表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血蝙蝠ニコさんのダンジョン攻略記(仮)  作者: こぺっと
第三章 ニコさんと神々の遊び
61/100

061 オルニスヘッド

 フィズィさんが大猿と戯れている間に、アルガスさんとアルメリア含む女性騎士の皆さんは街の中へと撤退していました。


「殿下!よくぞご無事でありました!」


 北区のメインストリート。幅の広い石畳の路地を挟むように商店立ち並ぶそこは、平時の日中であればきっと喧騒溢れる賑やかな通りなのでしょう。

 途中現れる魔物を蹴散らし下がり、ようやくそこまで辿り着くとアルメリアさんがアルガスさんに膝を付き、他の騎士の皆さんもそれに習いました。


「だああ、今はいい!そんなことしなくていい!」


 アルガスさんはアルメリアさんの言葉に息を切らせながらも頭を抱えて叫びました。

 未だ街はそこかしこから煙を上げ、辺りを魔物が徘徊しているのです。こんなことをしている場合ではないというアルガスさんの叫びも分かるというモノです。

 しかし、アルメリアさんもただ跪いたわけではありません。


「いいえ、この様な緊急時だからこそです!現時刻をもって、ここノビリスの対魔物防衛作戦の指揮権をわたくし、アルメリア=K=ベルゴールからアルガストロ第三王子殿下へと委譲致します!どうぞ、ご命令を!」

「ふっざけんな!俺たちは今さっきノビリスに着いたばかりだ!状況なんぞ知らん!」


 ひとしきり悪態をつきましたが、そこは真面目なアルガスさんです。しかも、最近発覚しましたがどうやら王子様のようです。それなりに責任感もあるのでしょう。誤魔化すように頭をガシガシとやると、どうにか心を落ち着けて冷静になるよう努めました。


「……とにかく市民の誘導は終わってるのか?」

「はい、概ね。元より、つい昨日首都陥落の報があってより、早急に避難準備の計画は市民に伝えていましたので。反発する者も多くいましたが、実際に攻められては逃げるしかありません。ただ……」

「ただ、なんだ」

「アルガストロ殿下もご存じと思いますが、ここノビリスの西区画には貴族街があります。ピオニー騎士団の半数以上をそちらの入口に控えさせておりますが、貴族たちの半数以上が街を出たがらないのです。というよりも、問題ないと言って憚らないのです」

「……問題ない、ねぇ」


 そこでアルガスさんの頭に過ったのは、ナルガ村で出会った商人でした。

 もう随分と昔のように感じますが、実はそうでもありません。アルガスさんの頭には、彼の食えない笑顔まではっきりと浮かんでいました。


「魔族を迎合する貴族、か」


 アルガスさんは舌打ち一つ、思考を巡らせました。


「よし、そこに集めた騎士の半数を街の火消しに回せ。逃げたくない奴は逃げなくていい。むしろ、問題ないとか言ってる馬鹿は拘束したいくらいだが、裏が取れねぇもんなぁ。そもそも今の状況で国の司法が機能するかどうか……」


 後半はブツブツゴニョゴニョ独り言のように消えてしまいましたが、とにかくアルガスさんは一刻も早くこのノビリスの状況を落ち着けたいという気持ちでいっぱいです。

 黒に近いグレーの貴族のことはこの際放置してでも、事態の収束を急いだ方が賢明と判断しました。


「宜しいのですか?」

「どうせ、自前の自警団でもいるだろうし、まぁそこまで問題はねぇだろうよ。貴族ってのは市民のためにある。貴族よりも市民、それと市民が営みを続けられる街を守るのが優先だ」


 いずれにしても魔王がこの国を乗っ取ったのならばノビリスが堕ちるのも時間の問題かもしれませんが、状況が分からない今放棄するのも得策とも言えません。


「とにかく、俺も火消しに回る!お前らも適宜、街に入った魔物を叩け!指揮権はアルメリア、お前に戻す!騎士団の指揮など取ったことがない!それと俺は今、アルガストロ殿下じゃなくてただのアルガスだ!覚えとけ!」

「ハッ!ご命令、賜りました!皆、聞いたか!これより今後の作戦を通達する!一度しか言わない!頭によく叩き込め!」


 「でなきゃ、何のために俺はッ!」と独り言ち、ギリッと歯を噛むアルガスさん。

 元気に緊急ブリーフィングを始めたピオニー騎士団の皆さんを見て、ここはもういいと判断してアルガスさんは走り出しました。

 睨む先は空です。


「とにかく、これ以上街を燃やされる前にあの飛んでるヤツをどうにかするかッ!」


 走りながら無意識に右手が触れたのはバスタードではなく、ニコさんの銃でした。


「……コイツで堕とせるか?」


 黒翼竜(ブラックワイバーン)にすら通用する代物です。その辺で「ギャーギャー」と喚きながら飛んでいる魔物程度、掠っただけでもその肉体の半分を蒸発させられるでしょう。

 しかし、正直当てられるかどうかと言われれば難しいと言わざるを得ません。初めて鳥を撃ち落とした時はフィズィさんのサポート付きのまぐれ。黒翼竜の時は、的がデカかったのと、直線的に的が向かってきたことが大きく、果たしてその辺を縦横無尽に飛び回っている的を的確に射貫けるかと言えば、アルガスさんも自信がありません。

 しかし、あまり悠長な事を言っていられる状況でもありません。アルガスさんは火のついていない適当な民家の屋根に飛び乗ると、そのまま屋根を伝って走ります。

 屋根から屋根へと飛び移るその姿は、まるで忍者かパルクール。身体強化を使っているアルガスさんも十分超人の域ですね。雨の中、よくもまぁやろうと思ったものです。すべって落ちなければいいですが。


 闇に溶けそうな紫の体で夜空を飛ぶ魔物。それは現在西区画の上空を集団で飛行していました。既に西区画でも火の手が上がっており、とても問題ないと言える状況でないのは明らかです。


「おいおい、何が問題ないだ!普通に空襲されてんじゃねぇか!」

「そのようですね」

「どおおおおおおお!?」


 後ろからいきなり声を掛けられ危うく屋根の上から落ちそうになったアルガスさん。その手を「大丈夫ですか?」掴んだのはアルメリアさんでした。

 とても大の男を支えられるようには見えない細腕ですが、アルメリアさんは難なく片腕でアルガスさんを引き上げると、夕日のような瞳でアルガスさんを正視しました。


「アルメリア、お前何で!?」

「まさか、殿下お一人戦場をうろつかせる訳には参りません。指揮権は委譲して参りました」


 さも当然といった様子ですが、重そうな鎧を身に付けて、あまつさえ大きな盾とランスを背にアルガスさんを追ってきたのです。一体どんな身体能力なのでしょう。


「しかし、あの飛んでいる魔物。恐らくはオルニスヘッドの類かと思われますが、武器を持って街を襲うなど。全く面倒極まりない」


 アルメリアさんは兜の下で憎々しげに端正な顔を歪めると、「ギャーギャー」とうるさい魔物に目を向けました。

 空を飛べるというのは戦場ではかなりのアドバンテージとなります。空の飛べない種族では、地上から矢を射かけるか、魔術を使うか、というのが対空戦のセオリーです。空を飛べるヒト種というのは、相当に熟練した魔術師か、魔法使い。それに元々翼を持つ翼人や鳥人くらいです。

 現在ノビリスに滞在しているピオニー騎士団やその他戦闘員にはその類がいないのか、制空権は完全に魔物側にあると言っていいでしょう。


「とにかく、アイツらをどうにかするぞ!」


 アルガスさんが銃を構え、的が固まっている場所目掛けて引き金を引くと、一拍おいて白銀の閃光がしとしとと降る雨を蒸発させながら夜闇を切り裂いていきました。

 そしてその光の矢は一体の魔物に見事直撃。白炎を上げビリビリと轟音を響かせて爆発し、直撃を受けた魔物は悲鳴を上げる間もなく一瞬で蒸発しました。

 その威力は圧巻で、直撃を逃れたモノでも近くを飛んでいたモノには体の一部しか残らず焼け落ちたモノもいます。

 アルガスさんは射撃のセンスがあるようですね。


「……殿下、何ですかそれは」

「知人から貰ったもんだ。仕組みは知らん、銃ってモンらしいが」


 そんな暴力的な光景を見れば当然の疑問でしょう。ましてや銃のような武器などヒト種の文明には未だ存在しません。アルメリアさんが呆けるのも無理からぬことです。


「しかし、意外に当たるモンだな。この威力、街中じゃあ使えねぇが、空中の奴らなら遠慮はいらんか」


 先の一撃でこちらに気付いた魔物がわらわらと向かってくるのをいいことに、アルガスさんは一発、二発と立て続けに引き金を引き、魔物を殲滅していきました。

 アルメリアさんはあまりの轟音に、音が鳴りやむまで耳を塞いでいました。


「チッ!仕留めきれんか!アルメリア、来るぞ!!」


 調子良く敵を屠っていたアルガスさんでしたが、あまりに近づいてきた敵にはこの銃は使えません。何と言っても巻き込まれますから。


「ギャギャギャ!!」

「ッ!!」


 銃をしまい、バスタードを抜くと粗末な武器を持って襲い来る敵の攻撃をその剣で受け止めます。勿論セーフティは忘れません。危ないですから。

 襲い来る敵は五体。数の上で不利、しかも相手は上空という厄介な場所にいます。


「ギャギャ!」

「ギャギャギャギャ!」

「クッ!鬱陶しい奴らだ!」


 甲高い金属の激突音を響かせながらアルガスさんは剣を振るいます。

 アルメリアさんもランスと盾を手に応戦しますが、小賢しいヒットアンドアウェイの戦法を取る敵になかなか決定打を与えられずにいました。

 むしろ次から次に雨霰と頭上から降ってくる攻撃は、一瞬でも気を抜けば致命の一撃となりかねません。

 しかも足場の悪い屋根の上、上を向けば雨が目に入り、実に不利不愉快な環境です。


「アルメリア!いったん引くぞ!」

「了解!」


 二人は攻防の一瞬の隙をつき、一気に屋根から飛び降りると、窓を破って一軒の民家の中へと侵入しました。

 民家の中は荒らされ、そこかしこに物が散乱していました。それは花瓶であったり、食器であったり、様々です。恐らくは逃げる際に慌てて必要なモノを持ち出していったのか。はたまた魔物に荒らされたか。もしくは火事場泥棒か。

 詳細は分かりませんが、その散々たる光景にアルガスさんの胸はズキリと痛みます。


「……なんだってこんなッ!」

「殿下、感傷に浸ってる場合ではありません!来ます!」


 アルメリアさんが言い終わるか否か、二人が侵入した窓から魔物、オルニスヘッドも侵入します。その数三。残りの二体はどうやら追って来ないようです。

 流石に部屋の中では飛ばず、べったりと四つん這いで這い寄る魔物。顔は鋭利な印象で、ギョロっとした目に大きな嘴。手足の指は三本で、足の爪は鉤のように曲がっています。翼は蝙蝠のようで、ニコさんが見たらとっても嫌がりそうです。

 闇の中に蠢くソレらは、真っ暗な部屋に「ギャギャギャ」と嗤い声ともつかぬ声を響かせると二本足で立ち上がり、姿勢も低くのそりのそりと二人に近づきます。


「俺が左の二体をやる。お前は右を」

「……了解」


 怪しく光る目は血走り、嘴から粘着質な涎を垂らして近づいてくるというその異様に、アルガスさんはバスタードを、アルメリアさんはランスと盾を握りなおします。

 そして微かに湧いた怖気を払うかのように二人は雄叫びを上げて、合図として床に強く踏み込みました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ