037 ニコさんとアルム少年
いつも読んでいただいて有り難うございます。
書き溜めた分が完全に無くなったので、更新ペースが少し落ちるかもしれません。
「僕はアルム=カサバ。以後、お見知りおきを」
不敵に笑ったアルム君。
まるでBow and scrapeの様なお辞儀をした彼ですが、右手で持った帽子をそのまま上に向けるとそこから黒いカラスが一羽、ひょっこりと顔を出しました。
つぶらな瞳がとってもチャーミングです。
「こちらは友人の黒羽さんです」
アルム君に紹介された黒羽さんは「カァー」と一声鳴くと、すぐに帽子の中に引っ込んでしまいました。
「ちょっとシャイなんですよ、黒羽さん」
そう言って帽子をかぶりなおすと同時に、何故かポンチョから一匹のカラスがモゾモゾバサリと外に出てアルム君の肩に乗りました。
いつの間にか周りに集まっていたギャラリーは「おぉ」とか声を上げています。
中にはパチパチと拍手している人もいて、マジックショーでも見ているかのようです。
「でも目立ちたがり屋でもあるんです、黒羽さん」
「手品かしら」
「カァー」と一言鳴いたカラスの顔はどことなく得意気にも見えます。
椅子に座っているニコさんも何となく空いていた左手で太ももをポンポンと叩きます。
そして、魔法や魔術といったもののある世界で手品ってどうなのかしら。そんな益体の無いことを考えると煙をぷかりと浮かべました。
「で、手品師の少年は私に何か用かしら?」
「おや、手品をご存じで?皆さんこれを見ると何の魔術かと疑うものですが」
「ふむ、魔術なのかしら?」
訊いてはみたものの、ニコさんは十中八九魔術ではないと思っていました。
魔素に動きが無かったので魔法や魔術の類ではない、何かしらの技術か。もしくはカラスが二羽仕込んであっただけ。そう思っていました。
すると少年はどこか鷹揚に頷くと帽子をヒョイっと持ち上げました。
「カァー」
すると、やはりと言うかなんというか、銀色の頭の上にはカラスが一羽乗っていました。
何故か羽で顔を隠しています。
やっぱり恥ずかしいんでしょうか、シャイですね。
「こっちがシャイな黒羽さん。肩のは目立ちたがりな黒羽さんです。はい、皆さん拍手」
これにはギャラリーも「おぉ」となりましたが、拍手は一切ありません。
種が割れてしまうと何とも寂しいものです。
アルム君が帽子をかぶるとシャイな方の黒羽さんはすっぽりとまた帽子の中に隠されてしまいました。
そしてプルプルと肩を震わせてちょっと涙目になるアルム少年。
「…拍手せんかい!!」
「結局何なのよ!?」
何故かいきなりギャラリーを見回して怒り出したアルム君に、いい加減痺れを切らしたニコさん。
ギャラリーの皆さんは肩を竦めるばかりです。
中には「キレ芸に頼るのはよくないぞー!」と声を掛けている者もおり、すっかり謎の空間が出来上がっています。
本当に一体何なんでしょう。
暫くギャラリーを威嚇していたアルム君ですが、ハッっと我に返りコホンと一つ咳払い。
ニコさんの方へと向き直るとニッコリ笑いました。
「さて、挨拶はこれくらいにしておきましょう」
そう言うとポンチョをマントのように翻すアルム君。
さっきの涙目が嘘のようなキザったらしさです。
振り返り様、ブーツの踵で床もコツコツ鳴らしちゃいます。
「それではまた、近いうちに。…ニコ=ウォーカーさん」
最初と最後だけはやたらカッコいい少年だな、とぼんやり思ったニコさんでしたが、肩越しにそう言ったアルム君の瞳が一瞬黄金に輝いたような気がして急に心臓が跳ねました。
しかしアルム君はニコさんに背を向けて、ギャラリーの間をスルリスルリといずこへかと去っていってしまいました。
「…私、名乗ってないわよね」
彼が見えなくなる直前、咄嗟に神の瞳で彼を見ましたがそこで更に驚くことになりました。
ドキドキと早くなる鼓動。
ギャラリー達が解散する中、一人呆然とするニコさん。
どさくさに紛れてニコさんに声を掛けてくる男達も居ますが、ニコさんの目には全く入りません。
まるで狐に抓まれたような気分です。
「何、これ…」
さて、一体ニコさんは何を見たのでしょうか。
何か得体の知れないモノが自分に迫っている、そんな予感だけを残してアルム君の姿は完全に見えなくなってしまいました。
ニコさんが呆けていると、アルガスさんとフィズィさんが帰ってきました。
珍しくニコさんは難しい顔で何か隣の男の話を適当な相槌で躱しています。
別に男の話が難しいわけではなく、単純にアルム君のことを考えているだけなのですが、男は気にせずペラペラと自分の武勇伝的な何かを話しているようです。
今はどうやら獣人の国で危険の迫った珍獣ブタハナゾウミミウシトカゲを助けて小さな湖の畔へ返してあげた話をしていました。
丁度ブタハナゾウミミウシトカゲをチャバネオオムカデの群れから助けるシーンで、椅子に足を掛けて熱心に語っていました。
ちなみにニコさん、実は躱しているつもりが頭の中はブタハナゾウミミウシトカゲという訳の分からない生物の妄想で一杯になっているのですが、それに気付かないくらいには真剣にぼんやりしている様です。
普段のニコさんなら間違いなく既にツッコんでいるはずです。
「んで、俺はムカデ共に言ってやったんだ。こいつはお前らの餌じゃねぇ!俺のダチ公よ!ってなってうぉぉ!?」
そんなよく分からないトカゲがお友達の男はアルガスさんに気付くと悲鳴を上げました。
アルガスさんの顔にムカデでも付いていたのでしょうか。
「おい、嬢ちゃん。こっちは終わったぞ。…そいつは知り合いか?」
「ん?ってアンタ、誰よ。ブタハナゾウミミじゃなくて…、ダリルだっけ?」
「お、おぅ。それよりアンタ、…この男と知り合いかい?」
「ああ、アルガス?そうだけど、何かしら?」
ニコさんが答えると男は「し、失礼しやしたー!」と走り去っていきました。
建物の中で走ると危ないですよね、途中椅子に躓いていました。
そんな男を見ながらニコさんは「やっぱり、見えるわよね…」と一人呟いていましたが、その呟きは誰に聞こえた訳でもありません。
「嬢ちゃん、どうかしたか?」
「…ちょっと変な奴に会っただけよ」
「ヒヒ、さっきの男か?アルガスにビビってたみたいだが、お前なんかやったのか?」
「知らん」
ニコさんは「ふむ」と一人頷くと、まぁいいか。と立ち上がりました。
よく分からないことは取り合えず置いておく、ニコさんのモットーです。
ググッと一つ伸びをするとニコさんは二人に向き直ります。
「何かいい仕事は見つかったのかしら?」
「おう、面白そうなのがあったぜ」
答えたのはフィズィさん。
右手に持った紙をピラピラとニコさんに見せます。
その紙には黒銀鉱と黒金鉱の買取価格が記載されていたのでした。
感想とかを貰ってみたい…貰ってみたい!!




