028 ニコさんとフィズィさん3
フィズィさんは周囲の魔素を一気にその身に取り込んで自分の魔力としました。
魔素の濃度が急激に濃くなったフィズィさんの周りは、アルガスさんの目から見てもまるで空間が歪んでいるように錯覚する程です。
ニコさんの目には青黒いオーラがフィズィさんの周りで揺らめいているように見えていました。
「さぁ、ヤろうぜ!!出ろ、―――九頭竜、八咫蛟ィ!!!」
「げっ!?ちょっと待ちなさいよ!!」
フィズィさんの咆哮で青黒いオーラは現象として顕現しました。
水の大蛇となり、九つの頭がその巨大な咢でニコさんに迫ります。
慌てたニコさんは咄嗟に上空に飛び上がりましたが、番傘が作る陰からはみ出した羽が陽光に焼かれてしまいました。
「ッ痛!!」
しかし、動きを止めるわけにはいきません。
そんなことをすればフィズィさんの蛇に喰いつかれてしまいます。
「オラオラァ!」
「うっとおしいわねぇ!!」
堪らずニコさんは後方へ飛び退り、そのまま村の外の森へとガサガサ入っていきました。
木々を縫う様に飛ぶニコさんは、なるべく影を伝う様に飛び回りましたがそれでも陽光からは逃れられません。
フィズィさんよりも日の光に煩わしさを感じてしまいます。
対してシュルシュルとまるで蛇が這うように走り、追いかけるフィズィさん。
水の大蛇はそこまで器用に進めず、木々にぶつかって形を維持できずに水に還るモノもあれば、細い木など薙ぎ倒して進むモノもありました。
「あんまりやりたく無いけど仕方ないわね!!消し飛びなさい!NCライフル!!」
ニコさんは大きな木の枝の上に着地すると、番傘を閉じてその石突きを後ろを走るフィズィさんに向けました。
そして番傘の先に周囲の魔素を収斂させると、一気に解き放つ「ニコちゃんキャノン」のイメージで魔法を行使しました。
普通に今まで通り口から出せばいいじゃん。とも思いますが、そこはニコさんも「アレはなんか、そう!見た目がアレよ!」と密かに魔法で再現させる方法を考えていたのです。
「ッチィ!!あんだそりゃ!?」
真っ白い光が一筋の尾を引き、フィズィさんの横を掠めました。
次の瞬間、フィズィさんのすぐ後で轟音が鳴り響きました。
爆発が辺りの木々を薙ぎ倒してクレーターを作ります。
完全に環境破壊です。
そして爆風がフィズィさんを前方へ吹き飛ばし、ニコさんはフィズィさんの方へと一気に飛びだしました。
手には煙管を持って振りかぶっています。
「ヒヒッ!」
「いらっしゃーい!!」
ニコさんはフィズィさんの頭目掛けて煙管を振り抜きましたが、フィズィさんは空中で体を捻って硬そうなブーツで迎え撃ちます。
ニコさんの手には硬質な手ごたえが返り、「かったいわねぇ!!」と悪態をつきました。
やっぱり硬かったようです。
空中で一合打ち合うと、ニコさんはそのままニコさんは木の枝の上に、フィズィさんは地面に着地しました。
「ヒャハハ!!どうした、そんなモンかよ!?!」
「うるさいわね!!」
フィズィさんが吠えると再び九つの大蛇が現れニコさんを襲います。
対してニコさんは再び番傘をフィズィさんに向けると再度NCライフルを打ち出します。
すると九つの頭がフィズィさんを護る様に密集し、ニコさんが放った白い光を遮り爆発を起こしました。
「ヒャハ!!アブねぇモンをポンポンとぶっ放しやがって!!」
見たところそれなりに魔力を喰いそうな一撃をそうポンポン連発されてはフィズィさんも冷や汗ものです。
それを言うならフィズィさんの八咫蛟もそうなのですが。
何とか相殺に持ち込めて一安心したフィズィさんでしたが、ニコさんはその一撃は防がれることを前提に撃ったモノでした。
ニコさんの本命はいつの間にか手に持っていた棍棒。
まるで鬼が持つ金棒の様で、棘がゴツゴツ付いた1m以上はある大きなモノでした。
先程の焼き増しの様にフィズィさんへとすっ飛んでいくニコさん。
獲物が小さくて駄目なら大きくすればいいという安直な発想です。
コレにはフィズィさんもビックリです。
「うぉぉぉ!!?鬼に金棒かよ!!」
「喰らえ必殺!!バイオレンス★ゴリラァァァッ!!!!!」
一応説明しましょう。
必殺バイオレンス★ゴリラとは、ただ全力の威力で棒状の何かを水平、或いは斜めに振り抜き、必殺の一撃とする技です。
尚、躱された後のことは考えないため、躱されれば隙だらけという致命的な欠陥を持っています。
「甘ぇンだよォォ!!」
対してフィズィさんは迎え撃つようにニコさんの方へ飛び出すと、ギリギリのところで蛇の様にシュルリと狂気の一撃を避ければ、ニコさんをそのまま地面へと蹴り落とします。
金棒を外して「うなぁぁ」と体勢を崩したニコさんは、その蹴りをまともに喰らってしまいました。
「落ちろ!!」
「うがぁッ?!!ッカハ!!?」
勢いよく地面へと叩きつけられたニコさんはあまりの衝撃に一瞬呼吸が止まってしまう程でした。
別に衝撃でクレーターとかできたりはしませんけれど。
そしてフィズィさんはふわりと地面に着地すると、ゆっくりニコさんに近づきます。
ニコさん、絶対絶命です。
「ヒャハハ!!俺の勝ちだなオイ!!」
ニコさんは「うぅ…」と呻き声を上げるだけで、起き上がることが出来ません。
フィズィさんは舌なめずりすると、仰向けに倒れているニコに馬乗りになって首筋に噛みつきました。
フィズィさんの牙ば蛇の牙です。
傷口から神経毒を注入し、獲物の動きを毒で封じ込めるのです。
「ぎゃああああああああああ!!!!あああああああああああ!!?」
森にニコさんの絶叫が響きます。
しかしニコさんもまだ、敗けません。
フィズィの首筋に「ウガァッ!!」と噛みつき返すとジュルジュルと血を啜ります。
こちらは吸血鬼の牙ですね。
一見して毒のあるフィズィさんの方が有利な気もしますが、吸血鬼の吸血行為には快感が伴うという話があります。
これはこの世界の吸血鬼にも当てはまることで、吸血鬼としての格が高ければ高い程その効果が高いと言われており、100年以上生きた始祖であれば相手を一瞬で虜にしてしまうと恐れられています。
「んんッ!?ンンンンンッ!?!ッッアハァ!!ッテメ!!?!ヤメッ!あぁぁッ!?」
「ングゥゥゥ!!!!フゥゥゥ!!」
ニコさんは吸血鬼となったは最近ですが、一応はこんなのでも始祖なのです。
一体どれほどの快楽がフィズィさんを襲っているのでしょうか。
とっても興味が湧くところですね。
フィズィさんの毒は十分にニコさんに注入されたのでしょうが、その快感のためかとうとうニコさんの首筋からフィズィさんの牙が離れてしまいました。
その後もニコさんが毒で完全に動けなくなるまでフィズィさんの嬌声が森に響き渡りました。
さて、お互いに首筋に噛みつきあうというこの奇妙な戦いの行く末は、一体どちらに軍配が上がったのでしょうか。
一人早々に置いて行かれてしまったアルガスさんが破壊後を追って二人の元へ辿り着くと、そこでは神経毒で麻痺して動けなくなったニコさんと、ニコさんに覆いかぶさって失神しているフィズィさんの姿がありました。
この場合は多分引き分けということになりそうですね。
二人の決着が着く日来るのでしょうか。




