030 フィズィさんは女の子
一度アクリ村へ戻った三人は加工してもらった猪肉を受け取ると、親しくなった村人たちにお礼の挨拶を済ませました。
そして村長とモグ爺さん、それに村人Aことネウロさんに見送られてアクリ村を出て行ったのでした。
因みにニコさんは酒屋の親父さんからお酒を少し分けて貰っていました。
ちゃっかりしています。
とりあえず、次の村へと向かう予定ですが、散々地面を転げ回ったニコさんとフィズィさんはすっかり泥だらけです。
ニコさんお気に入りの着物も台無しですし、フィズィさんもナチュラル迷彩みたいな状態です。
そんな二人を見かねたアルガスさんが森の街道を歩く途中に言いました。
「…水浴びでもするか。そこに川があったろ」
ニコさんもフィズィさんもそいつは良いねと頷くと、皆で川の方へと向かいました。
森の中を暫く歩いていると、水の流れる涼やかな音が聞こえてきました。
更に進むと陽光を反射してキラキラと輝く川が見えました。
「うぉぉ、まぶしぃぃ!」
ニコさんは若干ダメージを受けました。
森の中にあるその川は然程大きくは無く、流れも速くありません。
水深も1m無いくらいでしょうか。
透き通った川を覗きこめば川底も見ることができました。
「んじゃ嬢ちゃん、俺はフィズィ連れてあの岩の向こうに行ってるからな。なんかあったら呼んでくれ」
「はぁい、って。え?」
アルガスさんはそう言ってさっさとフィズィさんを連れて行ってしまいましたが、ニコさんは何やら首をコックリ傾げていました。
「…まぁいいか」
しかし、まぁ何か二人で話でもするのかもしれないと勝手に納得すると、少し寂しさを感じないでもありませんでしたが、木陰でシュルシュル着物を脱いでいきました。
一方アルガスさんとフィズィさんですが、フィズィさんもやっぱりこの割り振りを不思議に思っていた一人でした。
「おい、なんでニコ置いてきたんだ?俺に何か用ってか?」
「あ?ああ、人間はな、あまり男女で裸を見せ合ったりしないんだよ。魔物や魔族の事は分からんが、人間には発情期がない代わりに、そういう些細なことで催したりする。それはそれでアレだろ?」
アルガスさんは、なんでこんなこと説明せねばならん。と頭をガシガシやります。
良い歳した男女が同じところで水浴びなど、切羽詰まった、例えば戦場の兵士などでなければ基本的にはありません。
普通は男女別で別れるモノなのです。
「ああ、成程な。そういやそうだったか」
そうアルガスさんが苦い顔で説明すると、フィズィは何となく思い出したという様にニヤリ笑いました。
とっても意地の悪い顔をしています。
「まぁ、ニコもその辺はあまり気にして無かったみたいだが、今後はヒトの多い場所に行くことも多い。ましてや都会なんかでは、まぁ公衆の面前で脱ぐこともないだろうが。要するにアレだ。マナーだよ、マナー」
「マナーねぇ…」
フィズィーさんはその言葉を口の中で転がすと増々笑みを深めました。
そして、アルガスさんに向き直りました。
「嫌に紳士的な奴だな、アルガスは。男なら女の着替え覗く位の気概が無いとダメなんじゃねぇか?」
「あのなぁ…、相手が普通のヒトならともかく、恥じらいのない元魔物を騙して見るなんざ、男の風上にも置けんだろうが」
「ほー、そういうもんかね。まぁいいけどな、お前が紳士だって事は良く分かったよ。んじゃ、早速水浴びしましょうかね」
フィズィさんはとても楽しそうです。
そして汚れた衣服を順々に脱いでいきました。
大き目のコートからスキニーのパンツ、コートで隠れていたピッチリとしたタンクトップ。
まるでアルガスさんに見せつける様に一枚一枚脱ぎ捨てていきます。
するとみるみるアルガスさんの目は驚きに見開かれていきました。
「ちょ!!ちょっとまて!脱ぐな!」
そして残りは下着一枚となった時に、アルガスさんはとうとう叫んだのです。
しかしそこで止めるフィズィさんではありません。
最後の一枚までスルスルと脱いでしまえば、そこにはしなやかな筋肉に包まれた女性の裸体がありました。
日の光を反射して煌めく素肌はどこか艶めかしくも健康美溢れる輝きを放っています。
「ヒヒヒ!どうだ人間、興奮したか?」
「お前!ちょッ、女だったのかよ!?」
アルガスさんは慌ててフィズィに脱ぎ捨ててあったコートを投げつけました。
「バッカ!!そういうのは先に言え!!」
「いやぁ、別に性別なんざ気にして無かったから訂正するのも面倒で言ってなかったが、俺はメスなんだよ。バーカァ!ヒヒ、なんだ?なんなら抱きしめてやろうか?」
フィズィさんはとても楽しそうに腕を広げてアルガスさんに歩み寄ります。
「ヤメロ、マジでヤメロ!お前もうさっさとニコのとこ行きやがれ!」
「あーん?いいじゃねぇか。俺と、二人で、仲良く水浴び、しようぜぇ?」
ワザと胸を腕で隠して中腰に、舌なめずりしながらにじり寄るフィズィさんにアルガスさんはもう降参とばかりに叫び出しました。
「あーもうほんっと!こいつらほんっと!!俺が悪かったから許してくれ!俺ァあっちに行くからな!!」
アルガスさんは歳の割には本当に初心ですね。
このままでは矛盾の身も食べてないのに魔法使いになれそうです。
フィズィさんはそんなアルガスさんを見て「ヒャヒャヒャ!」と笑いました。
「初心な奴だなマジで」
フィズィさんは面白いモノを見つけたとばかりに舌なめずりするのでした。
一方、水浴びを終えたニコさんは番傘もささずに岩場に座ると川面をぱちゃぱちゃ蹴っていました。
今は日の光で体を乾かしています。
自然乾燥です。
ついでに洗った着物も木に吊るして自然乾燥です。
なので今は一糸纏わぬ艶姿を日の元に晒しています。
まだ少し濡れてしっとりとした髪から時折滴る水滴は、ニコさんの真っ白い肌を伝って陽光を反射します。
因みにニコさん、どこがとは言いませんがツルンツルンです。
そんなニコさんは何処か不思議そうな顔をしていました。
それもそのはずです。
「日の光が、肌を焼かない」
ぱちゃぱちゃ。
ぱちゃぱちゃ。
ニコさんは呟きました。
「何ゆえか」
ぱしゃん。
太陽を見上げるとやはりとっても眩しいですが、目が焼けるようなこともありません。
フィズィさんと戦っていたついさっきまでは、確かに陽光がニコさんの羽を焼いていました。
ニコさんはコックリ首を傾げます。
「あの蛇女の血を吸ったから?」
多分それが正解でしょう。
フィズィさんもそれなりに格のある魔族のはずです。
その血がニコさんに陽光に耐える力を与えた、と言うのが有力な線です。
「ッくしゅ!!ああ、吸血鬼でも風邪引くのかしらね。…あいつら何やってるのかしら」
まぁ、別に害があるどころか煩わしいモノが一つ減ったので、喜びこそすれど嘆くことは無いとニコさんは岩場に転がり、まるで光合成をするかのように体を伸ばしました。
そしてそのままゆっくり目を閉じるとそのうちにスースー眠ってしまいました。
究極の無防備ですね。
暫くして帰ってきたアルガスさんがニコさんの姿を見て叫んだのは仕方のない事でしょう。
アルガスさんはこの旅の仲間たちに、まずは恥じらいと言うものを教えることが必要だと切に感じたのでした。




