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吸血蝙蝠ニコさんのダンジョン攻略記(仮)  作者: こぺっと
第二章 ニコさんと復活の魔王軍
33/100

033 ニコさんと暗躍する人たち

ぽっかりとした満月が浮かぶ森の夜。

蒼く満月を背負う様にして大きな魔女帽子を被った女がニコさんを見下ろしていました。

彼女は正しく魔女の様に箒に乗って空を飛んでいたのです。


そう呟いたのは魔女帽子の女でした。

彼女の前には血を固めて作った様な三本の槍で地面に縫いとめられているニコさんが居ました。

ニコさんは口元から大量の血を流しながら魔女帽子の女を睨み付けていますが、まともに動けるようには見えません。

喉から漏れるのも声ではなくヒューヒューとした呼気と血だけです。


「この程度で動けなくなるなど大した脅威にもならんな。やはり始祖というのは(かた)りか」


ヤレヤレという様に呟くと、彼女はふわりと地面に降りました。

長い紫の髪に銀縁の眼鏡、紺色を基調とした女学生のような服装はどこぞの学園のモノでしょうか。

短い丈のスカートに焔の様な形のニーソックスを履いています。

靴は茶色い編み上げのブーツです。


見た目は完全にただの女学生、少なくともこの惨状を生み出した当人には全く見えません。


「だが念のため、ちょっと見せて貰うぞ」


そう言うと魔女帽子の女はゆっくりニコさんへと近づきました。

白かった虹彩はいつの間にか黒く変わり、瞳は真っ赤に輝いています。

ニコさんは逃げようにも何故か体が全く動かず、精々出来たことは恐怖に顔をゆがめる事くらいでした。

そんなニコさんを嘲笑うかのように魔女帽子の女はニコさんの白い首筋をペロリと舐めると、カプリと牙を突き立てました。


いえ、突き立てようとした正にその時。


「夢幻の狭間を襲うとは少々無粋でおじゃるなぁ」


ニコさんがそう言うと魔女帽子の女が弾かれたように後方へと飛びす去りました。

まるで人が変わったかの物言いに魔女帽子の女は油断なくニコさんを伺いました。


「麿の玩具(・・)に気安く触るでないわ」

「…誰だ貴様」


魔女帽子の女が誰何すると、ニコさんはフィンガースナップ一つでパチンと戒めを解きました。


「誰でもよかろ。去ね、あばずれ」


ニコさんがそう言うと世界が歪み、夜の森が消えました。

まるで初めから無かったように。


「なっ!?」


そして驚く魔女帽子の女もまるでテレビの砂嵐の様に消え去ってしまいました。

真っ暗な闇の中をただ一人漂うニコさんは、「ふむ」と一つ頷くと、自らも闇の中へと溶けていきました。





「っ!?…馬鹿な、一瞬で戻されただと?」


暗い部屋の中、ベッドの上で紫の髪の女が上体を起こしました。

眼鏡はしていませんが、その顔は紛れもなく先程ニコさんを串刺しにした魔女帽子の女です。


「パスも切られたか。精神の同居、二重人格?…だが、それにしては格が違いすぎる。何れにしても、奴の素性も行動理由も依然不明か」


その顔はなにか予想外のことに苦々しく歪められています。


「失敗…ですか」


彼女が呟きベッドから立ち上がると、暗闇から一人の男が話しかけてきました。


「ああ。恐らく同じ手は通じないだろう。それに今回追われた形跡はないが、次はわからん」

「…それほどまでですか。では、どうします?」


男の声は淡々としていてそこにはなんの感情も伺えませんが、顎に手を当てて実に困ったというポーズを取っています。

暗くて顔の表情は良く分かりませんが、台詞と動作が何だか少しだけずれている様な、そんな不思議な男です。

それはいつものことなのか女も淡々と答えます。


「奴の中には、恐らくだが奴自身とは別の意識が存在している。危険性があるとしたらそちらだ」

「ならばやはり?」


やはり、と言うからには何か計画があるのでしょうか。

しかし紫髪の女は首を横に振りました。


「いや、それは早計だ。今の接触からはどの程度の戦力で当たればいいか分からん。今無駄玉を撃つのは避けたい。それに…」


女は何か何かを思い出すかの様に一呼吸置来ました。


「あの気配、どこかで感じたことがある。それも相当(・・)昔だ」

「…魔王軍では?」

「いや、恐らくだが違う。アレは魔族とは違う、もっと異質な…」


男は「ふむ」と一つ頷きました。


「まぁ、貴女が言うのならそうなのでしょう。あまりにも不確定な要素が多いですが、一先ず泳がせておきますか。しかし、目くらいは欲しいところですねぇ」


女は思い出せないことに腹が立ったのか小さく舌打ちをしましたが、「それなら」と思考を切り替えました。


「アルムに行かせろ」

「あの少年ですか?貴女が失敗したのです。言っちゃなんですが、彼には少し荷が勝ちすぎているのでは?」

「いや、アイツでいい」


女の有無を言わさぬ物言いに男は溜息を一つ吐きましたが、「分かりましたよ」と両手を上げて降参のポーズを取りました。

そうして部屋の出口へとコツコツ歩いていきましたが、ドアを開けると「あ、そうだ」と女の方に向き直ります。

外から差し込む明りに照らされた男の顔はとても普通の顔立ちでした。

その普通な顔に適度な微笑み(アルカイックスマイル)を浮かべています。


「理由とか目的はどうします?」

「…そうだな、適当に私から話しておく。お前はレクトルの奴に報告を上げておけ」

「ハイハイ、承知致しましたよ」


男はそう言うと今度こそ部屋を出て行き、再び部屋に闇が満たされました。

真っ暗な部屋の中、一人残った女は未だ頭に引っ掛かったあの気配を記憶から探しました。


「…アレは何だ?何処で会った?」


勿論その問いに答えてくれる人は誰も居ません。

女はスプリングの利いたベッドにボフンと腰を下ろすとそのまま仰向けに倒れました。


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