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吸血蝙蝠ニコさんのダンジョン攻略記(仮)  作者: こぺっと
第三章 ニコさんと神々の遊び
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062 雨夜に踊るペルソナ

 ノビリスの西口。貴族街の館の一室。豪奢な調度品に立派な執務机。赤に、金の蔓をあしらったカーペット。それに館の主であろう、頭髪をつるりと剃った男。でっぷりとした腹は日頃の不摂生を物語っており、それを豪奢な衣装で包んだ様は貫禄があるのか滑稽なのか迷うところです。

 そんな典型的な悪役貴族っぽい男の顔は、今や恐怖に染まり、彼の目の前にいる男に向かって唾を飛ばして悲鳴にも似た抗議を叫んでいました。


「は、話が違うじゃないか!」

「話?ああ、貴様らは救ってやるという話か」


 淡々とした口調のその男は、黒い外套を身に纏い、右手には鮮血滴る長剣を握っています。特徴的なのは、両手の指に嵌められた六つの指輪。それと顔の上半分を隠す金のマスクです。マスクの上から更にフードまで被っているため、男の顔はまるでわかりません。


「何も違わない。喜べ、貴様の魂は救われる」

「待て!待ってくれ!」


 あまりの恐怖に情けなくも尻餅をついた太った男。仮面の男がツカツカと詰め寄れば、その分だけ惨めな悲鳴を上げて後ずさります。

 そしてとうとう壁際まで追い詰められると、顔をぐちゃぐちゃにしながら叫びました。


「止めろ!止めてくれ!何でもする!何でもするぞ!?はは、私は本当に何でもする!そうだ、この街のヒト族共を魔王様に献上してもいい!」

「……本当に度し難い男だな、貴様は。安心しろ、仲良しだったカストロ伯爵もあの世で待っている。きっと寂しがっているだろう。早く行ってやると良い」

「なっ!?まっ!!」


 瞬間、その恐怖と狂気に歪んだ顔がゴトリと真っ赤なカーペットの上に落ちました。いつの間にか仮面の男がその長剣を振り抜いていたのです。


「全く、全く実に愚か。私が一番嫌うのは貴様のような、信念も持たずにただ勝ち馬に乗り甘い蜜を吸いたがるグズだというのにッ!」


 そう憤った男の声には、マスク越しでもありありと分かるほどに怒気を孕んでいました。しかし、直ぐに頭を振ると、長剣から血を払い、腰の鞘に納めました。


「……せめてもの情けだ」


 そして、この館の主であったモノに手を翳しました。輝いたのは赤の指輪です。仮面の男が何事か呟くと、その躯に、床に、壁に、明々とした焔が生まれ、ゆっくりと嘗めるようにそれらを燃やしていきました。


「去らばだ、我が臣民よ」


 仮面の男はマントを翻し、そう呟くと部屋を後にしたのでした。





「せやぁ!」

「ギャアアアアアアア!!」

「よし、中は終わったな」


 さて、仮面の男はさておき、アルガスさんとアルメリアさんは丁度オルニスヘッドとの室内戦を終えたところでした。あれだけ緊迫した様子でしたが、実際には地上に降りたオルニスヘッドなど、わざわざアドバンテージを捨てたようなモノです。大して手間も掛からず二人に切り捨てられていました。室内には既に二体の死体が転がっており、つい先ほど三つ目が追加されました。

 二人が外に出ると、何やら上空の様子が先程と変わっていました。確かにアルガスさんが大幅にオルニスヘッドを減らしたというのはありますが、西区の空には一匹もオルニスヘッドがいなかったのです。どこかへ移動したのかと周りの空を見渡してみても、特に見当たらず、全滅したか撤退したか、もしくは見えないところにいるのか。少なくとも今わかるのは、西区の空はしとしと雨が降るばかりで、平穏そのものだということです。


「殿下」

「ああ、アイツらがいなくなったなら地上の敵を掃討しよう。いったん戻った方がいいか」


 しかしそう言った矢先、貴族街にある屋敷の二階の窓が割れ、炎が噴き出しました。そして、その屋敷の扉が開かれると、中から出てきたのは金の仮面で顔の上半分を隠した男でした。


「アレは……、誰だ?」

「あそこの屋敷はベルガダ侯爵の屋敷だったはずですが、彼では無さそうですね」

「ベルガダ、ああ。あのデブのおっさんか。だとすると火事場泥棒、……って雰囲気でもないか」

「そうですね、顔を隠しています。恐らくは敵かと」


 二人がそんな会話をしている間にも、仮面の男は燃える屋敷を背に二人の方へ歩いて来ます。二人に気付くと口元を僅かに歪め、腰に佩いた長剣に手をかけ、やや足早になりました。


「確かに、友好的な雰囲気じゃないな……」

「しかし、敵だとすると、魔族でしょうか?」

「分からん。しかし、いずれにしろ、とっ捕まえれば何らかの情報を引き出せるかもしれん。来るぞ!」


 迫ってくる謎の男に対し、アルガスさんもバスタードを、アルメリアさんもランスと盾を構えます。しかし、ニ対一でもお構いなしとばかりに、駆け迫ってくる仮面の男。既に剣は腰から抜かれ、刀身は炎の明りに照らされています。口元は喜悦に歪んでいました。仮面越しの瞳はアルガスさんを見据えています。そして―――。


「アルガストロォ!」

「させません!」


 仮面の男はそう叫ぶと、長剣を振りかぶり、ダンッ!と一歩踏み込みます。それを見たアルメリアさんは、咄嗟に前へ出ました。甲高く硬質な音が夜闇に響きます。


「貴様!ベルゴール公爵家の娘か!邪魔立てをするなあああ!」

「くぅぅッ!?」


 仮面の男の指輪が光ると、ヒト並外れた膂力でアルメリアさんを弾き飛ばしました。しかし、その瞬間をアルガスさんは逃しません。アルメリアさんの影からするりと抜け出ると、鋭い呼気を発して横凪ぎに一閃。

 再びガキンッ!と衝突音。アルガスさんの一撃は鋭いモノでしたが、まるでそれを見越していたかのように体を一回転させ、仮面の男はその一撃を受け止めた。いえ、弾き飛ばしたのです。アルガスさんも鬼人の異名を取る男。易々と押し負けたことに驚愕を隠せません。


「クッ!?」

「ハハッ!どうした、その程度だったか?!アルガストロォ!!」

「何を!」

「そこォ!!」

「温いぞ!―――トイコス!」


 アルガスさんが後方へと押し出されると、今度はアルメリアさんがランスで追い打ちを掛けますが、仮面の男は魔術で土壁を作り、これを抑え―――。


「シャアア!」


 土壁を刺突で、その先にいるアルメリアさんを狙いました。しかし、それも既に引いていたアルメリアさんには届きません。

 そうして激しい攻防が繰り広げられました。アルガスさんとアルメリアさんは息の合ったコンビネーションを見せ、即興とは思えない攻守の入れ替わりですが、しかしそれを長剣と魔術でもって全て対応せしめる仮面の男もやはり尋常ではありません。これが演武であったなら、きっと拍手喝采の大盛況だったでしょう。

 しかし、その拮抗は突如として破られました。


「アールガースッ!!」


 上空から響くその声は、どこかで聞いたことのある、アルガスさんにとってはここ最近でとても馴染みの深くなった声でした。


「ッチィ!増援か!?」

「魔族!?」


 雨夜を切り裂くように上空から急降下してきたのは。蝙蝠のような羽を広げ、三人の間に勢いよく降り立ったのは、夜闇であっても輝くような赤い髪の女性。不敵な笑顔を見せるその女性にアルガスさんは思わず叫びます。


「嬢ちゃん!!」

「なんだか久しぶりね、アルガス。で、このロボットアニメのライバルみたい奴は敵で良いのかしら?」


 開口一番ふざけた発言。そう、ニコさんでした。

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