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吸血蝙蝠ニコさんのダンジョン攻略記(仮)  作者: こぺっと
第三章 ニコさんと神々の遊び
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053 ニコさん、渚に堕つ

 茜色差す秋の夕暮。波の音広がる浜辺で投げ釣りをしている少年と、それを眺める少女がいました。二人とも蜂蜜色の金髪にベリドットのような緑の瞳です。

 活発そうな眼つきの少年に対し、優しげな眼差しの少女と対照的な雰囲気を纏った二人ですが、どこか顔立ちが似ているように感じます。

 恐らく二人は兄妹なのでしょう。少年はまだ十台前半、ローティーンといったところで、少女の方はようやく十になったかどうかという見た目です。

 釣り糸を垂らしている間、二人の間に特に会話はありませんでしたが、なんだか楽しげな表情です。

 きっと日頃から仲も良いのでしょう。


 暫くすると魚が掛かったようで、少年が竿を引くとグンとした手応えが返ってきました。


「掛かった!」

「頑張ってねお兄ちゃん!あと一匹だよ!」

「任せとけ!クッ、重いな。少し大きいかも!」


 少年は竿を左右に振りながら、竿に付いた簡単なリールでクルクルと糸を巻きます。

 暫く格闘していると、糸の先には黒い魚影が僅かに見はじめました。

 そうしている間に、一方空では一つの異変が起きていました。海側の空はすでに薄暗くなってきていましたが、よく目を凝らせばそこに僅かに黒い点が浮かんでいるのです。


「この!いい加減釣られろ!」

「頑張って!」


 釣りに熱中している二人はその事に気づきませんでしたが、徐々に近づいてくる黒点はみるみるウチに大きくなり、やがてその全容を現したのです。


「おおっしゃああああああ!!……ってうおおおおおお!?」

「きゃああああああああああ!」


 そして少年が魚を釣り上げたと同時に空から降ってきた影は少年のすぐ横、三メートルほどの所に墜落しました。

 それは砂浜に突っ込み二つに分かれて数メートル転がるとようやく停止しました。

 よく見ればその落下物は見るからにヒト型です。そんなものが、空から降ってくるなどのっぴきならない状況だということは子供でも分かります。


「きゃあああああああああああああああ!!」


 再度上がる少女の悲鳴。少年の顔も青褪めており、折角釣り上げた魚は砂の上でピチピチ跳ねています。


「し、死んで…」


 少年がなにやら言いかけると落下物のうちの片方がピクリと動きました。


「ひいいいいいいいいいい!!」


 死体(仮)がいきなり動いたものですから少年も悲鳴を上げて後ずさります。少女はもう半泣きといった様子で目に涙を浮かべると、情けなく「お、お兄ちゃあん」と縋り付いています。

 とても可愛らしいですが、ちょっと可哀想ですね。


 そして死体(仮)はどうやら生きていたようで、よろよろと起き上がりました。

 それはツバの広いオレンジ色の魔女帽子、オレンジ色のポンチョ。その下には黒を基調としたオシャレなローブを着こみ、更にオレンジのブーツを履いたとってもオレンジな少年でした。

 何だかハロウィンを彷彿とさせるカラーリングに仕上がっています。


 全身砂まみれでなければ美しいといっても良い端正な顔立ちに、夕日を黄金色に反射するサラリとした銀髪。物語に出てくる王子様のような見た目。こんな出会い方でなければ幼い少女はすぐに恋に落ちたかもしれません。

 そんな銀髪の少年はパンパンと全身に着いた砂を払うと、何の感情も浮かばない無表情で言いました。


「いやはや、着地に失敗してしまいました。流石に疲れますよね」

「いや、失敗ってレベルじゃねぇだろ!なんで生きてんだよ!?」


 胸を反らし愉快げに「ハッハ」と笑う銀髪の少年。それに対し、釣り少年は思わずつっこんでしまいました。

 すると銀髪の少年は今気付いたというように金の瞳を釣り少年へ向けました。


「おや、これはこれは。釣れますか?」

「ぼちぼちです…。じゃねぇよ!なんだよお前!いきなり空から降ってきやがって!」


 釣り少年はこの銀髪の少年を完全に警戒しているようで、妹の少女を背に隠すと鋭い目つきで睨みました。まるでフゥーッ!と威嚇する声が聞こえるかのようです。しかし、ノリツッコミまでこなしてしまうあたり、真面目な性格なのでしょうか。

 対して銀髪の少年は「なんなんだ、と言われましても」と肩を竦めて笑っています。


「セナ、なんかもうこいつヤバイからとにかく父さん呼んで来てくれ」

「お兄ちゃんは!?」

「俺はこいつを見張ってる」

「そんなの駄目だよ!危ないから一緒に逃げようよ!」

「いいから早くいけ!」


 でも、だけど、と縋る妹に早く逃げろと兄。美しい兄妹愛です。

 そんな様子を見かね、銀髪の少年は少女に言いました。


「いや、是非呼んできてください。僕ももう、限界のようでして」


 実は銀髪の少年、態度や表情に出さずともその言葉通り限界だったようで、そのままふらりと体が傾いたと思ったら、そのまま砂浜にバタリと倒れてしまいました。


「……そちらに転がっている女性も、お願いしますね。ぱたり」


 そしてまるで遺言のようにそう言ったっきり、ピクリとも動かなくなりました。


「おい!お前!!」


 釣り少年も反射的に駆け寄りましたが、完全に気を失っているようで何の反応も示しません。

 とりあえず呼吸はあるようだったので何となく一安心したのか、ふぅっと息を吐きました。


 最後に銀髪の少年がそちらに転がっている女性、と指さしたのは一緒に落ちてきたもう一つの落下物である女性でした。

 一心地着いた少年がようやくそちらに目を向ければ、今度は途端に顔が真っ赤になりました。なにせその女性、完全無欠に裸体を晒していたのですから。


「~~~ッ!」


 海水を吸ってべったりと顔に張り付いた髪は赤く、組合のモノであろう首のドッグタグ意外は一切何も身に纏っていません。真っ白い肌は砂にまみれて逆に背徳的な気がしなくもないです。

 うつ伏せ気味に倒れていたので色々と見えているわけではありませんでしたが、そのあられもない姿はこの少年には少し刺激が強かったかもしれません。

 なにせ思春期に入るかどうかといった年頃でしょうから。


 しかし何と言っても特徴的な背中から生えるの赤い羽が目につくと、今度は再び顔を青くしたのです。赤くなったり青くなったり大忙しな顔色です。

 まるで蝙蝠のようなその羽は、明らかにヒトのモノではありません。


「ふざけんな!魔族じゃねぇかああ!」

「うああああん!!お父さあああああああん!!」


 結局兄妹は何度目かの叫び声をあげると、妹のセナちゃんは急いで海とは反対側に走り去っていき、兄の少年はその場で頭を抱えたのでした。


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