040 ニコさんと廃鉱の迷宮2
バスタードを抜くと軽く正眼に構えたアルガスさん。
そんな彼をみてフィズィさんは言いました。
「あ?お前の武器、そんな石みたいな奴ぶっ叩いたら折れちまうだろ」
フィズィさんの言う通り、確かにアルガスさんの武器は剣です。
硬質な敵にはとても不向きな気がしますし、たとえ折れなくとも刃くらい欠けそうな気がします。
しかしアルガスさんは不敵に笑いました。
「まぁ見てなって」
そう言うとアルガスさんは何事か呟くと術式を展開しました。
そう、魔術です。
アルガスさん、実は魔術が使えたのでした。
まぁ、実は生活の要所で使ってたんですけどね。
煙草に火を着けたり、煙草に火を着けたり…。
実イメージだけで術式を正確に起動するのはかなりの集中力と慣れが必要なのですが、実はアルガスさんはそれを日常的にやっていたのです。
煙草に火を着けるために。
「集魔練気、至鬼邪滅…」
ぶわりとアルガスさんの周囲の魔素がざわめき、ゆっくりと彼に取り込まれていきます。
アルガスさんの周りだけ魔素の濃度が濃くなるので、魔法使いの目には彼の周りが淡く発光しているように見えるのです。
アルガスさんが使った魔術は身体機能を向上させるエンチャント。
ざっくりと説明すると大気中の魔素を取り込む術式を展開し、体内で使える内気として全身に行き渡らせて筋繊維を補強。
ついでに戦意を向上させるために脳内麻薬が過剰に分泌されます。
魔術と言うよりは気功に近いかもしれません。
「成る程、身体強化みたいなもんか」
「へー、なんかオーラっぽいのが出て強そうね!」
ありていに言えばフィズィさんの言うとおり身体強化ですね。
するとアルガスさんのヤル気に引かれたのか、奥の路地から一匹の石トカゲがひょっこり現れました。
その名の通り、石の様に硬質化した頑丈な体を持つトカゲです。
大きさは大きいもので全長3mほどですが、そこまで成長するにはかなりの時間が掛かります。
今回出会ったのは1.5m程の大きさでした。
硬質な灰色の体に鋭利な爪。
ギョロリとした目の虹彩は黄色く、黒く細長い瞳孔が一歩前に出たアルガスさんを見つめています。
そんな石トカゲに向かって突きの構えを取ると一気に駆け出したアルガスさん。
一瞬で間合いが消滅します。
「シッ!」
鋭い呼気と共に繰り出された突きはあっさりとトカゲの左目に突き刺さって脳まで達しました。
トカゲはろくな抵抗もできずに絶命しました。
まさに見事なお手前、瞬コロですね。
ニコさんは「おー」と感心しており、フィズィさんもニヤリとしました。
「ヒヒ、成程。柔らかいところを突けば確かにこう言った手合いは弱い」
「俺も噛み付くトコはよく選んだモンだ」と納得しました。
ニコさんもそれには強く同意しています。
「何よ。魔猪の時も思ったけど、貴方それなりにやれるんじゃない」
アルガスさんはどうやらただのブレーンでは無いようですね。
伊達にゴールドというわけではないようです。
ひとしきりアルガスさんを褒めると、トコトコと歩いて石トカゲの元に行くニコさん。
石トカゲの死体を検分するように確認すると、番傘をぽいっと八裂丸を腰から抜きました。
「お腹は柔らかそうじゃない。さーて、魔石はどこかしらー」
そう歌うように呟くと、石トカゲを仰向けにひっくり返して腹を裂きます。
そして中から既に半ばほど結晶化した心臓を取り出すと「あったあった」と笑いました。
血塗れの手で魔物の心臓を掴んだニコさんを見てアルガスさんは若干引き気味に言いました。
「まぁ、魔石も売れるから取っといてもいいが、毎回取ってる時間はないぞ?」
因みに魔石は普通に売れます。
その純度、というか魔素濃度にも依りますが、大きく高純度なモノほど高額で売れますが、石トカゲ程度のものはそこまで値が付きません。
嵩張りますし、今回は捨てて行った方が良い。そうアルガスさんは考えています。
それに対しニコさんは「は?売らないわよ?」と疑問形。
コレにはアルガスさんも不思議そうな顔をするしかありません。
まぁ、もしかしたら魔石を加工してどうにかするというケースもあるかもしれませんが。
ということでニコさんの意図に気づいたのはフィズィさんでした。
「おい、テメェもしかして喰うつもりか?」
「何よ、悪い?もしかして欲しいの?」
フィズィさんもニコさんと同じく、アビスでは魔石バリボリ勢でしたから、それは当然気づくでしょう。
ニコさんにとって魔物も魔石も食べるモノです。
ですがフィズィさんは何を当然のことを。と言うような顔のニコさんをヤレヤレと鼻で嗤いました。
因みにアルガスさんも「食うのかよ…」と呆れています。
「お前知らねぇのか?」
「何よ」
「魔石は自分より格下のモン取り込んでも大した意味はねぇ。それに俺達はもう魔族だ。それも神域のな。そんなモン喰っても大して意味ねぇどころか胃もたれするだけだ」
「え?マジ?」
「大マジだ。まぁ、魔石に内包された魔素を直接取り込むってならアリだがなァ。ちょっと貸してみろ」
ニコさんはちょっと怪訝な顔をしつつもフィズィさんにもう完全に結晶化した心臓、魔石を放りました。
するとフィズィさん、魔石を眺めるとポイっと宙に放りました。
「ヒヒ、まぁ雑魚の魔石だ。こんなもんだろ」
そう言った瞬間、魔石はフィズィさんの手には落ちずにドロリと溶けてしまいました。
ボタボタとドロリとした液体が地面へ落ちます。
そして少しだけ残った蒼く透き通った液体が、フィズィさんの手のひらの上に浮いています。
元の魔石の大きさから考えるとかなり減ったように見えますね。
「え、何それ」
「それ、まさか…」
ニコさんは何だか不思議そうな顔をしています。
それはそうでしょう、魔石溶けちゃいましたし。
アルガスさんは何か心当たりがあるようですが、一体何なんでしょうか。
フィズィさんはやっぱり「ヒヒヒ」と笑いました。




