051 一撃必殺アルガスさん
少し文章っぽく書き方を変えてみました。
真っ黒になって落ちていくニコ。
「あ……」
初めて聞くフィズィの情けない声が俺の鼓膜を震わせた。次いで俺の喉から衝動的に迸った叫びが船上に響いた。
黒い翼竜、ワイバーンが放った熱線にニコが撃墜され、海に落ちたのだ。
一瞬ではあったが炭の様に真っ黒になった彼女が見えた。普通の人間だったら確実に死んでいるであろう外見に俺の心臓が早鐘を打ち始めた。まるで冷水をぶっかけられたように冷えきった頭はそれだけで頭痛がしてくるようだ。
落ちていくニコを追うオレンジ色の魔法使いも見えた。彼は先日ブリッサの飯屋で歌ってた少年で、名前は確かアルム=カサバ。稀代の道化師だとか何とか。飛行魔術をああも巧みに扱うとは、かなりの術者なのだろう。一体何者なのだろうか。
俺の思考は一瞬その良く分からないオレンジ色の少年へと向いてしまったが、目の前で固まっているフィズィを見てこのままじゃマズイと何とか頭を切り替えた。ニコも気になるが、あのワイバーンをどうにかしないとニコを助けるどころかこちらも危ない。現実逃避などしていたらすぐに死んでしまう。
「フィズィ!嬢ちゃんなら大丈夫だ!始祖なんだろう!?」
俺は自分自身に信じ込ませるようにそう叫んだが、固まったまま反応しないフィズィ。茫然とした表情とカタカタと震える半開きのままの唇。フィズィの事だから撃墜されたニコを嗤うかとも思ったが、意外にも相当ショックを受けているらしい。不謹慎な事だが、今はいつものように嗤いながら「チッ!使えねぇ蝙蝠だ!俺が蹴散らしてやるよ!」とか言ってくれた方が助かるのだが、そうも言っていられない。
俺はフィズィを戦力にカウントするのを止めるとワイバーンに向けてニコから貰った銃を構えた。
「畜生!黒蜥蜴が!落ちろおおおおおおお!!」
叫びながら三度銃の引き金を引いた。三条に伸びた白銀の閃光が高速で迫るワイバーンへと殺到し、そのうちの一発が右の翼に直撃、爆砕した。危うく船へと激突するところだったが、爆発により起動が逸れて豪快な水しぶきを上げ海へと落ちたワイバーン。
周りの魔術師たちの攻撃は魔法障壁でほとんど意味を為さない中、この銃だけはちゃんと通ったのだ。
「おい兄ちゃん!やるじゃねぇか!なんだその玩具みてぇのは、魔道具か!?」
「……あ、ああ」
俺は興奮して話しかけてきた男に息も荒く答えたが、すぐにワイバーンの落ちた船の右側後方へと甲板を駆けた。
喜んでいる場合じゃない。アレは腐っても竜だ。この銃の威力は凄まじいが、直撃でもない一撃で仕留められる程甘くはないだろう。
既に魔術師や他の戦闘員が集まっている中、俺は人をかき分け落下防止策まで躍り出た。すると「GYAHHHHHHHH!!」と耳障りな咆哮を上げながら水面へと浮上した真っ黒いワイバーン。
全長三メートルほどの体長は竜の中ではかなり小さい方だが、その黒い竜鱗は魔術にも物理にも耐性のある厄介なものだ。爛々と輝く紅い瞳は集まった人々を憎々しげに睥睨している。
俺が穿った翼は被膜の一部を引き裂いたようだが、結局はそれだけであり飛行能力は未だ健在。それもそのはず、竜は元々翼でバランスを取ったりするだけで、実質魔術で飛んでいる。
その証拠に若干バランスを取りにくそうにしていたが、すぐにバランスを修正するとものすごい勢いで船へと迫ってきた。
「お前ら!とにかく撃ちまくれ!」
「「「おうよ!!」」」
周りの魔術師たちはすぐに火やら氷やら雷やらと魔術をワイバーンへ乱発した。俺も銃の引き金を引いて応戦したが、先程の一撃でニコの銃を脅威と見做したのか、小賢しいことに俺の攻撃だけは確実に見定めて回避している。見てから避けられるようなもんじゃないと思うのだか、驚異的な反応だ。
少し近づいては熱線を吐いて離脱するというワイバーンのヒットアンドアウェイの戦法は、こちらの魔術師の障壁で何とか耐えることが出来ていた。しかし、こちらの攻撃もろくに通らないと来れば、いずれにしろこのままでは埒が明かない。
暫くの膠着状態の後、ワイバーンもそれを察してか、一度かなりの距離を取ると不意にこちらへと急接近を始めた。そのスピードはすさまじく、空を裂く音が聞こえてくるようだ。
「ッ!ふざけやがって!―――集魔練気、至鬼邪滅ッ!!」
俺は魔力を取り込み内気へと昇華させる技法を使い、銃をしまってバスタードを抜いた。こちらへと飛来しながらも大口を開けて熱線の準備を始めたワイバーンに向けて大上段に剣を構える。そして更に内気を練りこみ剣へと伝えた。
「こぉぉぉぉぉ…。―――魔鬼、両断ッ!!ッらあああああああああ!!!」
あわや砲撃が放たれる寸前、剣の間合いを超えた俺の間合いに入ったワイバーン。俺は床を踏み抜く勢いで踏み込み一気に剣を振り下ろした。
「奥義、斬鬼一閃。…俺の勝ちだな」
その一撃はどんな物でも一刀の下に断てるという自負があるが、如何せん相手を選ぶ。更に外したらこちらの負けがほぼ決まってしまうような博打技だ。縦真っ二つになった翼竜は俺の左右を通り抜け、甲板につっこみ大穴を開けながらも絶命した。まぁ即死だろう。
俺も剣を杖代わりに片膝をついて肩で息しているあたり、やはりこの技は博打だと改めて悟った。
「うおおおおおおおおお!!ここの兄ちゃんがやったぞおおおおおおおおおお!!!」
「すげぇな兄ちゃん!」
「お前、もしかして鬼人アルガスか!?」
揺れる船上。完全に脅威が去ると、一瞬の沈黙の後は解放感からか周りで戦っていた連中も生の喜びを噛みしめて叫んでいる。中には俺を知っている奴もいるようだ。ってか鬼人ってなんだ鬼人って。
そんな中、俺は周りの奴の相手もそこそこにフィズィを探すために立ち上がった。どこか様子のおかしいアイツを放っておくことなどできない。
「……フィズィ」
フィズィは一人元居た場所、元居たままの姿で甲板の上に立ち尽くしていた。その姿は常からは想像できない程力なく、まるで別人のようだ。
「……なぁ、アルガス。船長室はどっちだ?」
「あ?たしかあっちだが、何しに行くつもりだ?」
フィズィは俺の問いかけは無視してズンズンと進んでいった。何かマズイ気配を感じた俺はフィズィを止めようと腕を伸ばしたが、その手はあっさりと払いのけられた。
払い除けられた時に少しだけ見えた彼女の瞳には、怒りと涙がうかんでたいのだ。




