029 ニコさんとフィズィさん4
「全く、酷い目に遭ったわ!!」
意外にも回復が早かったのはニコさんの方でした。
まともに喋れもしない状態から、5分程で若干違和感が残る程度まで回復したのは驚異的でしょう。
日の光で焼けた肌はまだ痛みますが、幸い焼かれたのは羽だけでしたし、もうほとんど治っていると言っても過言ではありません。
どうせ普段は隠してしまいますし、外から見えることもありません。
「嬢ちゃんよ、こいつぁどうする?」
倒れていた二人を見て一時は慌てていたアルガスさんでしたが、今は状況も把握して落ち着いていました。
因みにこいつと言うのは勿論未だ倒れているフィズィさんです。
ニコさんはフィズィさんを一瞥すると、「ほっとくに決まっているわ!起きたらまた面倒だもの」と一言冷たく一言、カランコロンとフィズィさんに背を向けました。
そして村へ戻ろうと一歩踏みだせば急に足を掴まれベシャリと地面にダイブしたのです。
「おい、待てよこの野郎」
「うぅ、野郎じゃないわよこの野郎」
足を掴んだのは目を覚ましたフィズィさんでした。
歩き始めようとした人の足を掴むのは非常に危険なので真似をしないでください。
「ヒヒ、誰が逃がすって言ったよぉ。…と言ってもまだ体に上手く力が入らねぇんだがよ」
「じゃあ大人しく寝てなさいよ!」
ニコさんが起き上がろうとすると、フィズィさんが再び足を引っ張ります。
起き上がれずに再びべシャリとうつ伏せに倒れたニコさんは「何すんのよ!!?」と若干涙目です。
アルガスさんは、いきなり始まった喜劇に笑ったらいいのか助けたらいいのかオロオロと挙動不審になっていました。
フィズィさんは「ヒヒヒ」とニコさんに話しかけます。
「まぁ話でもしようじゃねぇか、キョーダイ」
「あたしに話すことなんかないわよ!!」
ニコさんはにべもありません。
しかしフィズィさんはお構いなし、Going my wayです。
もしかしたらwayの部分はウェーイwwwかもしれません。
「テメェに無くても俺にはあるのさ。俺もお前の旅に連れてけってんだよ」
「はぁ!?」
急な申し出にニコさんは素っ頓狂な声を上げました。
そして、何となく縋る様にアルガスさんに目を向ければ彼は困ったように頭をガシガシやっていました。
この男、優柔不断ですね。
「お前、ネロにフラウって奴を連れて来いって言われたんだろ?俺も連れてけ」
「…何が目的よ」
「別に、その方が面白そうだと思っただけだ。アビスの時も、お前に付いて行ったら面白いことになったしな」
「ヒヒヒ」と笑うフィズィさん。
まぁ、面白いっていうのは何事に対しても最も強い行動理由なのかもしれませんが、ニコさんにとっては物凄く勝手な理由です。
ベシャリと倒れたまま地面をバンバン叩いて憤慨しています。
「私は知らないわよ!アンタが勝手に付いてきたんでしょう!?」
「それはそうだがよ、ここで撒いても俺はお前の後を追うぜ?」
「ストーカーじゃない!!」
ニコさんは叫びました。
仰る通り、それはただのストーカーです。
「ただとは言わねぇ。偶にならお前に血を吸われてやってもいいぜ。そこの人間だけじゃ足りねぇだろうが」
「別にアルガスから血を吸ったことなんてないわよ!」
「あ?テメェ吸血鬼だろう?腹減らねぇのかよ」
ニコさんの言葉にフィズィさんはとても不思議そうな顔をしました。
確かに、血を吸わない吸血鬼と言うのは不思議な存在です。
「別に血ばっかのんでないわよ!むしろさっきが初めてよ!普通にご飯食べるわよ!!」
「あぁ?!じゃあテメェ、もしかしてさっき俺の血を吸うまで血を吸ったことなかったのかよ!!?」
「…吸血鬼になってからはそうね」
「ッカァ!!マジかよテメェ、まだ半人前じゃねぇか!!」
「なんの話よ!!?」
何だか馬鹿にされた気配を感じたニコさん。
アルガスさんは、この地面に転がってギャーギャー騒いでいるモノが生きる災害かと思うと、何となく微妙な気持ちになりました。
「テメェ、自分のことも何も知らねぇのかよ。マジで馬鹿じゃねぇか?吸血鬼が血を吸うってのは、そのまま力を取り込むって事だ」
「へー!」
「他者の血を取り込めば取り込むほど成長するバケモンだ。長い時間取り込まなけりゃ、吸血鬼としての格も下がる」
「ほーん!」
「テメェがオレの毒からあっさり復活してやがんのは、オレの血を吸ったからだ。それがなけりゃ、1日はマトモに動けねぇ。ただの人間程度なら100回は死んでる毒だぜ?」
「ふーん!ご高説どうも!…アンタ、なんでそんなに詳しいのよ」
ニコさんがちょっと不貞腐れています。
自分の事を何も知らないで、他人の方が詳しいというのもちょっと腹の立つモノなのでしょう。
「ある程度はネロに聞いた。まぁアイツは大した事言わなかったがよ。どっちかって言や、大陸互助組合とか言うところで人間共がギャンギャン騒ぎやがったからな、そんなにヤベェのか訊いてみたんだよ。そしたらあいつら可哀想に、始祖って聞いて顔を真っ青にしてやがった!」
フィズィさんはその当時を思い出してか「ヒヒヒ」と意地悪く嗤いました。
「始祖ってのは本当の意味での吸血鬼だ。今地上にいる吸血鬼とは訳が違うんだとよ。奴らは皆始祖が血を分けた眷属か、それ以下だからな!そいつらですら、ただ生きて血を啜るだけでシルバーランクのパーティに匹敵するバケモンって話だ!シルバーランクがどの程度か知らねぇが、ソイツの何もかもを鼻で嗤って蹂躙できる力をもってんのが始祖、つまりテメェなんだよ!」
「何よ私めっちゃ強いじゃない!!」
何となくニコさんはアルガスさんの方を向きました。
アルガスさんはいつの間にかシガレットに火を着けてプカプカ紫煙を燻らせていました。
とりあえずこのやり取りが終わるのを待とうというスタンスですね。
そんなアルガスさんにニコさんはちょっとイラっとしました。
「煙草吸ってんじゃねぇわよ!!」
「おお、スマン。なんか、割り込むのもアレかと思ってな。というかな、嬢ちゃんとジャレあえるような輩を俺にどうにか出来るわけないだろう」
「何でそんな情けないことちょっと偉そうに言ってんのよ!!てかジャレてないわよ!!」
アルガスさんは素知らぬ顔で「ふぅーッ」と煙を吐けば、フィズィさんが「ヒャヒャヒャ」と笑います。
「面白れぇなこの人間。おい、そこのアルガスっつったか?俺を背負って歩く権利をやる。村まで運べ」
「めっちゃ偉そうね!!よし、アルガス!その毒蛇迷宮に捨てて来なさい!」
どっちの要求も無茶苦茶です。
アルガスさんは煙をプカプカ燻らせると言いました。
「なぁ、先帰っていいか?」
「「駄目に決まってんだろ(でしょ)!!」」
実はこの二人息が合うのでしょうか。
この後も暫くギャーギャーとやっていましたが、最終的にはアルガスさんの「嬢ちゃん、もう諦めた方がいいんじゃね?」という適当な一言により、なし崩し的にフィズィさんの同行が決定したのでした。
フィズィさんはちょっと口が悪いけど本当に良く笑う蛇ですから、これからの旅が笑いの絶えない旅になると素敵ですよね。
きっと素敵だと思います。




