!副団長!やっぱり!」
「……フィズィ殿、あまり此奴を揶揄わないで頂きたいのだが」
「揶揄ってなんかねェさ。何、団長サマとはこれから旅の空を共にするんだ。お互い、親睦を深めるのは悪いことじゃねェだろう」
フィズィさんは自分の唇に触れながら、親睦という言葉に僅かばかりの含みを持たせました。その淫靡な雰囲気にセシリアさんはもう堪らんとばかりに叫び、走り去って行きました。
「イヤーッ!この変態!汚らわしい!だから男など嫌いなんです!うわーん馬鹿アンタなんか爆撃鳥の糞に当たれば良いのよぉッ!!」
半眼のカナリアさんに、「ヒャヒャヒャ」と嗤うフィズィさん。
「フィズィ殿……」
「ハッ、俺にとってはどうでも良い事だがな。勘違いした罰って奴さ」
「勘違い?」
「ああ、そうさ。まぁそれは良い。面白いからそのままにしとく。じゃあ、俺は行くからな」
「では、僕も失礼しましょうか」
そう言ってフィズィさんとアルム君の二人はスタスタ歩き去りました。残されたカナリアさんも、なんだか通り雨にでも降られた気分でその場を去りました。
その後、アルガスさん経由でフィズィさんが女と知ったセシリアさんが、禁断の恋を夢想して何やら色んな意味で興奮していたらしいですが、その妄想を散々聞かされていたカナリアさんは、心底うんざりした顔だったそうです。




