041 ニコさんと廃鉱の迷宮3
フィズィさんは魔法でコルクの蓋が付いた試験管を一本作ると、その中に蒼い液体を入れてしまいました。
そしてチャプチャプと軽く振って「ヒヒヒ」と笑います。
「何よ、勿体ぶらずに早く言いなさいよ」
「ハッ!お前、その目で見てみろよ」
何となく癪でしたが、ニコさんは言われた通りその液体を神の瞳で見てみました。
すると、思わず口の端が釣り上がります。
そのうちに「うふ、うふふ」と笑い始めました。
「…まさか、ヘクセの酒か?」
「そんな呼び名があるのかは知らんが」
「…あるみたいね、魔素含有量が一定数を超えたお酒!」
「まぁ、そういうモンらしいな。良く分からねぇが、ネロが「お前、大蛇じゃろ?酒好きじゃろ?面白い酒の作り方を教えてやる」とか言ってな、こいつの造り方を教えてくれたのさ」
「実物を見るのは初めてだな。製法が秘匿されててごく一部の小人族しか作れないと聞いた。一度飲んでみたいと思っていたが、まさかフィズィが造れるとはなぁ」
「ふーん!」とニコさん。
目がキラキラしているので恐らく飲みたいのでしょう。
「確かかなり高額で取引されているらしいが…」
「駄目よ!売らないわよ!?」
ニコさんは飲む気満々ですね。
顎を撫でて何かを言いかけたアルガスさんに噛みつく勢いでその先を言わせませんでした。
「因みに今造った酒は魔素濃度が濃い。この濃度だと人間が飲んだら下手すると死ぬかもなァ」
「ゲッ、マジか」
「コレも聞いた話だがよ。基本的にヒト種、特に人間は魔素を取り込み過ぎるとすぐにオーバードーズでイッちまうらしい。もっと濃度下げねぇとコレは売り物にならねェよ」
「もっとも、すぐに自分の魔力として取り込めるなら話は別だが」とフィズィさん。
アルガスさんなら頑張れば飲めるのかもしれませんね。
「まぁ、気が向いたらお前でも飲める程度のモン造ってやるから待ってろよ」
アルガスさんもすごく興味があるのか、うんうんと唸っています。
信用しないわけではないのですが、フィズィさんが造ったモノですから、若干怖いですよね。
ましてや濃度によって死ぬかもしれないモノなど、毒のようなものです。
「取り合えずそれ、私に寄こしなさいよ!」
「ほらよ」
しかしニコさんは全く気にせず早く寄こせと要求しました。
まぁ、元々魔石から出来たものですし、神の瞳でどういうモノかも分かっているので問題ないと判断しているのでしょうが。
フィズィさんは案外素直にニコさんへとポイっと蒼い液体の入った試験管を渡しました。
早速とばかりにキュポンとコルクを開けると蒼く透き通ったヘクセの酒を呷ったニコさんは「クハァーッ!!」と目を白黒させました。
「なにこれ、思ったほど美味しいって訳でもないのね。ちょっとトロッとしてるし」
「まぁ、それは味を楽しむモノと言うよりは…。まぁいい、それだけか?」
フィズィさんはそう言うと面白そうにニコさんはを見ます。
「え?」とニコさん。
アルガスさんも怪訝な顔をしています。
「ヘクセの酒ってとんでもなく美味い酒ってんじゃないのか?」
「さぁな、俺が造ったのはヘクセの酒って名前が付いている訳でもないからお前の言うヘクセの酒と全く同じモノかどうかは知らん。俺が造ったソイツはな、味じゃなくて酔いを楽しむモンさ」
その瞬間、ニコさんの心臓がドクンッと跳ねました。
動悸が激しくなり、ハァハァと呼吸が荒くなります。
「…くふ、くふふ。アハッアハハハハハハッ!!」
「うぉ、どうした!?」
急に笑い出したニコさんにアルガスさんはビックリです。
フィズィさんはそれを見てやっぱり笑っています。
「ヒヒヒヒ!!そいつは魔石を食った時よりも回るのが早いんだよ!ヒャヒャヒャ!」
「あぁ、体が熱いわ。凄く熱い。それに力が溢れてくるわ」
ニコさんが味わっているのは魔石を食べた時のあの感覚です。
体がカッカと熱くなり、溢れる全能感が体を巡りました。
更に強いお酒と魔素の過剰摂取でたちどころに酩酊し、理性がマヒするというおまけつきです。
「あー、とっても気分がいいわ」
そう言うとニコさんはバサリと羽織を脱ぐと、羽を広げて体を大きく広げました。
「ほあー」と間抜けな声で力を入れると、まるでニコさんの周りの空間が歪むように揺らめきました。
フィズィさんの目には赤いオーラのようなものが纏わり付いているように見えます。
体に収まらず発散された魔素の光です。
「さぁ、二人とも。もっと奥に進むわよ。うふふふ」
「おい、ちょぉ!待てよ!」
アルガスさんの静止も聞かず、酔っ払ったニコさんはルンルンとスキップするようにどんどん奥に進みました。
どんどん奥に進んだニコさんは、出会った魔物を片っ端から千切っては投げて留まることを知りません。
7層も半ば過ぎた頃から徐々に増えてきた魔物もニコさんの前には大した意味を成しません。
途中出てきたゴーレムには少しビビったニコさんでしたが、そこは坑道を揺るがすほどの爆砕魔法で事なきを得ました。
「馬鹿か!!坑道が崩れたらどうする!?」
「ちゃんと加減はしたわよぉ」
アルガスさんはゴーレムよりもニコさんが坑道を破壊しないかの方がよっぽど恐ろしいようです。
フィズィさんは大爆笑です。
そして鉱石を採掘する間もなく12層へと辿り着いた三人。
当初の目的はちゃんと覚えているのか。そんな不安を抱えたアルガスさんを他所に突き進んでいたニコさんとフィズィさんが何かを見つけました。
「あ?おいニコ、あそこ見てみろ」
「うふふ、あら?…あそこ、何かあるわね。ヒック」
フィズィさんが見つけたのは一つの魔術でした。
ニコさんは時折シャックリをしながらもフィズィさんの指さす方を見ました。
「あれは、幻影の魔術のようね。景色を変えるだけの簡単なモノよ。ただ、認識阻害も一緒に掛かってるみたいだし、簡単には気づかれないかもね」
ニコさんの呟きにアルガスさんの顔色が変わります。
「…おい、それって」
「ヒヒヒ、組合の奴らが言ってた危険区域って奴かもしれねぇなァ。行ってみようぜ」
「行かないぞ」
アルガスさんは即座に反対しましたが、今度はフィズィさんが勝手にズンズン進んでいきますし、ニコさんもホイホイ付いていきます。
アルガスさんは溜め息を吐くと、「ちょっと覗くだけだからな」と頭をガシガシやります。
そんなわけで三人はまだ一つも鉱石を採掘していないのに寄り道をすることになったのです。




