003 ニコさんと魔石
2022/08/24 諸々修正しました。ストーリーに影響はありません。
今回は誰もモグモグされない模様。
大蛇から逃げた私は、今度こそちゃんと周りに危険がないことを確認した。そうして天井にぶら下がって、ゴブリンから取り出した石を食べた。
石を飲み込むと、相変わらず体が熱くなって不思議と高揚感が湧いてくる。
でも、今回はそれだけじゃなかった。なんだか今なら何でもできそうってあやふやな感じじゃなくて、今ならなんか口から衝撃波出そう!ってそんな感じなのよ。
思い立ったら吉日、私はその感覚に従って「キー!」と一声叫んだわ。そうするとなんと本当に衝撃波が出たの!うふふ、意味が分かんない。ねぇ、凄いわ私。ほら、あそこの岩ちょっと欠けたわよ?ねぇ、ちょっと誰か!?
私が「キー!キー!」はしゃいでいると、それを聞きつけてアイツ――大蛇が現れた。すっかり撒いたつもりだったけど、どうやらここまで追いかけてきたみたい。本当に嫌な奴!私が嬉しい時に出てくるなんて、なんて意地の悪いことかしら。
でもなんだか悔しがっているのかしら。舌をチロチロさせながら私の様子を妬まし気に伺ってるの。
何かしら、もしかしてアイツ、私が持ってた石が欲しかったの?もしそうだとしたならご愁傷様。もうアレは私の力となったのよ!
ふふ、そうね。なんだったら私の新しい特技を見せてあげようじゃないかしら。ええ、よろしくってよ?とくと御覧なさいな!
私は今までの仕返しとばかりに大きな口を開けて「キー!」と叫ぶ。放たれた衝撃波が蛇の頭を強かに叩くと、そのまま奴の意識を刈り取った。アハハッ!何て無様、ざまぁみろだわ!
あぁ、今日は何て良い日かしら。
そうね、ついでだからアイツも喰ってやろうかしら。
私は石を飲んだ高揚感も相まって、傲慢にもそんなことを思ってしまった。
バサバサと蛇の傍まで降りると、ヤツはだらしなく口を開けて目を瞑ったまますっかり伸びていた。
さぁ、その間抜けな面に牙を突き立ててやろう。私がそう意気込んで口を開けると――。
私は危険を察知してすぐに飛び上がった。
気絶はフェイク!私が油断したタイミングを見計らったんだわ!ああ、なんて憎たらしい!
そう、この大蛇は私が口を開けた瞬間にパッチリと目を開け、ギロリと私を睨みつけ、逆に私をひとのみにしてやろうと口を開けたのよ!
私が飛び上がった次の瞬間、私が元居た場所を蛇の大顎がバチンと挟む。なんて恐ろしい!少し遅かったら危なかったわ!
ああ、やっぱり欲をかいちゃだめね。私はそんな教訓を胸に全力で洞窟内を、今度こそ蛇に追いつかれないところまで逃げたのでした。グッバイベイベー。
そうして辿り着いたのはいずこかへと続く通路への入り口。今まで通ってきた道とはなんとなく印象が異なり、ここではないどこかへと繋がって良そうなそんなところ。
ひとまずこの通路の先はしばらく危険がなさそうだ。私の高性能なエコーロケーションがそう言っている。だから、私はあの大蛇との因縁が断ち切れるようにと、この少し変わった通路へと入っていった。
通路はどうやら下に続いているみたいで、石の階段になっている。階段なんて人工物がここにあるのは何故かしら?
通路を抜けると、少し開けた場所に出た。周りの景色は今までとあまり変わらない、ゴツゴツとした岩肌。もう少し景色が変わるかもなんて思ってたものだから少し拍子抜けだわ。
さて、まずは少し落ち着ける場所を探そうかしらとあっちこっちをフラフラ飛んだ。すると、そのうち凄く落ち着きそうな空間――そうね、私の体がすっぽりと収まるくらいの小さな窪みを見つけたの。ひとまずここで休ませてもらおうかしら。
どうでもいいけど、蝙蝠って一日19時間近く寝るらしいの!一日の大半眠ってるわよね。何て時間の無駄遣いなのかしら。
私はその小さな窪みに体を捻じ込むと、すぐに目を閉じて体を休めることにした。
眠りに落ちた私は、なんだか不思議な夢を見た。
それは何かに呼ばれているような、そんな夢。
誰に、どこに呼ばれてるのか、具体的なことは分からなかったけど、なんとなくこの洞窟の奥の奥から呼ばれているような、そんな気がした。
そういえば、ここはどこまで続いているんだろう。
出口はどこかにあるのだろうか。
目を覚ました私はそんな疑問に突き動かされ、どうせならこの洞窟の一番奥か出口に出るまで進んでみようと思った。そう、どうせ私はハグレモノ。帰る場所があるわけでもない。どこか落ち着ける場所を見つけたら、そこに腰を落ち着けてもいいし、とにかく今は進んでみようと。
そんな決意(?)を胸に、私はこの洞窟の奥へどんどん進んでいった。
暫くすると、私は気づいた。この洞窟めっちゃ広い。全然先が見えないの。私のスペシャル超音波を使ったエコーロケーションでも全然先が分からない。
しかも奥に進むと今まで見たことのなかった生き物といっぱい出会う。例えばブヨブヨした生き物なのか良く分からない物体。今も岩壁に張り付いてプルプル体を震わせてるの。あれかしら、スライム的な?
あんまり動かない様だから何匹かいただいたのだけれど、色によって味が全然違うのね!総じて全部まずかったけど!
でもね、そんな良く分からない奴らでもキラキラした石を体に持ってた。私はそれを食べる度に成長していったわ。今では安全に食べれる主食的な位置づけね。
いや、本当に何なのかしらこの石。今ではとっても早く飛べるようになったし、衝撃波もいい感じ!今ならあの大きな蛇でもイチコロな気がするわ!!
そうしてどんどん調子良く奥へ奥へと進んでいくと、突然視界が開ける場所に出た。そこは何というか、今までとは全く異なる景色だった。それはもう本当に。
なにせ、薄暗い石壁の洞窟の姿はそこを境界に切れてしまい、その先には深い深い霧の森が広がっているの。
一瞬洞窟の出口に辿り着いたのかとも思ったのだけれど、どうやらそれは違うみたい。私の感覚が、まだここは洞窟の中だと教えているわ。
うっすらと霧が漂う洞窟内の森。背の低い枯れた木々が疎らに生えていて、時折枝には紫の丸い実をつけているものも見かけたりする。うん、意味が分からないわね。
うっすらとはいえ、霧の視界不良も中々のもので、数十メートル先はもう霧で真っ白。まぁ、私は視覚にあまり頼らないからいいけれど、時折霧の向こうで得体のしれない影が動いたり、妙な声が聞こえたり……、一言でいえば凄く不気味。
でも、私はここで戻ることは選ばなかった。
御大層な理由はなかったけど、好奇心が勝ったのだわ。
さて、一体この先には何があるのかしら?まだまだ進んでいきましょう。