035 ニコさんとベルさん
お爺ちゃんと呼ばれたニコさんは頬がぷっくり膨らんでいます。
ニコさんも元は蝙蝠とは言え立派なレディ、お爺ちゃんは駄目でしょう。
「ああ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって。貴女がこの手紙を持って来た方ですね?その…刀?はモグ=モグレスが打ったものでしょうか?」
「ええ、そうよ。フルネームめっちゃモグモグしてるわね、モグ爺さん」
ニコさんが応えれば作業着のような服を来た小さな少女は「やっぱり!」と目を輝かせました。
「お爺ちゃん、やっぱり凄いなぁ…、私じゃまだ追いつけないや。すみません、申し遅れました。私、モグ=モグレストの孫にあたるベル=モグレストです」
少女がペコリと頭を下げると頭の上で括ったふわふわの緑髪が元気に揺れました。
ハキハキとした可愛らしい声はニコさん的にも好印象です。
「これはご丁寧にどうも。私はニコって言うわ!モグ爺さんにはアクリ村で世話になったんだけど、その縁で貴女への誕生日プレゼントを頼まれてるのよ」
ベルさんは「まぁ!」と驚いています。
「具体的には貴女に私の着ているような着物を一着プレゼントするようにって言われているんだけれど、もし貴女が良ければこの私が直々に用意してあげるわ!」
「それはとても嬉しいプレゼントです、ニコさんが宜しいなら是非お願いします。とても可愛らしい着物…ですか?私も着てみたいです!」
どこか偉そうなニコさんですが、ベルさんはニコさんの装いを見ると顔を綻ばせました。
とっても純粋で大人な対応です。
気を良くしたニコさんは早速ベルさんの為の着物のイメージを考えました。
ベルさんは癖の強い緑色の髪の小さい女の子です。
身長は120cm位でしょうか、ジェットコースターの身長制限には引っ掛かりそうです。
くりくりとした大きな目には、髪と同じ綺麗な緑の瞳がまるでエメラルドのように輝いていて、あどけない表情豊かなベルさんにはきっと明るい色が似合うことでしょう。
「中々創作意欲を誘う上玉じゃないの、明日の昼までには仕上げてくるわ!楽しみにしててちょうだい」
「そんなに早くできるんですね!凄いです!とても楽しみにしてますね!」
ベルさんの嬉しそうな笑顔にニコさんはご満悦です。
腰に手を当て胸を張っている姿はどこか頼もしさすら感じます。
まさに鼻高々と言った様相でした。
ニコさんの要件が終わると、ベルさんは「ところで…」と話題を切り替えました。
「もう一度お爺ちゃん、モグ=モグレストの刀を見せてくれませんか?」
「ええ、いいわよ」
どうやらベルさんは八裂丸がとても気になる様子。
ニコさんが腰から鞘ごと八裂丸を抜き取ると、ベルさんは少しソワソワしながらソレを受け取りました。
そしてベルさんはスラリと八裂丸を抜くと、刀身を眺めてウットリです。
「うふふ、流石お爺ちゃん。とてつもない出来です、これならきっと私の中の打った鬼切丸も切れるでしょうか」
ベルさんは暫く八裂丸を眺めると、丁寧に鞘へ戻してニコさんに返しました。
とてもそうは見えませんが、チーフと呼ばれるくらいですから、この鍛冶屋の主任なのでしょう。
八裂丸を見ている時の目はとても鋭く、且つ陶酔しているような、どこか狂気を孕んだ様な目だとニコさんは感じていました。
「ふぅ、ありがとうございました。試し切りもしたいところですが、流石に人様の物ですからね…。切れ味はどうですか?何人くらい連続で斬れましたか?」
「ヒトなんか斬ってないわよ!!」
ベルさんの中でニコさんはナチュラルに人斬りになっていました。
まだ猪捌くのに使っただけのニコさんとしてはとても心外です。
「えー!?じゃあその刀まだ処女なんですね!…いいなぁ、私が初めて貰っちゃいたいです!」
ニコさんはこの子何かヤバイわ!と戦慄しました。
しかしベルさんはパッと表情を戻すと、あどけない笑顔をニコさんに向けてコロコロと笑いました。
「まぁ、それは冗談として、本当にありがとうございました。着物、明日楽しみにしていますね!それでは私は仕事がありますのでこの辺で失礼しますが、良かったら商品もご覧になって下さいね!」
「それでは失礼します」と言うと、ベルさんは少女とは思えないような上品な笑い方で笑いながら奥へと引っ込んでいきました。
「…流石はモグ爺さんの孫ね」
何が流石なのかはわかりませんが、そんな感想で締め括ったニコさん。
あんな少女がこんな鍛冶屋でチーフと呼ばれているのです。
普通の少女なわけはありませんが、それでもニコさんは何となく圧倒された気分でベルさんが奥へ入っていくのを見送りました。
ふと我に返ったニコさんがアルガスさんとフィズィさんを探すと、二人は何やら色々な武器を見ては盛り上がっているようでした。
フィズィさんが手に取った武器をアルガスさんが説明しているようですが、今は黒塗りのナイフを見ているようです。
「ほー、こいつは良いな。何より黒い」
片刃で背の方にソードブレーカーの付いた肉厚の刀身です。
フィズィさんはその黒さに惹かれたようで、色んな角度から繁々と眺めています。
「ナイフは持ってると色々使えて便利だから、一本くらい持っててもいいかもな。…しかしこの店良い値段するなぁ」
アルガスさんは感心したようにフィズィさんが持つナイフを繁々と眺めました。
主に値段が貼られた部分を。
流石にモグ爺さんの孫の店。
品質はかなり良いようですが、それに伴って値段も良いです。
ベルさんも相当な腕前という事なのでしょう。
フィズィさんはナイフをクルクルと弄びながら暫く感触を確かめると、そのうちに「よし、決めた」と言いました。
「コイツにしよう」
「買うのか?お前金持ってるのか?」
「ヒヒ、あるわけねぇだろ。出せ」
そう言うとフィズィさんはナイフをクルクルしながら会計カウンターへ向かいます。
アルガスさんは「まぁ、そうだよなぁ」と盛大に溜息を吐くとフィズィさんの後を追いました。
結局アルガスさんがフィズィさんにナイフを一本購入して、三人は鍛冶屋モグラディウスを出たのでした。




