042 ニコさんと廃鉱の迷宮4
遅くなりました。
廃鉱の迷宮12層。
いわゆる結界のような魔術を破って先に進むと暫く通路が続きました。
三人の足音、特に酔っ払いニコさんの下駄がカランコロンと立てる音が陽気に響きます。
7層から12層に降りるまでは魔物との戦闘や寄り道もかなりあったので数時間は経過していましたが、まだ酔いが残っている様です。
外は今頃夕焼けが真っ赤に燃えている頃でしょうか。
通路の先には一枚の扉がありました。
丈夫そうな鉄の扉です。
一応鍵穴があるようなので、恐らく鍵が掛かっていることでしょう。
「RPG的にはどこかの宝箱からここの部屋の鍵を手に入れてくるところよねぇ」
「RPGは良く分からんが、外の宝箱にわざわざ魔術で隠してる扉の鍵を入れて置く必要性が無いな」
ニコさんは一旦カランコロンと扉から離れると、今度は扉に向かって走りました。
そして「そぉい!!」という掛け声とともに勢いよくジャンピングソバットを極めました。
派手な音を立てて外れた扉は完全に外れてしまい、内側に勢いよく倒れました。
「ふごおおおおおおおおおおお!?!」
「あ、兄貴ィ!?」
「テメェら何モンだ!!」
扉の先はどうやら詰所のようで、奥には更に扉がありました。
一体どこへ繋がっているのでしょうか。
そして中には三体のオークがいました。
一体は可哀想に、ニコさんが蹴破った扉の下敷きになって昏倒しています。
しかもニコさんが扉の上に乗っています。
とても可哀想な状態ですね。
他の二体は直ぐに手近な斧を手に取って戦闘態勢です。
状況適応能力が意外に高いですね。
そんな凶器を持ったオークが現れたのでニコさんも若干焦りました。
「待って、話せばわかるわ!?」
「「あぁ!?」」
ニコさんの後ろでフィズィさんは「ヒャヒャヒャ!!」と笑い転げています。
アルガスさんは既にバスタードを抜いて戦闘態勢、緊張感が違いますね。
「いきなり扉蹴破りやがって!」
「何ふざけた事抜かしてやがる!?」
ニコさんに詰め寄る二体のオーク。
ニコさんももうやけくそで、番傘をオークに突き付けました。
「私たちには共通の言語があるわ!知性ある者同士、話し合いは必要だと思うの!話して分からないならとりあえず殴るけど良い!?」
「「良いわけあるか!!」」
「じゃあ蹴るわ!」
「「同じだアホが!」」
「誰がアホよ!」
「「お前だ!!」」
実に息の合ったオーク達です。
絶妙なコンビネーションにニコさんは「クッ!!」とたじろぎました。
完全にニ対一、因みにニコさんへの後方支援はありません。
「こいつら、中々手強そうよ!?」
「いや、知らんがな」
これにはアルガスさんも若干緊張感が削がれます。
フィズィさんはツボに入ったのかお腹を抱えて笑っています。
若干気圧されているニコさんを見て好機と取ったか、オークの一体が斧を振り被ってニコさんに突撃します。
「うおおおおお!!」
しかしそこは腐っても吸血鬼、「ふぉぉぉ!?」とか叫びながらも番傘の石突でオークの鳩尾を一突きです。
そして悲鳴を上げて転がるオーク。
反対側の扉まで吹っ飛ばされて昏倒しました。
「うおおおおおおお!テメェ、よくもランバッドを!」
「うるさいわね、そいつが先に攻撃してきたんじゃない!それにさっき殴るわよ、って言ったじゃない!」
「クソ!アホの癖にッ!!」
「豚に言われたくないわよ!!」
「豚じゃねぇ、オークだ!!」
「グダグダうるさい!丸焼きにして食べるわよ!?」
ダムダムと倒れた扉を踏みつけると、下敷きになっているオークが「ブヒィ!?」と悲鳴を上げました。
「テメェ、いつまで兄貴踏んでんだ!?」
「あら、いたのね、ごめんなさい」
「もう許さねぇぞ…」
そう言うとオークが後退りながらもポケットから何か板状のモノを取り出すと、それを耳に当てて口元を歪めました。
「お前ら、覚悟しておけよ?」
「…何をしようというのかしら」
「嬢ちゃん、油断すんなよ?」
ニコさんもいつでも対応出来るようにやや前傾姿勢で番傘を構えます。
別に番傘は武器ではないんですけどね。
すると、突然オークがとても丁寧な感じで話始めました。
「…あ、もしもし?ベルモス様ですか?今ですねぇ、ちょっと詰所にアホ、いや変な奴らが来ててですねぇ。あ、はい、はい。そうです、侵入者です」
突然始まったオークの独り言に、ニコさん達は各々「へ?」だとか「あ?」だとか言いながらも一瞬キョトンとしました。
しかし、ニコさんとフィズィさんは何かに気づいたのか表情が固まります。
「ちょっと私共では手に負えないようなので来ていただけますでしょうか?え?あ、はいそうです。やられました。…あ、ありがとうございます。それでは失礼致しますぅ。はい、は~い」
「ちょっと待てぇぇぇぇ!!!!!それ、電話!?スマホなの!?」
「あぁ!?なんじゃ電話って!!コレは通信機だ!!」
オークとニコさんのやり取りを聞きながら、フィズィさんは怪訝な表情でアルガスさんに問います。
「…おい、アルガス。通信機って知ってるか?」
「いや、知らん。…もしかして、別の場所の者と会話できるのか?そんな事が出来たら…」
一人別の意味で戦慄するアルガスさん。
どうやら通信機という物はまだアルガスさんの知る限り普及していないようです。
通信機は情報伝達のタイムラグをかなり減らすどころか、場合によってはほぼゼロにすることが出来るモノですから、これがあるだけで戦闘、戦争のやり様は随分と変わるでしょう。
フィズィさんは別の意味で何か考え事をしている様ですが。
「ハッ!どうやら知らねぇみてぇだな、冥土の土産に教えてやるよ。コイツは魔王軍の最新の魔具だ、貴様ら人間どもを今度こそ根絶やしにするため開発された物なんだよ!…ハハ、貴様らのようなアホには分からんだろうがな、今はココ」
オークがとんとんと自分の頭を人差し指で叩きます。
「頭脳で戦うってもんよォ!!」
「ブヒャヒャヒャ」と笑うオークにニコさんはイラっとしました。
そう何度もアホ呼ばわりされていればそれもそうでしょう。
「だったら、今それをアンタから奪い取れば良いだけよね」
「おぉっと、そいつは出来るかな?ほら、おいでなすった!!」
オークの言葉と共に、アルガスさんの後ろの魔素の濃度が急激に上昇しました。
フィズィさんはそれにいち早く勘付くとすぐに後ろを振り向き、最後尾にいたアルガスさんも何か背筋に粟立つ物を感じて後ろに剣を振り、そのまま一歩下がりました。
「ほぅ、勘の良いものだな」
ズズズと闇がだんだん形作るように現れたそれは。
「…ダークエルフ、魔人か!?」
浅黒い紫色の肌に赤い瞳。
黒いフード付きのマントを羽織った長身の男でした。




