004 ニコさんとコボルト
2022/08/25 諸々修正しました。ストーリーに影響はありません。
今回はド初っ端に蜘蛛がジュルジュルされます。コボルト的な物体もチューチューされます。必要とあらば脳内モザイクをご用意くださいませ。
ジュルジュルジュルリ。
何の音かって?それは勿論、私が大きな蜘蛛を食べる音よ!
どうやらこの森には私の食料がいっぱいあるみたい!森だから虫はいっぱいいるみたいだし、しかもなんと果物まであるの!
最初は不気味だなんて思ったけど、いやー、もうここ、私にとってはパラダイスじゃない?もうここに住もうかしら。
でも、私はもっともっとこの洞窟の奥に進むの。もう既に洞窟って呼んでいいのか分からないような感じだけれど、俄然興味が湧いたわ。一体この先はどうなっているのかしら。
ということで、この森について結構な時間がたつけれど、私は随分と沢山食べたわ。
食べれる時に食べる。これが私のモットーだけど、正直食べすぎた感じも否めない。それくらいここは私にとっての食料が多い。一人ビュッフェパーティ状態。
食べたモノの中には当然石を持つ生き物たちも大勢含まれる。
そして、芋虫よりも、ゴブリンよりももっと輝きに満ちた力のある石を持つモノたちがここにはいた。
私は喰った。喰った。喰った。
欲求のままに、本能のままに喰らった。
途中からはもうほとんど食事のためというよりは石のために喰っていた。
石が与える全能感と力は私にとって抗いがたい魅力だった。石の味が忘れられない。頭から離れない。石を喰らうことしか考えられない。まるで熱に浮かされるように、私は石を求めた。求め続けた。喰って、喰って、喰っては眠り、起きては進んでまた食べて食べて食べて。私はそれを繰り返した。まるでそれが義務の様に。まるでそういうモノのように。
罠を張って待ち構える蜘蛛。地を這うトカゲ。ひらひらと舞う蛾に枯れ木に成った叫ぶ果実。どれもこれも食べて行く。さながらまるでグルメツアー。端から端まで食べ尽くす。暴食の限りを尽くしていく。ああ、なんて快感かしら。
いつの間にか、私はすっかり石の魅力に憑りつかれていた。狂っていた。
まぁ、途中で食べ過ぎて少しリバースして正気に戻ったんだけどね!
いや、危なかったわ。ハッ!?ってなったもの。
ちょっと自重しないと駄目ね。食べ過ぎ注意、飲みすぎ注意。
そうしてどんどん森を進むと私はとある生き物と出会った。
「オイテケ、オイテケ」
そう、なんと喋る生き物!鳴くのではなく喋るの!
凄く面白いし意味が分かる!でも、一体何をオイテケば良いのかしら。やっぱり意味が分からないわね。うーん、興味深いわ。気になります!
そいつ等は私が何かを食べているところを見ると必ず「オイテケ」と言うの。馬鹿の一つ覚えみたいにね。もしかして、食べ物をオイテケってことかしら?図々しいやつらね!
そいつらの見た目は一言で言えば……、そう、二足歩行の犬面のヤツ!地味に木の棒なんか持って武装してるから、多分多少知能はあるのね。喋ってるし。
大体三匹くらいで行動してて、以前トカゲを「オイテケ」とか言いながら袋叩きにしてたわ。なんか凄くシュールというかな光景で「うわー」って思ったわ。
さて、私が森を飛んでいると、たまたまはぐれた犬面を見つけた。はぐれてるなんてまるで私みたいじゃない?親近感を覚えちゃう。
そいつは周りをキョロキョロしていたけど、木の上までは見ていない。つまり、私にはまだ気づいていないの。これって結構チャンスよね。一匹だけならどうにかなるかもしれない。私は木の枝にぶら下がりながら思ったわ。
しばらく考えてみたけど、私は意を決して犬面に飛び掛かった。その無防備な首筋、いただきよ!
「ギャアアアアアアアア!!!!」
私がカプリと噛みつけば、そいつは耳を塞ぎたくなる大声で絶叫した。もの凄くうるさいわ。
私を引き剝がそうと闇雲に暴れる犬面。それでも私は離さなかった。チューチューと血を吸ってやった。あら、結構美味しいじゃない。
しかし、あまり堪能している時間はないようで、犬顔が叫び声に気付き新たな犬顔が二匹近づいてきた。基本三体行動だから、もしかしてこいつと同じチームのやつらなのかしら。
「オイテケ、オイテケ」
「ソイツヲ、オイテケ」
ノシノシと緩い動作で歩いてくるそいつ等は、どうやら私の獲物を助けようというみたいね。明らかな敵意を感じるわ。
ここで欲を掻くといけない。私は噛みついていた犬顔から素直に離れると、さっさと上空へと退避した。
「オイテッタ、オイテッタ」
「アアアアア」
私が離れるとすぐにそいつ等は私に襲われた個体を助け、いずこかへと消えていった。連れていかれたその姿はまるで捕まった宇宙人のようだったわ。
私は彼らを見送ると、天井まで一気に飛び上がり、逆さまにぶら下がる。
ほんの少しの間だったけど、私のお腹は意外に満腹。
あー、お腹いっぱいで体が重いわぁ。ちょっとひと眠りしようかしら?なんて、私がウトウトしていると、何やらザッザカ足音が聞こえてきた。
「「オイテケ、オイテケ」」
「「キケンダ、キケンダ」」
足音の主はさっきの奴らだ。あの不気味で面白い呟きはアイツらしかしらないもの。
音の方を確認すれば四匹の犬面が集まっているようで、どうやら私に仕返ししようというのかしら。あらいやだ、多勢に無勢、卑怯じゃない!
でも残念、私は木の上であなたたちは地べたを這いずるばかりじゃない?決して私には届かないの!悔しかったら飛んでみなさいな。
ああ、圧倒的優越感!空を飛べない君たちは私を害することは決してできない!ざまぁみたまえ犬面諸君、貴兄らは決して私に届かない!私に見下ろされるばかりなのだよ!ふはーははー。
そんな感じで私は内心高笑いしていた。でも、一匹の犬面を見て私の表情は凍り付いた。
そいつは杖を持ってうにゃうにゃ言っていた。まるで魔法の呪文でも唱えるみたいに。
私の脳裏にあの人間、私に火球をぶん投げてきた人間が過る。そう、ここは魔法っぽいものが存在する世界なんだ。
そう思った瞬間、私の中でアラートが響く。次の瞬間――。
「うにゃー!!」
杖を持った犬面が叫ぶ。何その間抜けな掛け声!?
そんな衝撃を他所に、私は犬面の持つ杖の先から飛び出した火球を慌てて避ける。
火球は私のとまっていた天井を爆破。焦げ臭い匂いを辺りに漂わせた。なにこれ熱ッ!?やっぱり魔法じゃない!?
私は仕返しに「キー!」と衝撃波を放ったけど、残念ながら外れたみたい。
「「「「キケンダ、キケンダ」」」」
彼らは私をすっかり危ないモノだと認識したみたい。はっきり言って心外だわ!確かにさっきは噛みついちゃったけど、四匹で来るなんてずるいじゃない!魔法使うことないじゃない!私はか弱い蝙蝠よ!?
内心で悪態をつく私。でもそれで自体が好転するわけでもなし。
これはもう、やるしかないのかしら。